年明け前の大事件
とんでもない事件発生
もうそろそろ、ザストでは今年が終わりそうであった。
「あと数日ほどで、新年か・・・」
「今年もいろいろありましたからねぇ」
ずぞぞぞとうどんをすすりながら、自宅でライたちは朝食をとっていた。
なぜ朝食にうどんと思ったが、今朝は妙に冷え込んでいたのでなっとくかもしれない。
「そう言った年の概念は人だけじゃがな」
「そうそう、我輩たちはそう言ったものは気にしてないのであります。・・・七味はどこでありますか?」
「はいこれ」
「ありがとうであります」
同じくうどんを食べながらアルテミスとミアン、リーゼはそう言った。
あと数日ほどはゆっくりしようと思い、ライたちは冒険者業を休業中であった。
一応、しばらくは大丈夫なほど資金は蓄えており、またアルテミスの薬の販売やスルトのマッサージ屋、ワゼのギルドからの給料もあるため収入はゼロではないのである。
「もう少し冷めたほうがいいかしらね」
「・・・ツバキ、それ冷めた違う。凍り付いているって」
雪女であるツバキは熱い料理が苦手らしく、冷気をコントロールしてうどんを冷ましていたが、凍り付いているのを見てヤタはツッコミを入れた。
「モキュ、モキュ・・」
ロウはうどんそのものを取り込み、エリーはミミックの状態で丸のみしたようである。
「あれ?そういえばハクロは?」
ふと、この皆が朝食をとっている場にハクロが来ていないことにライは気が付いた。
いつもならいるはずなのだが、さっき見たらハクロの席にはうどんだけしかない。
「ハクロですカ?そういえば・・・部屋から出てませんネ」
ワゼが気が付いたかのように首を傾げ、ハクロがどうも部屋から出てきていないことに皆気が付いた。
寝坊かとおもったが、気になるのでライはハクロの部屋に行くことにした。
コンコン
「ハクロ、起きているか?」
ノックしてみたけど・・・返事がない。
ちょっと扉に耳を当ててみ、
「へぇふぁぁぁぁぁっ!?」
・・・・なんか悲鳴が聞こえた。
「ハクロどうしたの!?」
慌てて扉を開けようとするが、鍵がかかっているので開かない。
「どうしたんじゃ!!」
アルテミスたちが先ほどのハクロの悲鳴が聞こえたようで、全員来た。
「誰でもいいからハクロの部屋の扉をぶち破ってくれ!悲鳴が聞こえた!!」
「了解であります!!」
すばやくミアンがこぶしを扉にたたきつけた。
その途端、扉がみごとに部屋の中へと吹っ飛ぶ。
「ハクロ!!」
すぐ後に僕らが部屋に飛び込んだとき、ハクロの姿はそこにあった・・・けど。
部屋に吊るされているハンモックから降りてきているのはわかる。
だけど、ハクロの姿がいつもと違っていた。
ハクロの顔や手とかは変わってない。
そのあたりは別にいい。
だが、問題は上半身ではなく・・・下半身。
ハクロの、アラクネたる蜘蛛の部分に異変が起きていた。
「へ・・・・・・?」
いつもなら、ハクロの下の方には見慣れた蜘蛛の身体があるはずだ。
だが、そこにはすらりと伸びた、綺麗な肌色の二本の足《、、、、》がそこにあった。
そう、蜘蛛の部分との接合部から抜けて、まるでもともとそこに人の足があったかのようになっていた。
そんでもって数秒後、素早く後ろにいたルミナスに目隠しをされた。
理由はすごく単純に、下半身だけ素っ裸であったからである。・・・・ごめん、ちょっと見えた。
そのすぐ後、僕は部屋からつまみ出されました。
なんでもハクロの下半身の蜘蛛の部分の消失により、何か異常がないか調べるためで、まあ尊厳的なものが理由でつまみ出されたわけです。
ついでに何か聞こえたらいろいろまずいとか言われて、とりあえず外へ出て、ギルドに居るはずのギルドマスターへ相談しに行くために走りました。
ギルドから、驚いた様子のギルドマスターを連れてきて家に帰ると、リビングに全員集合しており、そこにはもじもじとちゃんとスカートをはいたハクロがいた。
蜘蛛の下半身はないままだったけど・・・・・・。
どうも、何時もの自分とは違う姿なのが恥ずかしいらしい。
その姿を見て、ライは改めて驚き、ギルドマスターもハクロの何時もの姿を知っていただけに、顎が本当に外れるほど驚いた。
・・一応、話をするために、アルテミスがごきっつと顎を治しましてっと。
「さて・・・どういえばいのかのぅ」
問題の張本人であるハクロも悩み顔。
ワゼやアルテミスたちがいろいろ体の隅々を調べた結果、構造上多少の違いはあれども、ほとんど人と変わらない状態らしい。
