暗躍のメイド 裏
表があれば、裏もある
短めですが・・・
ルーナス城にて、会議室で報告をプラント第1皇子とその他貴族たちが聞いていた。
「やっぱ計画通りにうまい事ことが運んだか」
「はっ、魔物使いライはどうやら、アラモズ山に生息していたモンスターを従魔にしたらしく、何か行ったのか頂上から濁流が流れてきて帝国軍を戦場から文字通り洗い流しました。ですが、追撃をしようと欲をかいた指揮官がおり、ぬかるんでいたため泥んこになる被害が多かった模様です」
アラモズ山のふもとの戦場での報告を聞いて、その場にいた全員がほくそ笑んだ。
「ふっふっふっふ、これで帝国軍は一時的に後退し、我が王国軍は帝国軍を押し返すことに成功したな」
「このまま何とか押していけば、わが国の勝利は間違いないです」
適当に選んだ下級貴族の子息に毒を盛り、そのライとかいう魔物使いに依頼が出されて、その薬草を取りに貸せるついでに何かしらのモンスターと共にアラモズ山で帝国軍を追い返す作戦であったが、ほとんど成功したようなものであった。
目論見と違った点と言えば、ちょっとライが従魔にしたモンスターが強力過ぎたことであるが・・・・。
「従魔にしたのは、どうやら諜報部隊によると幻獣種『雪女』です」
「アイスウルフリーダーや、スノウコングマンなどあたりかと思っていたが、まさか幻獣種をピンポイントで引き当てるとは・・・・そのライとかいう魔物使いはよっぽど運が良いな」
「ですが、今回の作戦がうまいこと言ったので良しとしましょう」
うんうんと全員がうなずく。
「しかし・・・そのライとかいう魔物使いの従魔はもう十分強力過ぎます。我が国に牙をむく前に始末したほうが良いのでは・・・・」
その場にいた貴族の一人が、そう意見を述べた。
確かに、ライとかいう魔物使いの従魔は強力なものが多い。危険性を考えると物凄く高い。
だが、
「始末し様にも、その従魔たちが確実に察知して防ぎ、こちらに物凄く重大な被害を与えてくるだろう。そんなことになったら目も当てられんよ」
「むしろ、依頼などでうまいこと誘導して、利用してやるのがいい手段だろう?」
始末をするのはいい手段ではない。
だから、ここは徹底的に使えるものは利用したほうがお得である。
「まあ、この者が王国に牙をむけば国家反逆罪などと言って指名手配して、冒険者たちに始末させる手段はあるがな」
いくら魔物使いで、その周囲の従魔たちが強力でも、所詮数にはかなうまいとその場にいた全員が高をくくっていた時であった。
「・・・・ほぅ、やはりご主人様を利用していたのですカ」
その場がいきなり何か冷たいものが背中を通ったような雰囲気になり、皆の背筋が凍り付くほど恐ろしく冷たい声が響いた。
「だ、誰だ!!」
プラントが叫ぶと、その声の人物はその場にまるで最初からいたかのように姿を現した。
メイド服を着ているが、その雰囲気はどことなく怖ろしい気配を纏っており、その耳は人の物でもない。
冷たい表情をしており、その目はまるで他の人を人とは思っていないように見ていた。
「私ですか?先ほどあなたたちの会話に出てきたご主人様にお仕えする『人型家事戦闘万能型魔人形魔道具MKS-02改良型』、通称ワゼ。以後お見知りおきヲ」
丁寧にお辞儀をしたが、その場の雰囲気が油断できない者へと変わる。
「し、侵入し、」
「ちょっと今は黙っていてくだサイ」
そうワゼとやらが言い放ち、腕を護衛をしていた兵士たちに向けると、一瞬で腕が何かの筒に変形し、兵士に向かって何かを放った。
「ぐぎゅうっ!?」
直撃した兵士はそのまま倒れて、気絶したようであった。
「・・・命は奪いまセン。今は『非殺傷性』のモードですカラ」
そうワゼが言うと、腕が元の形へと変形する。
非殺傷性というならば、殺傷性がある物になることも可能だとその場にいた全員が理解した。
そして、うかつに攻撃できないと本能的に察知した。
「・・・な、なぜメイドが来た」
プラントが震えながらも、しっかりはっきりと尋ねる。
まだ国王の座を受け継いではいないが、それでも度胸だけは育っていたのである。
「忠告にしに来たのですヨ」
あっさりとワゼはそう答えた。
「忠告だと・・・?」
「そうデス。我がご主人様を利用するような輩はつぶせと、私のメモリーにありますのでそれに従ってきたのデス。ですが、さすがにまだ殺生はいたしませんヨ。あくまで忠告だけですカラネ」
つまり、その忠告を破れば、ライとかいう魔物使いを利用するようであれば次は確実に殺しに来ると宣言しているようなものであった。
そのワゼから感じ取れるのは、物凄い威圧である。
「忠告というのは、簡単に言うとご主人・・・ライの戦争への利用デスネ。間接的、直接的手段どちらもやめていただきたいのデス」
どうやら、先ほどの内容がすべて聞かれていたらしい。
「・・・・一応、今のこの私の行動は独断行動であり、ご主人様に命じられたものではありまセン。ですが、ご主人様に対して報復するような真似をした場合もこちらが報復することができるケースにあたるので、そのあたりはよくご理解してくだサイ」
そう言い終わり、ワゼの姿はまた一瞬のうちに、今度はその場に最初からいなかったような状態へと戻るのであった。
この時、その場にいた者たちは理解した。
自分たちはもしかしたらあと一歩のところでこの世からチリ一つ残さず消し去られていたかもしれないということを・・・・。
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「・・・・さて、これがきちんとわかっていただければいいのですがネ」
ルーナス城を振り返り、ワゼはそうつぶやいた。
今日のこの行動は、ワゼ自身自ら選択した行動である。
魔道具である彼女だが、そのメモリには自身のご主人を守るようにプログラムされており、それを実行したのだ。
ザストからこの王都に来るまでは、彼女のフル稼働で1日程度であった。
「ふむ。ついでにちょっとここでもう少し用事を済ませますカネ」
そうワゼは言い、普段のメイドとしての仕事としての買い出しもついでに行い始めるのであった・・・・・。
最も最強なのは、このメイドではなかろうか?
自身の仕える相手のために、全力を尽くすワゼであった。




