23 ペナルティ
天井から染み出すように闇が溢れ、床にぼとりと落ちた。
なんだこれは。
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禍神
レベル ??? MP ???
???
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え? ラスボス? そのもの?
考える間も無く床から壁から……手の形をした影が生え、それぞれが這い出るように人の形を成していく。
頭上から逆さの状態で腕を振るってきた影を、反射的に刀で斬り捨てた。
断ち切られた影は水のように形を失って床にぶちまけられた後、元通りになってしまった。
あっという間に周囲を敵意に埋め尽くされる。
10や20じゃ利かない数だ。まずい。
影が一斉に襲いかかってくる!
「白河! 階段だ!」
休憩室より下り階段の方が近い。ここからなら全力で走れば2分だ。
白河は一瞬逡巡した気配を見せたが、すぐに俺の意図を察して【隠形】状態のまま駆け出した。
白河を先行させ、俺はしんがりを務める。【敏捷】のレベルに大きく差があるため、白河が先に逃げないと俺は逃げられない。それにすぐ思い当たってくれたのだろう。
掴みかかってくる手を切り払いながら後退する。
ここは逃げの一手だ。こいつらはおそらく倒せない。
「チッ……くそっ!」
四方八方から伸びてくる手の全ては躱しきれない。
腕を掴まれた瞬間、俺は【瞬動】を発動し、【輪舞】……そろそろ恥ずかしいからやめよう。回転斬りで周囲を薙ぎ払った。
一瞬で振り払ったにも関わらず腕に掴みかかっていた手に皮一枚持っていかれた。複数に捕まれば逃げられない……!
切り札を切ってしまった。連続使用はできない。
白河が先行したことを気配で確認しつつ、後を追うように走り出した。
影を振り切って速度を上げていく。
そこを曲がれば階段まで直線だーー
背後の気配が大挙して追ってくるのを感じながら、前方からも影が湧き出してくるのが目に入った。
行く手を遮るように立ち塞がってくる。
「くおっ……!」
【加速】を使い、間隙を縫うように紙一重で避けながら曲がり角を曲がる。
スローモーションの中で、壁からさらに影が噴き出してくるのが見えるーー
それを屈んで回避すると同時に【加速】が解ける。
がくん、と自分の動きが止まる。
床から生えた手に足をーー掴まれている!
「【魔矢】!」
先に階段に辿り着き姿を現した白河の【魔矢】が足を掴む影の手を吹き飛ばした。
「詠介くん! 早く!」
そのまま【連射】によって前方の邪魔な影を撃ち抜いていき、階段までのルートがクリアになる。
「【魔手】!」
階段の段差を掴んで引き寄せ、階段上の白河をひっ攫うように抱き抱え、勢いのまま飛び降りる!
「ぐっ……!」
途中で体を入れ替え、階段の折り返しの壁に背中から激突する。
息がつまるが、なんとかそのまま下のフロアまで降りた。
……どうやらここまで追っては来ないようだ。ちょっとした賭けではあったが、なんとか撒けたか。
階段を降りた先は狭い部屋になっており、正面に扉のない通路がある。壁の松明もいつも通りだ。
前後の安全を確認したところでようやく人心地がついた。二人して床にへたり込み、荒れた息を整えた。
「はあ〜、やばかったね…… なんなの? あれ」
息が収まってきたところで白河が聞いてきた。
「【解析】によると……『禍神』、だそうだ」
「あれが……? 倒したの? あれを」
俺はかぶりを振った。
「俺が倒したやつとは違う。俺の時はもっと……固有名みたいのがあったし、特徴があった。今のはなんというか…… 加工前、みたいな感じだったな」
俺はアレは倒せないと直感して即座に逃げる選択をしたが……
ウォルズを倒した事を構築者はメッセージと称号で『禍神を退けた』と表現していた。
裏を返せば『禍神は倒せない』……
ネーミングが構築者の手によるものなら、これもヒントだったのかもしれない。
「なんでいきなり……?」
「ペナルティ、かな…… 同じフロアに長く居すぎた
のかもしれない」
ローグライクRPGではたまにあるシステムだ。同じフロアに長くいた場合、入り口に戻されたり、下のフロアに強制的に落とされたり、あるいは……強力な敵が出現したりする。
今回はそれがラスボスだったというだけだ。……いやおかしいだろ。
以前俺は地下5階で一晩明かしたことがあったが、あの時は平気だった。休憩室にいる間はカウントされないのだろうか。
白河はあまり腑に落ちてない顔をしている。大丈夫、俺もだ。
「ともかく、今後は同じ階層に長時間滞在するのは避けよう。今日は3階に戻るのも危険だな…… さっさと地下5階に降りて帰ろう」
俺の言葉に白河も青い顔をしてこくこく頷いた。
今回は久々にやばかった。毎回慣れた頃に戒めるかのようにピンチになるな。俺たちの知らないルールがまだありそうだし、まったく油断がならんぜ。
さて、地下4階だが……ここから降りるのは難しくない。
地下5階は半分ほどマップを埋めている。その間上り階段は見つからなかったので、地下5階の未踏部分に階段があることになる。
照らし合わせればどこに階段があるか大体見当がつく。
受けたダメージや持ち物を確認した後、疲れた体に鞭を打って立ち上がった。