ただ、蜘蛛の下半身からいきなり人の足へと変化したので、バランスがおかしくなって今はまだまともに歩くこともたつこともできないんだとか。
練習すれば、一応日常生活に支障はない状態へとなると推測はされるが・・・・どうしてこうなった。
「朝起きたら、なんかこうなっていたんですよね・・・」
ハクロ曰く、全く原因不明らしい。
そりゃそうだけどさ・・・・そういえば。
「ハクロ、朝起きたらとか言っていたけど、今日は起きるのが遅くなかった?」
「いつもと大体同じぐらいの時刻に寝てますよ?」
寝るのが遅かったのが原因かと思ったけど、何時もと同じぐらいの就寝か。
「ふむ・・・ハクロ姉様がこうなった原因はいくつか考えられますよ」
と、この中で最も知識が豊富なリーゼがいくつか考え付いたようである。
普段昼寝してばかりだけど、こういう時は頼もしく見える。
「次の例が挙げられますね」
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1:一晩で蜘蛛の身体の部分だけが腐り落ちて風化し、何やかんやで足が形成された。
2:もともと蜘蛛の部分と、今の身体が着脱可能。
3:モンスターとして、進化種へと変化した。
4:怪しい薬を飲んだ。
5:「人化の術」を取得し、無意識のうちに発動させているだけ。
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「1はないですよ!!しかも説明があやふやすぎませんか!!」
「2もないよね。しっかり接続部分の皮膚はつながっていたし・・・・・」
「4はないじゃろうな。そのようなものを・・・人になれる薬なら作れるものなら作って我が飲んで悪戯に使うのじゃ」
「5は・・・『人化の術』はリーゼが使っているものでっせ。でも、そんなことができるんかいな?」
エリーも人化の術で人の姿になれている疑惑があったが、リーゼ曰く全くの別物らしい。
で、ハクロの今の状態を見ても別物だとか。
「となると、3の進化種へとなったというのが一番可能性があるのかな?」
でも、ハクロってアラクネだよね。アラクネの進化種ってあったかな?
「確認されているものはあるね」
ギルドマスターがそう言った。
「あるんですか?」
「ああ、『アラクネサダリアン』というのがいるね。ただ、この世の物とは思えないレベルの恐ろしい姿らしい」
さすがにそんな姿はみたくないな・・・・。
「でも、下半身が人になっただけでほとんど変わってませんよ?」
「もう一つの可能性があるとすればなんだが・・・・・・こっちのほうがもしかするとあり得るのかな?」
ギルドマスターが考えこみ、もう一つの可能性を提示する。
「もともと、ハクロさんは普通のアラクネとは違っていたよね?」
「顔立ちがそうですかね」
普通のアラクネは顔がおぞましいものらしく、ハクロの顔は美人という類にはいると思う。
いや本当に、写真で見たけど同じ種族かと言いたくなった。
「つまり、ハクロさんは元から普通のアラクネとは違う・・・・上位種もしくは希少種の可能性があったんだ。目撃例から言うと、多分希少種にあたっていたんじゃないかな?」
そん可能性は前から言われていたけど・・・それがどうかしたのだろうか?
「モンスターについてはわかっていないことが多い。例えば、そこにいるロウちゃんの様な少女の姿をとるスライム、エリーさんの様なミミックから人の姿へと変わるモノなど様々だ」
そして、同様にモンスターの進化などについてもよくわかっていないことが多い。
最たる例として挙げられるのが、スライムである。
彼らは様々なスライムへと変化していくが、同様の環境でも違うスライムに進化したりするらしい。
「そして、ハクロさんも同じように、普通のアラクネとは違う進化を遂げたとしたら?」
・・・・人の姿になる可能性だってゼロではない。
だけど、モンスターが人の姿になるなってことはあるのだろうか・・・・って。
「そういえば、割とあるような・・・・」
スルトもその例かもしれない。
通常のボルトオーガであれば、スルトのような妖艶な美女と言った見た目ではなく、もうちょっと筋肉もりもりマッスルみたいな感じらしい。
また、雪女であるツバキのように最初から人型のモンスターもいるのだ。
あながち、ハクロが進化したとしたらほとんど人と同様になってもおかしくないのかもしれない。
ともかく、急にハクロがほぼ人と同じ体格となったことは年が終わる前の大事件であった・・・・・。
モンスターがなぜ人と変わらない姿になってしまったのか。
謎は次回へと続く!!




