呪い2日目
本日2話目
3日以内の呪いの2日目
「おはようございます、マイロード」
「・・・ツバキか」
ライが目覚めると、傍らにはツバキが立っていた。凛としたたたずまいで、ちょっと纏っている冷気が朝起きるには心地よい感じである。
「紅桜は?」
「今のところその腰にくっついている以外は動く気配なしね」
見ると、腰の方に紅桜が転がっていた。
服を着替えて・・・ここで見張るのはワゼである。うん、今思春期だし恥ずかし。
何時もの通り朝食を取ろうとしてふとある姿を見かけた。
「・・・なんでハクロがあたまから水樽に突っ込んでいるの?」
死んでないよね?
「・・・・役立たずと言うか、そんな感じだったからタバスコを口の中に突っ込んだ」
ヤタが自白した。ハクロが役立たずって何をしたんだろうか?
そして理解した。ハクロはどうやらあまりの辛さに水樽に頭を突っ込んでそのまま気絶したようである。
「一応、アラクネの蜘蛛の部分がないとはいえ、呼吸器官はどこかにあるようじゃからな溺死しておらんようじゃな」
「あー、それならよかった・・・・のかな?」
少なくとも無事ではないように見える。
「ぷはっ・・・・おはようございますライ様」
「あ、生きていた」
普通にハクロが起きたので、とりあえず無事だったのはわかった。と言うか何をしてタバスコを突っ込まれたのだろうか?
「ヤタ!!いくら何でも口にタバスコはひどいですよ!!」
「・・・・我が君がその寝ている間に死んでもよかったと?」
「・・いえ、嫌ですけど」
「・・・だったら寝ている人にいう口は?」
「ないです・・・・」
ヤタにハクロが反論したが、速攻で抑え込まれた。
なんか、冒険者用学校以来の久々の二人の喧嘩風景だな・・・・・。
「まあ、1日目は乗り切ったし、後は今日と明日か」
「紅桜もいつの間にかまたライ様の腰にありますからね」
つけた覚えはないのに、いつの間にか紅桜が僕に装備されている。
「調査をしてみましたが、夜中が一番あぶないそうデス」
ワゼはどうやら大量の紅桜についての情報を入手したようで、真夜中に死亡していることが多いという結論が出たようだ。
・・・・どこから本当にそれだけの情報を得ているのだろうか。ミニワゼ諜報部隊なるものを作ったらしく、そこからだとしても・・・・・・メイドって本当に何だろう。
「鎧を着こんでも隙間からどういうわけか刺さっていたり、丈夫な服を着てもその内側にいつの間にか潜り込んで刺していたりと様々デス」
ハクロの糸で全身かくしてと言うことも考えてはいたが、それもどうやらダメのようである。
「そもそも、紅桜に魅入られた時点であきらめと言う声も多いのですが・・・・成り立ちがひっかかるんですヨネ」
ワゼがどことなく複雑な表情をした。
「紅桜の成り立ちまで調べたのか?」
「ええ、被害者の足跡をたどっていくと、最初の1件目からですが・・・・・この1件だけは死に方が違うんデス」
紅桜の所有者となると、3日以内に紅桜自身によって刺されて死ぬという呪いだが、この最初の1件目だけがどうやら事情が違うらしい。
「どういうことだ?」
「その死に方はですね・・・・紅桜が刺したのではなく、紅桜で自殺したというモノでした」
その人は、紅桜を製作したとある高名な刀鍛冶をしていた人物らしい。
自身の命を懸けて、生涯の最高傑作として、最後の作品として作り上げたのが、この小刀である「紅桜」だったそうだ。
けど、その刀鍛冶の人はこの紅桜の出来が余りにも出来過ぎて、まるで命を持ってしまったかのように感じたらしい。
そして、命ある武器ならば、この武器にふさわしいような人を求めたそうである。
しかし、その人がいくら探しても自分が求めるような紅桜を所有するにふさわしい人はいなかったらしい。
「・・・・そして、紅桜を製作する際に命を削っていたらしく、晩年はもう身動き一つすらできな方そうデス」
その最後の名作でらう紅桜を求める人は多かった。
しかし、刀鍛冶のその人は誰もこの刀にふさわしくないと思い・・・・・・そして、今自分が生きている間には見つけられないだろうと思って、その紅桜で自殺して命を絶ったそうだ。
それからというモノ、紅桜は人の手を転々としながらも、3日以内に死をもたらしたという・・・・。
