吹雪の出会い
雪山に遭難すると大抵そういう話になるけどなんでだろうか?
本日2話目です
ライが吹雪の中、カマクラ内で窒息死みたいな理由で死にかけていた時であった。
「こちらが、第三重要書類で・・・ン?」
ギシッ
バサバサァッ
「どうしたんだ?書類を落とすなんてミスなんて珍しいじゃないか」
ザストのギルドにて、ワゼが仕事の書類をギルドマスターであるアーガレストに渡そうとしたとたん、一瞬動きが止まって、書類を全て床に落としてしまったのである。
ワゼらしくないその失敗に、アーガレストは疑問の声を上げたが、ワゼは何やら難しい顔をしていた。
「稼働に不具合発生。供給回路の受信魔力が一時的に停止した模様。再開されましたが、乱れにより再稼動をいたしました」
「・・・ってことはライ君たちの身に何かあったのかな?」
「そのようだと思われマス。ですが、供給が再開されたので死んではいないようデス」
ワゼはライからの魔力をもとに稼働している。
一度供給を受ければ長期間普通に稼働し続けるのだが、念のために安全確認を兼ねて微弱なつながりをこっそり構築していたようなのだ。
もし、ライの命が危うくなれば自身の不具合で大体の状況が推測も可能だからである。
「現在、ミニワゼとの通信も不安定でしたが、復旧したようで送られてきたデータによると天候に影響されたようデス」
「吹雪にでもあって遭難したのか?」
「恐らくその可能性はありますが、もう止んでいるようデス」
なんとなく、嫌な予感がその場を横切ったのであった・・・・
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「・・・・うーん・・・」
「ライ様、気が付きましたか?」
「あれ・・・何があったけ?」
頭がはっきりしない中、ライは気絶から覚めた。
そして、少々考え込んだ後、何があったのかありありと思い出す。
「あー・・・窒息死しかけたんだっけ」
柔らかい感触がまだ顔に残っているようで、なんとなく思春期が近づいてきているライにとってはそことなく恥ずかしい。
皆を見ると、全員冷静さを戻したのかきちんと服を着直していた。
「・・・また窒息させるところでした」
ヤタが落ち込みながらそう言う。
彼女には前科があるからなぁ・・・・・。
「まあ、ともかくこうして生きているから別にいいけど・・・あれ?」
ふと、外の様子にライが気が付いた。
見ると、先ほどまでの猛吹雪が嘘のようにカラッと晴れているのだ。
そして、日光がさしているせいかやや眩しいけど気温が寒いが先ほどよりも確実に上がっていた。
「先ほど、主殿が気絶した後にすぐに吹雪が止んだのじゃ」
「タイミング的に、やはり何者かの天候操作が原因でありますな」
とにもかくにも、かまくらからライたちは出た。
・・・さっきの吹雪が嘘のように無くなって青空じゃん。
というか、結局さっきの吹雪はいったい何だったのだろうか?
「もうすがすがしいほど綺麗に晴れているよね」
「快晴ですけど、やはり気温は低いですね」
かまくらの中は狭かったので、全員体を外に出して思いっきり伸ばす。
うん、さっきの全員裸で抱き着いてきた光景がちょっとあるから、まともに皆の顔を見にくいけどね。
というか、全員あっさりすぐに着ているのはいいけど、これって精神的なダメージを受けたのは自分だけではないだろうか・・・・。
「さっきの吹雪が仮にモンスターの仕業だとしたら、何で急に吹雪を止ましたんだろうか」
「わからんのぅ。我々を襲うつもりであれば、あのままでもよかったとは思うのじゃが・・・」
全員首をひねり、考えるがわからない。
「理由を知りたいのかい?」
「まあ、知りたいけどさ、教えてくれ・・・・・・ん?」
今の声誰だ?
ふと、振り返ると・・・・・・
「!?」
「いつの間に!?」
そこには先ほどまで誰もいなかったのに、いつの間にか誰かが立っていた。
全体的にほぼ真っ白だが、女性のようにも見えた。
ただ、その周囲が妙に冷えているらしく、足元が凍り付いている。
長い白髪に、白い瞳で、顔立ちは美しく妖艶さを際立たせている。
来ている服も真っ白だが、どことなく和服とかいう物に近いような感じがした。
女性のようだけど、その恰好だけではこの寒さの中平気でいるところを見ると明らかに人ではなさそうだ。
「・・・・幻獣種『雪女』じゃな」
アルテミスがそう言い、すぐにどんなモンスターなのか分かった。
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「雪女」
幻獣種に指定されている出会うことが稀な人型のモンスター。冷気を纏い、あたりに猛吹雪を起こすことが可能であり危険性もそこそこ高い。
妖艶な美女から幼い少女までの姿が確認されており、一部違法なマニアには人気があって、モンスターの奴隷として欲するものもおり、モンスターの中では狙われやすい種族でもある。
全体が真っ白に近い以外は人間とほとんど大差がないので、エルフやドワーフなどの亜人に分類すべきかという声も一時期あったが、モンスターかそうでないかの区別の際に、体内に魔石があることが確認されているのでモンスターであると断定されている。
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先ほどの吹雪も、このモンスターの仕業だというのか・・・・。
全員臨戦態勢を素早くとる。
相性的には最悪だけどね。まともに攻撃手段として効果的なのが少ないし・・・・・。
「ふふふ、今は敵意はないわよ」
妖艶に微笑み、確かめているかのような目をこちらに向けてくる。
「なにかがかぶっているような気がするわね・・・」
ルミナスがつぶやいたが、聞き流しておいてっと。
「『今は』ということは、さっきまで敵意を抱いていたのか?」
「ええ、そうよ。この山に人が来るのはあまり好きではないのだもの」
当たり前のように言っているけど・・・・つまり、先ほどまでの吹雪は敵意を抱いていたからやっていたのか?
