45 団結
誰も言葉を発しない。
魔神が去った校庭はしばしの静寂に包まれた。
篠山の残骸が完全に消滅するのを見届けた俺はーーようやく周囲を見渡した。
片膝をつき、盾を構えたままの山口。
クロスボウを下げて座り込んでいる滝田。
魔神の去ったあたりを睨んだまま立ち尽くす笹島。
ーー俺の隣でこちらを見つめる真帆と目が合った。
「……終わったのかな」
「……多分。取り敢えずな」
俺がそう応えると……
それまで固唾を飲んで状況を見守っていた100人以上の生徒達から歓声が上がった。
涙ながらに抱き合って生存を確かめ合う女子達。
勝利を喜びハイタッチをする男子達。
俺の名を叫ぶ者までいる。やめてくれ……
「まさに……英雄だな」
小笠原生徒会長が近寄り、俺に声を掛けた。
「やめてください。クラスメイトをーー殺しただけだ」
「……この惨状を見て、そんなことを思う者はいないよ。君が僕らを救ったのは疑いようもない」
そう言って血まみれの校庭を指し示す。
篠山による犠牲者達は人数すら分からない状態だ。
「……別に英雄なんて望んじゃいません。俺はーー俺達は、自分達が生き延びる為に戦っただけですから」
「そうだな……そうだろうな」
生徒会長と俺達は校庭とーー校舎内の犠牲者達に黙祷を捧げる。
死者を悼むのは生者の義務であり……特権だろう。
「そうだ、『占領』……」
俺はアプリを取り出し、占領機能を起動する。
必要APは……14、か。
魔神ラァムが出現したことから推測はしていたが……どうやら校庭はダンジョンに含まれるようだ。
塀で囲まれた我らが明心高校の敷地内全てがダンジョンということだ。
『占領』を実行すると、俺の目の前ーー校庭の真ん中に光が走り、見慣れた魔法陣が描かれる。最後に地面から例の黒石版がせり出した。
「おお、なんだこれ!?」
「占領機能ってやつでしょ? その必要ある?」
「まだ校舎内に生徒が残ってるだろう。これでモンスターを抑制できるはずだ。救援を……」
滝田と山口に説明しつつ、俺は違和感を覚えた。
……そういえば、学校のダンジョン化からかなり時間が経過しているにも関わらずーー警察も何も来ていない。
「……会長。警察とかレスキュー隊とか……なにも来ていませんよね?」
「……確かに。見当たらないな」
どういうことだ。
誰も呼んでいない……?
校庭はダンジョン化により圏外になってしまったようだ。そのせいで誰も連絡できなかったか。
いや、俺が到着した時は校舎外は電波が届いていた。校庭のダンジョン化はその後だろう。
であれば、既にダンジョンの存在を把握していた教師達が連絡していないとは考えにくい……
「……救援が来れない状況ってこと?」
笹島が問うが、俺も答える術を持たない。
「確認するしかないな」
校門の方に目をやると、外の道路が見える。
大勢の生徒達はまだ誰も外へは出ていない。
「……わたしが見てくるね」
「あ、真帆。あたしも行く!」
「あ、俺も……」
「山口、やめとこう」
注目されている俺や大人数が動けば他の生徒達も殺到するかもしれない。それを察して真帆と笹島が校門に向かう。
「……君達はなにを考えている?」
「会長……取り越し苦労ならいいんですが」
真帆達が走って戻って来た。
その表情を見て……悟ってしまった。
「詠介くん……やっぱり、外もダンジョン化してる……!」
学校の敷地外は道路が変化して迷路化、一般家屋やマンションなども不自然に融合していたらしい。
「……なんてことだ……」
会長は額を抑え言葉を失った。
仲間達も力尽きたようにその場に崩れ落ちた。
生き延びたと思ったら、これか……とことん心を折りにくるな……
教師は、大人はもう誰もいない。
生徒達だけでこの状況をなんとかしないといけないのだ。
「ともかく、みんなに説明しよう。なるべく希望を与えるように……会長、お願いできますか?」
会長は額を抑えたまま静かに深い溜息を吐く。
難しい仕事だが、会長がやるしかないだろう。
「…………君が…………いや、僕の仕事だな……分かった。任せてくれ」
……強い人だ。この人が会長であったことを俺達は感謝するべきだろう。
「俺がこの端末を使って、ここに野営地を作ります。食料やテントなども作れるはずです。生徒達にはそこで休んでもらって……俺達は校舎内へ生存者を探しに行きます」
「分かった。ここに留まるように伝えればいいんだな」
「そうだ、戦える人がいるなら手伝ってもらえるんじゃないか? ホラ、あそこに平井とか居るし」
山口が珍しく冴えた案を出した。確かに、篠山組だった平井や松前の姿も見える。
それに滝田も同意する。
「そうだね。それに、外も偵察した方がいいんじゃないかな。状況を把握しておきたい。僕が行ってくるよ」
「いや、外はなにがあるか予想がつかないし……単独行動に長けた俺が調べてくる。みんなは生存者を頼みたい」
笹島も口を挟んできた。
「ねえ、あたしも! 外を見に行きたい!」
「だめ、わかちゃんはわたし達と生存者探し! ほんとはわたしだって……」
そんな俺達のやり取りを見ていた会長は苦笑した。
「強いな……君達を見てたら、なんとかなるような気がしてきたよ」
会長は拳を突き出した。俺も、仲間達も拳を合わせる。
「絶望になんて負けたくない。出来ることを一つずつやろう」
そう、抗おう。
俺達はまだーー生きるために全てを出し切っていないのだから。




