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そのへん全部ダンジョン

 

 《白河真帆視点》



 あれから、5年。


 学校がダンジョンになってから……いや、『原初の迷宮』で詠介くんに助けられてから。



 窓の外は緑で溢れており、小鳥がさえずっている。川のせせらぎまで聞こえてくる。

 平和な場所だ。……ここだけ、は。


 ここは元々林業試験場だったらしい。森のダンジョンだった。


 ボスであった禍神を倒して本拠地とした。木々の迷路となってはいたが、木を切り倒して広場を作り、家を建てた。



 わたしたちの集落は、小笠原先輩が全体の指揮を執り、山口くんが防衛隊長、わかちゃんが探索隊長として、うまくやっていっている。


 机の上の電気スタンドのスイッチを入れる。

 滝田くんや平井くんたちが作った魔力発電施設は問題なく動いているようだ。


 詠介くんとわたしはリーダーの補佐であり……この集落の象徴でもある。少しむず痒く感じることもあるけど、そんなに責任の重い立場でもないのは配慮して貰ってると考えていいだろう。


 わたしは窓の外を眺めながら次の文章を考えている。

 ……もう一度、思い返してみよう。




 あの後、まず学校を本拠地としたわたしたちはお父さんーー構築者に会うために『原初の迷宮』地下10階を攻略し、そこに現れた禍神を倒した。


 そこで構築者とコンタクトは取れたものの、その存在はもう希薄になっていた。

 ……無謀にもダンジョンに足を踏み入れたわたしを助けるために、詠介くんに連絡を取ったせいだ。


 遅かれ早かれ起こったことだと詠介くんは言ってくれたけど、割り切れないものもある。



 ダンジョンの存在が一気に知れ渡ったことと、構築者の弱体化によってシステムは変質した。

 それがーーあの世界中にダンジョンが発生した『氾濫』(フラッド)の原因だった。



 警察や自衛隊は果敢にダンジョンとモンスター達に挑んだが……ダンジョンの迷路によって分断され、無線も通じず、各個撃破され、散り散りになってしまった。

 生き残りは各地で個別に戦いを続けているのかもしれない。


 軍隊……銃器や兵器に対しては禍神は自重しない。再び遭遇した魔神ラァムはそう説明した。正面から力で対抗することはできない。

 あくまで個別の人間の力……意思の力で立ち向かわなければならない。


 禍神はそれをこそ求めていた。

 意思なき力の集合であった禍神は、意思……自我を得る為に構築者の提案したルールに乗ったのだそうだ。



 ……私は今、その経緯をこうしてノートに書き綴っている。後の世に伝えるため。そして贖罪のため。



「……ママ?」



 突然呼ばれてハッとして視線を下に向ける。

 そこにはわたしを見上げる娘の姿があった。


 まだ2歳になったばかりの娘だ。目を離していたら危ない。しっかり見てないと。


「……(ウタ)? どうしたの?」


「パパ、これー」


「……パパは?」


 詠介くんは最近は体調を崩していたから警備などからも外してもらっていたはず。今日もウタを見ていてくれてると思ってた。


 娘の無邪気な顔から視線をさらに下ろすと、その手に手紙らしき紙が握られている。

 それを受け取りながら、わたしは突然不安に駆られた。






 《笠木詠介視点》




 ドラゴンでも出入りするのだろうか。

 10メートル以上はあろうかという巨大な石扉の前。


 俺は自分のステータスを確認する。

 既に長年の癖になっている。



 ===================

 笠木詠介 守護者

 レベル 62 MP 365 / 365 SP 24

 気配察知Lv8 剛力Lv7 頑健Lv6 敏捷Lv9

 軽業Lv7 体力Lv5 罠感知Lv4 魔法耐性Lv6

 回復Lv5 隠密Lv3 加速Lv3 不惑Lv3

 魔撃Lv5 魔力Lv5 斬術Lv4 投擲Lv3

 集中Lv3

 解錠 魔手 雷掌 呪縛 魔盾 幻影 衝撃

 瞬動 分裂 潜影 変身 再生 威圧

 ===================


 うーむ、人外もいいところだ。

 体にガタが来るのも頷けるな。


 このステータス表示も、おそらくもうじきなくなる。構築者の消滅によってシステムが徐々に変質し、魔法やスキルも含めて世界の法則として自然な形に溶け込んでしまうだろう。



 禍神の力を取り込みすぎたせいで、俺の体は崩壊を始めている。背中にも大きなヒビ割れが入っているが、いまではもう顔にまで来てしまった。



 もう持って半年……戦えるのはもっと短い。



 だから俺は、ここにいる。

 始まりの場所、『原初の迷宮』廃ビルだ。

 ……最初の頃の面影もないけどな。



 集落は小笠原先輩や山口達に任せておけば上手くやってくれるだろう。なにも心配は要らない。



 心残りはやはり……妻と、娘だ。


 真帆には、ウタ経由で手紙を渡してきた。

 直接話せば力づくでも止められてしまうだろうから。


 ……怒るかな?……怒るだろうなあ。


 それでも、前を向けると信じている。

 妻と、娘と、強く生きていけるだろう。

 信頼できる仲間達もいる。



 ……きっと、大丈夫だ。



 石扉を見上げた。

 そして、称号に『探検家』をセットした。


 ……あの時、初めて自分の意思でダンジョンに足を踏み入れた時の称号。


 迷い込んだのではない。自分から挑みにいったのだ。

 俺はこれでいい。

 あの時の気持ちで挑もう。



 俺が今感じているのは悲壮感ではない。

 死ぬ為に挑むのではないのだ。


 何とかなりそうな気がする。

 楽観だろうか? 【不惑】の効果だろうか?

 まあ……なんでもいい。



 戦い続ける。足掻き続ける。

 仲間達も。妻も。娘も。俺も。誰もが。



 挑み続ける。抗い続ける。

 世界がどう変わろうと。

 どんな理不尽が、不条理が、立ち塞がろうとも。




 ーー人生という名の、ダンジョン。




 それはどんな世界にでも、誰の前にもあるのだ。



 もはや手に馴染んだ魔剣『復讐者』(アベンジャー)を握り締め、石扉に手を掛けると、力を込めずともゆっくりと開いていく。地響きを立てながら。


 地下100階で魔神が呼んでいる。



「ああ、行ってやるよ」



 魔神を倒したとしても、終わりではないのだろう。

 あるいは、終わりなどないかもしれない。


 それでも、俺は口の端が吊り上がっていくのを自覚する。

 この期に及んでーー俺はワクワクしている。



 深呼吸を一回。

 さあ、踏み出そう。




 今一度、ダンジョンへ。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 基本的に武器とボーナス能力だよりだったような
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