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そのへんのダンジョン  作者: どっすん権兵衛
第三章 広がるダンジョン
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42 校庭

 

 《三人称視点》



「ハ、ハッ! ざまぁ見やがれ……!」


 篠山拓海は荒れた息のままほくそ笑んだ。


 立体迷路の教室を出て、【石壁】(ストーンウォール)の魔法で出口を塞いでやった。

 あれだけの数の敵だ。普通に考えれば為す術もなく全滅であろう。


「白河も笹島もバカだぜ。俺に従ってりゃ助けてやったのによ。余計なもんを抱え込みやがって」


 未だ石壁の僅かな隙間からは戦闘音が聞こえてくる。

 そこから逃げるように廊下を進もうとして……凍りついたように足を止める。


 その視線の先には廊下の壁を擦るようにこちらに向かってくる巨体。手には巨大なハサミが握られている。


「お、おい……冗談じゃ……」


 言いながら、後ずさる。どん、と何かが背中に当たった。


「ひっ……!?」


 振り向くと、盾を突き出したスケルトンがそこに居た。その盾に当たったのだ。

 その後ろにも複数のスケルトン、そして白い亡霊が床から浮き上がってくる。


「あ、ああ……」


 元の教室のドアはすぐ横だが、自分で壁を出して塞いでしまった。戻ることはできない。


 篠山はその場にへたり込んだ。どこにも視線を向けられず、虚空を見つめる。

 あまりの恐怖に歯は激しく鳴り、足元には失禁による水溜まりが広がっていった。


 処刑人が巨大なハサミを両手で大きく開く。


「はは、アハハハはぁ」


 バツン。何かが断ち切られる音。


 スケルトンが剣を突き出す。

 樽のおもちゃのように一本ずつ剣が差し込まれていった。


 もはや正気を失っている彼は何も感じない。ただ哄笑を上げるのみだ。



「ギャハハァハッ! あはははァ! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!! あっ」







『人間。 恐怖? 発狂……』




 既に聞こえないはずの耳に誰かの声が聞こえた気がした。

 いや、音ではない。意思そのものだ。




『傲慢。 憤怒……怯懦……劣情……強欲』




 ずるり。


 何か悍ましいものがどこかに入り込んでくる。

 耳か? 臍か? 脳だろうか。


 そして体がふわり、と分解されるような感覚。

 それは快楽に似ていた。




『嫉妬。 欺瞞。 錯誤。 虚栄。 羨望。 渇望?』




 最後のは問いだ。それだけは理解できた。



「ああ、欲しい……なんでもいい。なにもかも自由にできる力が……」



『受諾。』



 そして、全てが黒に塗り潰された。







 ーー



 《笠木詠介視点》



「よっ……とぉ!」


 【魔手】(マジックハンド)で空中の足場を捉え、反動をつけて飛び上がると。それを待ち構えていたか、処刑人は大剣を横薙ぎに振るってきた。

 魔剣を叩きつけるように防ぐと、反動で弾き飛ばされる。


「ラストだ!」


 狙い通りだ。


 飛ばされながらも魔剣を振り、魔剣の能力【閃刃】を発動する。

 これは光の刃を飛ばす遠距離攻撃だ。MPは使わないがクールダウンがあり、連発はできない。


 攻撃した隙を突かれた処刑人は光刃をまともに食らって落下していった。下まで数10メートルある。さすがに生きてはいられまい。


 今ので処刑人は最後だ。警報ももう止まっている。

 残りは他のメンバーでも対処できるだろう……と思っていたが、残ったゴブリンやリザードマン達はどうやら退却していくようだ。


 勝ち目がないのを悟ったか。はて。奴らそんなに頭良かったか?

