24 最悪の階層
地下4階を舐めてました。すみません。
アタリをつけた方向へ真っ直ぐ進もうとしたのだが、想像以上に迷路になっており、外周を迂回させられてしまっている。
分岐自体は少ないのだが、その分間違えたルートを長々と歩かされた挙句の行き止まりは精神的にキツイ。
「扉、あるね……」
通路の突き当たりにある扉を見ながら白河がうんざりした顔で呟く。疲労の色が濃い。きっと俺はもっと酷い顔をしているんだろうなあ。
「今度はなんだろな? レパートリーが豊富で段々楽しみになってきたぞ」
「……ウソだよね?」
聞くまでもなかろうよ。
ここまで、似たような扉を何度か通ってきている。
扉自体に罠があることはなかった。一応調べるが、今回もなさそうだ。
「……開けるよ」
白河が構えるのを見ながら扉を開く。
中には黒い大きなものが大量に蠢いていた。それらが波のようにこちらに押し寄せてくる。
===================
ジャイアントローチ
レベル 4 MP 0 / 0
敏捷Lv1
===================
「ギャアアアアアアアアア!!!」
白河が彼女らしからぬ悲鳴を上げ、泣きながら【魔矢】をMPの限り乱射した。
俺の眼前では脳が描写を拒否するような惨状が繰り広げられている。飛び散った破片の一つが俺の顔にへばり付いた。
「へへへ……ククク……」
俺は含み笑いを漏らしながら【魔手】と【雷掌】で討ち漏らしを片付けていく。
接近戦がイヤなので魔法を使っているわけだし、含み笑いなのは破片を口に入れたくないからだし、つまり大丈夫だ。俺は正気に戻った。
あらかた掃除……いや、『散らかし』終わったところで、未だに【魔矢】を発動しようと掌からプスプスと煙を出している白河の手にそっと自分の手を重ねる。
「白河……終わったんだ」
「あ、ああ……」
白河は自分の肩を抱き、がくりとその場に膝をついた。
……MPが切れると魔法の発動が失敗するようになるようだ。覚えておこう。
と、地下4階はこのように嫌がらせに特化した階層であるようだった。
この他にもナメクジ、蛇、蜘蛛などのモンスターが扉を開ける度に出現している。ちょっと今回は極めつけだったが。
「うぅ…… もう、嫌ァ……」
白河は俯いて肩を震わせている。やっぱりGはダメなんだな。俺もだが。
まあ仕方ない……地下3階に戻ればきっとまだアレがいるのだろうし、ここを突破するしかないのだ。
インベントリから取り出した濡れタオルで顔を拭きながら白河の肩をポンポンと軽く叩いてやる。
こっちを一瞬振り向いた白河は俺からタオルをひったくって自分の顔を覆った。
……顔に着いた謎の破片を拭いたものなのだが、それは言わない方がよさそうだ。
数分休んで死体が消えた後、部屋に足を踏み入れた。
……宝箱がある。こいつらが中ボスだったか?
いつも通り慎重に罠を確認し、【解錠】で開けた。
中には巻物が一枚と短い槍が一本。
『【治療】の巻物 【治療】の魔法を習得できる 280$』
『破壊の投槍 【破壊】 160$』
おおお、ついにきた、回復魔法!
あるんじゃないかとは思ってたけどやっぱりあったな!
「白河! いいものがあったぞ!」
虚ろな目をした白河に渡すと、のろのろした動きで無言で巻物を開いて習得した。
……まだ正気に戻っていないようだ。
ほっぺたに謎の粘液が付いていることは言わないでおこう。モンスターの残骸は触れていると消えないんだな。
【治療】を使ってもらうと、禍神から受けた傷がゆっくりと治っていった。
傷の程度は全力で走っている時にすっ転んで擦りむいた……くらいだったが、治るまで30秒ほどだ。治療中はめっちゃ痒い。消費は10MPだ。
ヒールポーションの方が強力ではあるが、小さい傷ならこれで充分といったところか。
物騒な名前の槍はインベントリに放り込んでおいた。名前的に使い捨てっぽいがそれにしては売値が高い。
ウォルズにとどめを刺した『爆発の魔石』みたいに切札火力として使えるかもしれないな。
Gの巣を通過し、しばらく進んだところでようやく地下5階への階段を見つけ、ホッとした。
階段を降りたところで憔悴した様子の白河もようやく目に光が戻ってきた。
地下5階は主にスケルトンファイターとレイスが相手だ。
今度はホラーな相手だが白河にとっては虫よりよほどやり易いらしく、悟りを開いたような穏やかな表情でリズミカルに【魔矢】を放っている。
うむ、いい感じにイカレてきたな。
順調に進んで休憩室に辿り着いた。
所持金?は2849$だ。パーティーを組んでいるせいか、白河の方でも同じ所持金だ。共通なのだろう。
白河が【治療】を覚えたものの、ウォルズ戦の時くらいの重傷だと心許ないので、ヒールポーションを二本買ってそれぞれのインベントリに収納した。さらに、マジックポーションを白河に持たせる。合計2000$なり。
時刻は21時を過ぎてしまった。さっさと帰ろう。
ウォルズのいた広間を通りながら白河がボソリと呟いた。
「地下4階はもう……絶対行かない」
うん、俺も行きたくない。




