母なる空・シャリオン
【シャリオン】
――この国は、母さんと父さんと僕が初めて出逢った運命の国。僕はここで産まれた。畑や田んぼ、そしてこの星空の隠れ家以外、何の変哲もない国。昼には牛や鳥達が鳴き、夜には蛙やフクロウの鳴き声がする……静けさを求めて、今僕はこの小屋に居るのだけれど。
父さんは戦争に駆り出されてしまった。母さんと同じく喘息持ちだった僕は、何の役にも立てずに、ここで夜な夜な思いに更けっている。あんなに優しかった叔母さんも、目が合ったら気まずそうにその場を後にする。それでも、この小屋の場所を教えないのは、やっぱり優しいからだ。そう思いたい。
だって、毎日知らない人が、キャベツやニンジン、ジャガイモ、たまねぎ、チーズなどを段ボールに詰めて小屋の前に置いて行ってくれるのだもの。誰が。なんて考えなくてもわかる。それに、体の弱い僕でも、暖炉の灯を絶やさないように、木の枝や、これまた段ボールに入っている薪をくべることぐらいはできる。
「はは……、あったかいや」
もう一度外の景色を見る。
僕はこの星空の下でないと生きていけない。この空の味でないと生きていけないのだ。でも、確かに誰かと繋がっている。この青空の下で。
「いつか、みんなが笑顔で外に出られたらいいなぁ」
魅入っているうちに、母さんが寝入ってしまったようだ。太陽が昇る。一台の荷車の音がする。僕は知らないふりをして、再び小屋の中に入った。マグカップには、残った透明な玉ねぎが、わずかにこびり付いていた――――
END.