「なら、なぜ急に吹雪を止ませた?あのままふぶいていたら僕らは凍死して確実にこの世からいなくなっていたと思うが」
「その理由?・・・・興味を持ったからよ」
妖艶そうな笑みを辞めて、真面目そうな表情へと変わる。
「あなたの周囲にいる女性たちは、貴方が寒がっていた時に体温を分けるためにためらいもなくすぐにくっ付いていった。あなたがどれだけその子たちに慕われているのかがよくわかったからなのよね」
「・・・・あれ?その言い方だとさっきの光景を」
「見ていたわよ」
あっさりそう言い切られて、物凄く恥ずかしくなった。
先ほどの光景を人に見られていたと考えたら恥ずかしいんですけど!!
ふと皆を見ると、言われてやっと羞恥心が出てきたのかほのかに顔を赤くしている。
・・・ロウだけいつもと変わらない表情で分かっていないかんじだけど。まあ、ロウだけはまだ心が子供のようなものだしね。
「アラクネ、クイーンハーピー、えっと・・・スライム?、なんかドラゴンみたいな子、スキュラ、ラミア・ドラゴン、ミミック?、オーガ・・・かしら?あと、ダークエルフの娘に囲まれているようで、最初はなんか無理やり従わせているのかもと思っていたのよね」
どうも、僕の命令で無理やり従わせているようなものかもしれないと警戒していたようである。
というか、モンスターの種族名で知らないなら知らないと言ってくれればいいんですけど。無理やり何とか言わなくてもいいんですが。
「吹雪を起こしてしばし観察してみたのだけれども、そう悪い人間でもなさそうね」
あの吹雪は、こっちがどのように行動するのかを観察してみるための物だったらしい。
一応警戒しつつも、雪に紛れてじっくり見ていたのか・・・・
何やら真面目な顔が崩れて、面白いものを見せてもらったとか言いたげな表情になったけど、それこっちの羞恥心が降り切れそうになるからやめてください。
「ま、今まで私を偶然見た人が物珍しさから、もしくは己の欲望のために欲した者が多くいて、平和に暮らせる場所に人が来たからっていうのが実は一番の理由なのよね」
どことなく悲しげな表情に切り替わり、雪女はそう告げた。
・・・・どうやら彼女は、幻獣種である珍しさや、その妖艶な美しさから狙われたことがあったらしく、ここで平和に暮らしていたようだ。
そこに、急に僕らが来たから警戒するのもわかるような感じがするけど、なんかすまない気持ちになるな。
「襲ってくる熊とかいたけど、氷像にしてあたりを安全にしたりしていたのだけれどもね」
「何か物騒なこともしているでありますな・・・・人のことは言えないかもしれないでありますが」
うん、ミアンはミアンで主を求めて選定するためにゴブリンを使役した前科があるからね。
「でも、ここももう離れたほうが良いかしらね。ふもとの方では何か騒がしいし、もう移りすむべきかしら?」
ふと、山のふもとの方を見るかのように顔を動かす雪女。
そういえば、このふもとって今戦争中だった。
互いににらみ合いをしていて、下手すると相手の裏をかくためにここに登ってきて彼女を見つけるかもしれない。
そして、彼女を襲ってきた人たちのようなことがまた起きるかもしれないのだ。
「でも、いちいち移り住むのも疲れたし・・・・・いいかしら?」
「!?」
先ほどまで結構離れていたのに、いつの間にか目の前にまで雪女は来ていた。
気が付かないうちにすぐに迫ってくるとは・・・・相当経験豊富なのかもしれない。
「いいかしらって・・なにが?」
「雪女もモンスター。あなたは見る限り魔物使いのようだし、従魔にどうかしら?」
・・・・こういう迫り方をする人ってはじめてなような気がする。
「雪女ですか・・・・私たちのメンバーの弱点を補えそうですよね」
「・・・・吹雪は強力だし、敵対されたらこっちが不利」
「ウミュ?」
「そうきましたか・・・・なんか昼寝の時には近づかないでほしいですね」
「主殿も、よくこう色々引き寄せるのぅ」
「ライは最初からそういう人ですからね・・・もうだいぶ慣れましたよ」
「ライ殿は何かモンスターホイホイって感じでありますな」
『別に反対意見はないぜよ』
「後輩がやっとできるでっせ・・・」
全員反対意見はないようだし、もう恒例のあれやっとくか。
「だったら、従魔にするけどほんとうにいいんだよね?」
「平和に暮らせそうなので、それに、あなたの仲間たちを見ているとそう簡単に手出しを出してきそうな人はいなくなるかもしれないのよね」
・・・結構したたかなようであった。
「なら・・・名前は『ツバキ』でどうかな」
「ええ、『ツバキ』とこれから呼んでくださいね、マイロード」
何でそう呼ぶのかはわからないけど、いつものように魔法陣が浮かび上がり、従魔契約が完了したのであった・・・・・。
来る者基本拒まず。敵対しても、仲間になると心でわかれば拒否はしないスタイルです。
にしても、ツバキの性格がちょっとルミナスと被っているのはどうしようか。どこかで差別化したい。