「まるで、その刀鍛冶の人の遺志を継ぐかのように、自分にふさわしい主を求めて・・・・」
ワゼが語り終えると、僕らはシンと黙り込んだ。
話が思っていた以上に重い。
「紅桜が3日以内に死をもたらすのは・・・ふさわしい主と思われなかったということですかね
ハクロがそうつぶやき、全員その可能性を思いつく。
その可能性があるだけに・・・・・・・・
「と言うことはライが其のふさわしい主ではないと思われたら」
「そこで THE END じゃな」
「なぜそんな言い方…?」
アルテミスのその言い方にツッコミを入れつつも、対処方が思い浮かんだ。
「だったら、この紅桜を使うにふさわしいと思われれば死を免れることだできるのか?」
「その可能性はありそうじゃが・・・・何が基準かのぅ?」
その基準が分からない。
これまでに所有して死んでいった人たちの中には剣豪とか、小刀の扱いに長けた人もいるようだが・・・・・それでも死んでしまっていることから、腕前だけが基準ではないようである。
「となると・・・所有者の本質を見ているのだとか?」
・・・・うん、その本質の基準もわからないな。
「とにもかくにも、どうにかして紅桜に主としてふさわしいと思われればいいんですよね?」
「何かいい案でも?」
「実際に使ってみるというのはどうでしょうか?」
「実際にか」
『なので、刀では傷つかない防御を持つ拙者が相手をするぜよ!』
とりあえず、まずは実際に紅桜を使うことにしてみたが、戦う相手はどうするかの議論となった。
そこで、相手になってくれるのが、鉄壁の防御力を持つミミックのエリーである。
一応、彼女たちに万が一でもあって怪我させたら嫌だという想いもあったし・・・・。
「もうはっきり言って魔法とかでも無敵レベルの防御のエリーなら、ガンガンやっても大丈夫と言うわけか」
エリーの防御力は正直言って、とんでもない。
普通のミミックはそこまでの防御力はないそうだが、まあエリーはエリーで変わっている感じだしね。そもそも人の姿になるミミックとはこれいかに。
「それじゃ、いくよ?」
こくこくと、ミミックの姿に瞬時に戻ったエリーがうなずく。
正直な話し、斬りかかりたくないんですけど。
ともかく実際に扱って見ないことにはわからないので振りかぶる。
「えいっ!」
キィンッツ!!
紅桜の刃はエリーに金属音と共に防がれ、
ザクッ!!
「へ?」
「「「「え?」」」」
・・・・エリーの体に斬りかかれたけど、中途半端につまった。
『あと数センチで皮膚到達していたぜよ・・・』
「エリーも無敵の防御じゃないってわかったけど、紅桜の切れ味もすごすぎるだろ・・・」
蒼い顔になりつつも、ちょっと衣服が切り裂かれているエリーがコメントをし、僕らは紅桜の切れ味に驚愕した。
「まさかエリーの身体をも切り裂けそうになるなんて・・」
「・・・でも、結局硬さに負けている」
「それでもすごいわね。この紅桜って」
全員それぞれのコメントが出るけど、扱った僕自身も驚きだよ。
「紅桜の切れ味ですが、はっきり言ってすごすぎマス。本当に心血寿命を注がれて作られた刀と賞賛すべきですかネ」
ワゼも驚いているし、まさかここまでのモノとは思わなかった。
「でも、エリーの防御力に慢心しかけていたところで引き締めが入ったからよかったかもね」
「そのあたりはよかったでありますよ。危うくというか、無茶な行動にも走る前に確かめられたでありますしな」
・・・というか、これで刺されたらもう死ぬのがほぼ確定である。
「と言うわけで、2日目の今晩は2人体制デス」
ライのベッドの横には、ワゼとアルテミスがいた。
「ちなみに、我等の後はヤタ&ロウ、ルミナス&エリー、スルト&ツバキ、リーゼ&ミアンじゃよ」
「・・・あれ、ハクロは?」
アルテミスが言った組み合わせの中に、ハクロがいないことに疑問を持つんだけど・・・
「ハクロでしたら、昨晩ご主人様と熟睡してしまっていたので、今晩はこの際いったん熟睡してもらい、明日ほぼ寝ずの番にしてもらってマス」
「主殿に抱き着いて寝ていたのじゃからな。うらやま・・もとい、与えられた命令をこなしてなかったからのぅ」
今何か言いかけなかった?
