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第三十二話

 俺達だけになった洞窟の広場。


 俺達も何も言わず、時間だけが過ぎていく。


「……行くか、ネクロマンサーネモの所に」

「はい、そうしましょうか」

「気にしててもしゃーないもんな。いっちょ

やる気でいこうやな!」


 俺は何か色々と負けたような気になりながら特殊ゲート型魔法陣を起動させた。


 ネクロマンサーネモは勝てない相手、そんな基本的な情報に対する策なんて全くないままクエストボスに挑むことになった。








「またか、ここに眠る死者に鞭打ってまだ、安らかな眠りを妨げようというのか」


 そこは巨大な墓地。もっとも大きな三つの墓石、これはクエストの要の三人の死者だろう。

 その墓石と俺達から遮るように全身赤いローブの男が立ちふさがる。


「会話した方がいいのか? 会話の流れからそんなに悪いヤツでもないみたいだが……」

「私達~クエストボスって~初めてなので~」

「ほな、わいが……なあ、自分、わい等はあんさんが言うような、んな訳の分からん事しにきたんちゃうで?」


 どうしようか? 作戦なんて全く忘れてたが……このネクロマンサーがどれ位サモンスキルを使うかで対応が変わるが……黒騎士位は呼んでおくか。


「ふん。言葉では何とでも言える。どうせ、ハイゼンマイヤーの差し金なんだろう?」

「……誰や?」

「ミカールの街の~司祭の名前~だったと思います~依頼主よ~」

「そうなんや。あんさんの言うとおり、そのおっさんに言われたみたいやけどな、わい等はお祈りして来いっていわれただけやで?」


「契約に基づき、我は汝を召喚する、スキル、サモンブラックナイト」


 前回の黒騎士と戦ったときにつけた予測。


 前回の特殊フィールドでは、移った時点でスキルの使用が出来た……つまり、それはどの特殊フィールドでも同じなのではないか?


