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咲け神風のアインヘリア:皇国の防人達よ異界の声を聞け  作者: 神宅 真言
第一章:不機嫌続きのバースディ
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五百円玉と、追う背中



今回で第一章は完結となります。


さてオススメBGMというか、一章の最後なのでエンディングテーマ曲という感じで。

小林太郎『花音』

をお薦めしておきます。


それではどうぞ、お楽しみ下さい。





  *


 丁寧な謝罪──そんなカラハの行動に、教授は少しだけ訝しむ。


「何故謝る? 何を謝る? それをはっきりしてくれないと、謝罪は受け取りかねるな」


 教授の問いに、カラハは頭を下げたまま言葉を紡ぐ。その口調はいつもよりも落ち着いて、驚く程に丁寧で。酷く冷静なトーンの謝罪に、皆が息を飲む。


「──言葉尻に気を取られ、冷静さを欠きました。喧嘩腰で噛み付き、礼節を欠きました。俺の発言で皆の心を乱し、部の空気を悪くしました。ひとえに、俺の精魂の至らなさが招いた事です」


 静かなカラハの言説に、誰もが言葉を失った。いや、教授だけは反応した。笑いを消してカラハに向き直る。


「何故、謝る気になった」


「ナユタのお陰ッス。自分の為に必死で喋るナユタの姿で、俺は冷静さを取り戻せた」


 そしてカラハは頭を上げた。罰が悪そうに少し目線をずらすカラハの姿に、教授は鼻を鳴らした。


「はっ、お前の入部を認めてやる、皆に感謝するんだな。だがあれだけ大口叩いたんだ、個人的に許さないから覚えておけ」


「教授、戯れが過ぎますよ。器が小さく見えるからそういう言い方はどうかと思います」


 捨て台詞めいた脅しをレイアにたしなめられて、教授は肩を竦めた。おもむろに立ち上がると、ポケットをまさぐり数枚のコインを机に落とす。


「──私はそろそろ行かねばならん。これは私からの差し入れだ、下の自販機で茶でも買って親交を温めるといい」


 そして悠然と出口へと向かう教授に、皆が口々に謝意を述べた。扉を開けて振り向いた教授が片手を挙げる。


「それでは失礼する」


「お疲れ様でした!」「しゃーっした!」「お疲れ様です」「ありがとうございました」


 揃わない皆の挨拶に苦笑しながら、教授は扉を閉めた。堂々とした靴音が段々と遠ざかってゆく。


 足音が聞こえなくなってから数秒。──皆が示し合わせたように一斉に、大きな溜息を吐いた。


「つ、疲れたっす……」


 ぼそりと呟いたライジンの言葉が、皆の気持ちを代弁していた。


  *


「……さっきはありがとな」


 クラブハウスの中央階段下、一階の自動販売機で皆の分のジュースを買いながら、カラハはぼそりと呟いた。


「改めて礼なんて要らないから」


 カラハの取り出すジュースを袋に詰めながらナユタは返す。手際良く機会にコインを投入するカラハの仕草に、ナユタはふと首を傾げた。


「そういえば教授、何で千円札じゃなくて五百円玉なんだろ。いつもそうなんだけどさ」


「ああ、そりゃここの自販機がコインしか使えねェって知ってるからだろ」


「えっ」


 驚くナユタに、何でも無い事のようにカラハは笑う。


「あの人、ああ見えて結構気配り凄ェっていうか。ありゃツンデレの域だな」


「……マジで」


 最後の一本を受け取りながら真顔になるナユタに、カラハは声を挙げて笑う。


「さ、戻ろうぜ」


 二つある袋の片方を当然のようにひょいと掴むと、カラハはトントンと階段を上がってゆく。その背中を見上げながら、ナユタは階段を登り始める。


 ──僕は、あの背中に追い付けるんだろうか。僕よりも圧倒的な力を秘めた彼に……。ふと浮かんだ疑問に袋を握る手は固く拳を作り、無意識にナユタは唇を噛む。


 それでも、いやそれだからこそ──浮かんだ疑念を打ち消すように、ナユタは階段を駆け上がる。踊り場で追い付き肩を並べたカラハが、空いた左手でナユタの背を叩いた。


「──これからも宜しくな、『相棒』」


 カラハの手の平は熱くて、強張った心が溶かされていくようで。ナユタは噛んだ唇を、握った拳を人知れず綻ばせる。


 偶然から始まった共闘、成り行きで組んだ相棒の筈だった。──しかし二人の間にはもう、確かな絆が芽生え始めていた。


 だからナユタは少し照れながらも、はにかんだ笑顔をカラハに、『相棒』に向け、そして改めて言葉を紡ぐ。


「……こっちこそ。今後とも宜しく、『相棒』」


 二人は廊下を並んで歩きながら、顔を見合わせてハハッと笑った。


  *





これで第一章、無事終了となります。

零章と合わせて十万字越えとなりました。

お読み頂いて感謝感謝です。


これからキャラ紹介などの設定資料紹介のページ、それと幕間の短い話を幾つか経て、二章に入る予定です。

今後ともお付き合い頂ければ幸いです。


また、気が向きましたら★やブックマーク、感想、レビューなどで応援頂けると嬉しいです。

よろしくお願い致します。




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