とにもかくにも、今夜もアルテミスの睡眠薬による強制睡眠であった。
いや本当にそれ副作用ないよね?使っているこっちからしてみれば不安が出てきているんだけど・・・・。
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すやぁ・・・と寝たライのベッドの横に、アルテミスとワゼが立って、紅桜を見張る。
「・・・アルテミス、内心昨日のハクロがうらやましいと思っていますネ?」
「・・・まぁ、そうじゃな。我も主殿を抱きしめて寝たいのじゃ」
ワゼの唐突な質問に、アルテミスは冷静に答えを返した。
でも、ワゼはその答えの中で見抜く。一瞬だが動揺したっぽい動作があったことに気が付いたのだ。
「アルテミスも、ハクロ同様にご主人様が好きなんですネ」
「・・・そうじゃな。まあ、なんというべきか、そういうことじゃ」
ワゼのその言葉に、アルテミスはごまかすわけでもなく正直に話した。
最初、従魔になった時は惹かれてだったが、徐々に恋心と言うのを自覚してきたのである。
「・・・我ら従魔は、惹かれて主殿の配下になっておる。じゃが、主殿は我らの扱いをモンスターとしてもしもべとしてでもなく家族のように扱ってくれておるのじゃ。その心に我らの心が惹かれぬじゃろうか?いや、惹かれるじゃろう」
・・・できれば、自分たちをもっと深く求めてほしい。従魔契約と言うつながりだけではなくて、もっとその奥深くまでという想いは、ライの従魔たち全員に共通しているだろうとアルテミスは感じていた。
自身も含めて、いつの間にかライに対してもっと求めてほしいという想いが皆に出来ているのである。
「じゃが、そうやすやすと我らは主殿と契りをかわせぬ。モンスターと人間、互いに交わったところで何が出来ようか?生まれるのは、そのモンスターの子、つまりは同族じゃよ」
そこが、アルテミスやハクロ、ライの従魔に全員共通して踏み出せない原因でもある。
モンスターと人が交わたところで、生まれる子供はモンスターである。
そのモンスターが従魔になるという可能性もないし、人を襲わないという保証はない。
その恐怖があるからこそ、皆踏み出せないのだ。
「・・・ルミナスも似たようなものですネ」
以前、同様の質問をワゼはルミナスにしたことがあった。
その時返ってきた答えは、ルミナスもライに対して好意を抱いているというモノだ。
ルミナスはハーフダークエルフであり、仮にライとの間に子供が生まれたとしてもその子供は人間か、クォーターダークエルフであってモンスターではない。
だが、ルミナス自身が持つ「魅了の魔眼」が問題になる。
遺伝とかするのかは不確定だし、なくてもその可能性があると考えるだけで不安でこちらも進めないのだ。
「ン?でも、アルテミス、聞いてみてもいいでしょうか?」
「何じゃ?」
ふと、ワゼはあることが気になった。
「子供がモンスターになるのを恐れるというのであれば・・・・モンスターではなくなる薬とかは作れないのですか?」
「無理じゃな。前例もないような薬の上に、子を宿している最中、もしくはその前後で薬の使用は避けたいのじゃ」
「その答えは予想できましたが・・・・それならば、そもそも交わっても子をなさないような薬は?」
「・・・・・・・・・・・」
そのワゼの質問に、アルテミスは・・・・
「あれ?そんな解決法があったのかのぅ・・・・・?」
思いつかなかった自分に対して、しばし考えこんでいたのであった。
実はそういうふうな薬は作製できたりする。
しかし、極力この話題は避けたい。なんかノクターンとかにひっかりそうで怖いんだよね・・・・。
まあ、出来たところで次のどうやってライに踏み込むかが問題にはなるが。
・・・なお、ビウイン教も暗躍中。ワゼも対応をこっそり練り中