 その仮説を元に今黒騎士を召喚してみたが……。


 それを表すかのように目の前には、直立不動の黒衣の騎士が俺の指示を待っている。


「おわっ!? って、シュールそんなんも呼べるスキル持っとんのか?」

「うわ~強そう~」


 まあ、強いよな。レベル1でも俺達の誰よりもHP、攻防共に高いし。


「所詮貴様等の言う事は信頼出来ん! ワシを是としたいならば、その奢った力で屈服させてみよ……サモンスケルトン!」


 どうやらスガタとの会話は終わってしまったらしい。

 先制攻撃を叩き込んでやろうと思ったのに……。


 呼び出されたのは3体の骸骨、スケルトン。


 こいつは一気にモンスターを同時召喚出来るのか……羨ましい……じゃない、いやそれもあるけど、そんなスキル持ちなら数で負けるのは道理。


 なら、もう一柱頼りになる仲間を召喚するか。


 スキル名が同じサモン系だったって事は、召喚なのか……他のMMOみたいな、敵の死体を利用した骨戦士作成……みたいな条件付きのスキルじゃないのか。


 これは侮れないな。


「シュール、どないする? やるからには勝つやろ?」

「当然だ、俺に負けはない。テイトは後方から黒騎士の攻撃した相手に射撃を、俺とスガタはこいつと一緒に戦う……サモンメルクリウス!」


 俺のサモンスキルを受けて、意志ある魔剣メルクリウスが現れる。


「はぁ……シュール、お前……とんでもないなぁ……」

「集中~集中~って、こんな色々みせられたら無理です!!」

「テイト……とスガタは、可能だったら、何か途中で気付いたことがあったらすぐに報告してくれ。俺だけでは足りないかもしれん」


 言いたい事は言った。後は……。


「さて……化け物。クエスト上どっちが悪でどっちが正義かは俺にはわからんが、とりあえずお前を俺は滅ぼさなきゃいかんらしい」


 二人が混乱するのはわかってた為、俺はそのままネクロマンサーネモに声をかける。 


「ワシと同じ召喚術士か……しかも、騎士を使うとは……だが笑止。正義を語るのは常に勝者のみ」

「だな。だがな……それでも俺だって思うところはある……故に、お前が言った力でまかり通る! 行くぞ」


 俺は子鬼の木の杖を構える。既に矢を弓に当てているテイトは表情を新たにして、スガタは慌ててブロンズアクスを手にする。


「ふん、老いたりとはいえ、これでもワシは赤壁のネクロマンサーネモ。超えられる物なら超えてみせよ!」


 俺とネモは同時に笑いあう。


 本当に、全く普通のプレイヤーキャラにしか見えない人間くささだ。


「「いざ、勝負!!」」


 俺は二体の召喚獣に、ネモはスケルトン達に指示を出し、この戦が始まった。










「だりゃあ! これは……わい等必要なんか? この剣強すぎやろ!?」

「黒騎士さんも~強すぎます~本当に~レベル1なんですか~」


 二人の言葉は至極もっとも。しかし、前線に立ってる俺だけでは全体を見て、円滑に指示を出し続けるのは難しいし、恐らくは熟練も足りない。


 故に二人も入れた三つの目で物を見ることにしたのだ。


 召喚獣の奮闘で既に二体のスケルトンが倒されている。

 しかし、流れるように再度でサモンスケルトンを発動させるネモ。

 追加スケルトンも三体、計四体のスケルトンヵ立ち塞がる。


 一体目、黒騎士の一撃でスケルトンは八割がたHPを削り取られる。


 そこで召喚獣特有のウェイトタイムで止まってしまうが、上手くテイトの矢が当たりそのままスケルトンは崩れるように土に帰った。


 しかし、残ったスケルトンが黒騎士に殴りかかる。しかし、装備した盾に当たりダメージは極僅かしかない。


 続く黒騎士の攻撃で二体目のスケルトンも土に帰った。

 テイトの矢は残念ながら外れてしまった。


 三体目、こちらも召喚獣、メルクリウスのスキル、横なぎでスケルトン二体が同じ様に八割がたダメージを負う。

 俺とスガタの攻撃で一体は崩れる。


 しかし残ったもう一体はそのままメルクリウスに殴りかかる。

 メルクリウスは軽微なダメージを負うが、俺がそのまま子鬼の木の杖で突き崩す。これで四体全て。


「よし、崩した……ネモのサモンスキル発動の前に本丸を落とす」

「よっしゃ、行くで……スキル、獣化!」

「わかりました~行きます~」


 メルクリウスと黒騎士を先頭に、俺とスキルで毛むくじゃらの狼男に変身したスガタがネモに襲いかかる。


「む、く、ぐぅ……貴様等……舐めるな! スキル、ダークボール!」


 召喚獣達の攻撃、俺達の攻撃を大して防御モーションも取らずに受けて、そのHPを1/3近く減らすネモ。

 しかし、ほぼゼロ距離で発動した闇の魔法、三発の魔法弾、ダークボールの発動を受けて俺とスガタが動きが止まってしまう。


 召喚獣もウェイトタイムで動けないのでその隙をつかれ距離を開けられてしまう。


 しかし、体の動きが止まったのは一瞬で、すぐ自由になる。


「これは……!?」

「わからんが、けったいなことしよるな、あいつ」


 魔法を受けた直後に硬直があったって事は、状態異常か何かか? 

 闇属性だからな。そんなのがあってもおかしくない。


 威力は高くないみたいで、俺達も半分位HPを減らされただけですんだ。


「確か~ダークボールには~スタン効果が~確率で~あった~と思います~」 


 スタン……一時的な硬直か。低ランクスキルで俺達二人が同時に効果発動させられるなんて……高すぎだろ。


「NPCだからこその理不尽さってことかいな?」

「奇遇だな、スガタ。俺もそう思ってた所だ」


 距離を取られた為、俺達も後の先を取れるように全員でまとまる。


「まだまだ、ワシのスキルはこんなものじゃないぞ! サモンスケルトン、サモンゾンビ!」


 どちらも3体ずつスケルトンとゾンビが現れる。6体か、これ位なら5人パーティーならすぐに対処出来るレベルだろ。

 なら、まだ戦いは序盤から中盤。奥の手がまだあるって考えるべきだな。


「数が増えたが、戦力的には大した事はない。俺達がダメージを一気に受けたら負けなのは変わらないが、難易度は今までと変わらない。メイン盾を俺の召喚獣に取らせて、サポートを続けろ」

「了解や、バンバン行くで!」

「黒騎士さん~お願いします~ね~」


 そうして敵集団の中に、黒騎士とメルクリウスを差し向けた。

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