 いつもは全滅するまで向かって来たと思ったが。



「笠木! 終わりかー!?」


「ああ、今行く!」


 下から聞こえた山口の大声に返事をして縦穴を降りていった。




 俺が縦穴の底に着いた時、既に他の生存者は集まっていた。俺を含めて11人か。


「詠介くん、怪我はない?」

「お前、オイシイとこ持ってったなあ!」

「お宝なかった? お宝!」

「笠木……アンタ、忍者だったの?」


「いや、一斉に言うなよ……」


 騒がしい仲間達を適当にあしらい、何かを言いたそうにしている先輩の方に向き直る。

 ……この人、生徒会長だな。確か、小笠原先輩か。


「君は……君たちはすごいな。僕たちの命の恩人だ。礼を言わせてくれ。彼らは……残念だったが」


 周りをチラリと見て、目を伏せた。


 縦穴の底にはモンスターの死骸が山と積まれている……ということはない。死骸はダンジョンに吸収されている。

 残されているのは数人の生徒達の無残な遺体だ。


 俺は犠牲者に軽く黙祷した。


「いえ、慣れてるだけですから。とにかく、外に出ましょう。ここは危険だし……気分的にも休まらないでしょう」


「そうだな……いや待て。外? 校舎の外に出られるのか?」


「ええ、俺は1階から来ましたが、途中で玄関を発見しています。自分のクラスや他のグループもいくつか、外に誘導済みです」


 そのせいでこちらに来るのが遅くなってしまった。なんだかんだで見てしまえば見殺しにはできない。


 正確には屋上から入って別ルートで1階まで降りたのだが、そのあたりは言う必要はないだろう。


「ホント!? 外に出れるの!?」


「やった、帰れるんだ……!」


 疲労困憊で放心状態だった他の3年生も俄かに活気付いた。

 他の仲間達も安堵した様子だ。慣れてはいても、さすがにいきなりダンジョンに放り込まれるのは生きた心地がしないか。


「よし、行こう。みんな、あと少しだ。頑張ろう」


 全員頷き合い、俺の示す方のドアに向かった。




 1階の廊下も他の階と同様に変質し、入り組んだ迷路になっている。俺はマップがあるからいいが、なければさぞかし大変だろう。


「詠介くん」


 俺は集団の中央前寄りを歩いている。【気配察知】で警戒しつつ前後にすぐ対応できるようにだ。

 真帆がその隣に寄ってきて話しかけてきた。


「真帆、スマホが手元になかったんだってな。よく頑張ったな、偉いぞ」


「えへへ……じゃなくて。子供じゃないんだから」


 真帆は嬉しそうにしながらむくれた。器用なやつだ。


「今回、ヘンだよね? 他のダンジョンとだいぶ違ってる」


「そうだな。元々俺らの知るダンジョンは少ないけど……その中でもかなりヘンだな」


 真帆は人差し指を立てながら続けた。


「廃ビルも用水路も人気(ひとけ)の無いところにいつのまにか出来てたのに、このダンジョンは人が沢山いる時間に突然出来た」


「それが一番腑に落ちないところだな。あとは……今回は建物丸ごとで、地下じゃない。モンスターも階層を移動していたり、退却したり……賢くなってる」


「……この学校になにかあるのかな? レベルの高いダンジョン経験者が多いから、とか……?」


 俺は少し考えたが、首を振った。


「その可能性もあるが、おそらく一番レベルが高い俺がいない時にダンジョン化したから、他の理由かな……」


 会話が途切れた時、近くで話を聞いていた会長が会話に参加してきた。


「君たちは、他のダンジョンでレベルを上げたのか? 噂通り、このあたりに他にもダンジョンがあるってことか?」


「そうですね、俺たちは他に2つほど知っています」


 言いながら、構築者の言葉を思い出した。

『ダンジョンの侵食』……


「そうか、噂が広まったせいで、ダンジョンのルールが変わってきた可能性が高いな。地下から地上へ。人の少ないところから多いところへ」


「そうすると、この学校だけの問題じゃないってこと?」


「そうなるな。この先、こういうことが増えるかもしれない」


 あるいは、既に……




 敵に遭遇することもなく、玄関の広間に出た。普段ならある大量の下駄箱はなくなっているが、それ以外は概ね普段通りな感じだ。


「おい、玄関だ……!」


「あっ、待て鈴木!」


 3年男子の一人が駆け出した。他の3年生達も我先にと玄関のドアを通っていく。


 俺たちもそれを追うように玄関を抜けると、思わぬ光景に立ち止まった。



 雨は止んでいるようだ。

 玄関前は校庭になっており、端の歩道が校門へと続いているのはいつも通りだ。


 不思議なのは、生徒達だ。


 広い校庭ではなく、校舎の壁際に大勢で寄り添い合うように固まっている。

 歯をガタガタと震わせ、恐怖に身を縮こまらせている。



 校庭の方に目をやると、赤い水たまりが広がっている。

 そこにばら撒かれた肉片……あれは、人間の残骸だ。

 雨の水溜まりは教師や生徒達の血が混ざり、校庭全体が血の海になっている。


 その真ん中に立っている、見覚えのある男。

 そいつが口を開いた。



「よお、笠木……待ってたぜ」



 篠山は存外に親しみを込めた口調で俺に声を掛けた。



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