26 水路
山口、滝田に続いて穴を潜ると梯子があったので、それを使って下まで降りた。
地下水路のような場所に出た。
真っ暗であり、明かりは山口の懐中電灯だけだ。幅4メートルくらいの流れが緩やかな水路があり、両脇に同じくらいの幅の通路がある。水は透明だが、懐中電灯を向けても底は見えない。
……これは本当にダンジョンなのだろうか?
雰囲気はあるが、廃ビルと比べると……ファンタジー感が足りない。転移もしていないようだ。おかしな点もないではないが、リアルな地下水路と言われても納得はできる。
「お〜……これがダンジョンか……」
山口は囁くように感嘆の声を上げた。滝田も珍しく興奮した様子で首を縦に振っている。
山口を横目でチラリと見て【鑑定】してみた。
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山口和也 学生
レベル 1 MP 10 / 10
スキルなし
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あ、間違いないわ。ダンジョンだ。
滝田もレベル1だ。ダンジョンに入るとレベルが1になるのは確定だな。
そうすると廃ビルとの差異が気になる。入った際の転移がなく、見上げると入り口もそのままになっている。おそらく戻れるだろう。
調べる必要がありそうだ。なんとかコイツらを帰して俺だけ残れないだろうか。
「これ、ダンジョンか? 普通の地下水路じゃねえの?」
「何言ってんだ笠木。どう見てもダンジョンだろ!」
「調べてからでも遅くないでしょ」
まあ無理だよなあ。諦めて一緒に行くか。
俺は携帯のライトを点けた。懐中電灯だけでは光量が足りない。バッテリーに関しては携帯型充電器がインベントリに入っているので、いざとなればなんとか誤魔化して取り出せばいいだろう。
滝田も携帯を取り出し同様にライトを点けている。
ん?
「滝田、携帯に通知届いてない?」
「……何も来てないよ?」
『ダンジョンアシスタント』はインストールされていないらしい。これも廃ビルとの差異か。
水の流れてくる方を調べる方針を決め、通路を歩く。
隊列は山口が先頭、滝田がその後ろで俺が少し離れて背後を警戒する形だ。
俺たちの足音と水の流れる微かな音しかない……が、山口の靴がキュッキュキュッキュと妙にうるさい。
「……山口、足音うるさい」
「ええっ? そんなんどうしようもなくね?」
滝田と山口のやり取りを聞きながらも俺は【気配察知】で周囲の警戒を怠っていない。確かに、普通の動物とは違う気配をいくつか感じるな。
前方から近付いて来る複数の気配を感じる。もうじきエンカウントだ。俺は背後の警戒をするフリをしてあえて二人には言わないでおく。
「おいっ、出たぞ……!」
山口が小さく叫び、立ち止まる。滝田は既に気付いていたようで鉄パイプを構えている。
カチャカチャと小さな音と共に、いくつかの影が懐中電灯の明かりに照らされた。
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ジャイアントラット
レベル 1 MP 0 / 0
スキルなし
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……弱いな。レベル1のモンスターは初めて見た。
現れたのは小型犬より少し大きいくらいの3匹のネズミだ。
一応【加速】する心の準備をしつつ二人を後ろから見守ることにする。ここからじゃ攻撃できないしな。
「ネズミ!? でけえな! やるぞ! やるぞ! オラァッ!」
山口が騒ぎながら鉄パイプを振りかぶり、思い切り振り下ろした。ガァン! と高い音を響かせ……床を叩いた。そもそも外れている。
ネズミの一匹が山口の横に回り込んで飛び掛かろうとするが、滝田が鉄パイプを横に構えて遮ると、ネズミは鉄パイプにぶつかり墜落した。当てただけなので致命傷にはなっていないな。
ちょっと手助けして数を減らしておくか。山口の後ろに回り込んできたネズミに鉄パイプを貫通しない程度に突き入れて吹っ飛ばす。ネズミは水飛沫を上げて水路に落ちていった。
2人の死角だし暗いから見えてはいないだろう。こんくらいバレても構わないが。
回り込まれてしまったと思っている山口はパニクっているようだ。なんとか構え直した鉄パイプの先をどちらに向けるべきか分からずフラフラさせている。
懐中電灯を持っている奴がパニクっていると困る。
「山口! 正面に集中しろ!」
「よ、よし!」
俺の指示に従い、正面に向き直った。
滝田の方は携帯をポケットに入れて鉄パイプを両手で持ち、先ほど打ち落とした一匹を打ち据えた。こっちは冷静だな、頼もしい。
山口はすばしこいネズミを鉄パイプで直接狙うことを諦め、思い切り蹴飛ばした。壁に激突して弱ったところを踏み潰した。うえぇ。
「はー、終わった……うわ、気持ち悪ぃ…… 笠木、サボってただろ。ちゃんと戦えよ」
「ちゃんと手伝ったぞ俺は。3匹いただろ?」
「え、マジ? そう言えばそんな気が……」
「早く進んだ方がよくない? 騒いでるとまた来るかも」
滝田のもっともな意見に俺たちは頷き、前に進むことにした。
慎重に、静かに歩き出す。
……キュッキュッとうるさかった山口の靴は今はネズミの残骸がニッチャニッチャと音を立てている。
こいつには隠密行動は向いてないな……
そう思った時、前方に明かりが見えた。




