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そのへんのダンジョン  作者: どっすん権兵衛
第二章 増えるダンジョン
21/48

20 噂

 

 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムの音に起こされた。

 四時間目の終了……昼休みを告げる放送音だ。



 あの後、家に帰り着いた俺は晩飯も食べずに倒れるように寝てしまった。

 朝起きると身体中筋肉痛で怠かった。【回復】にも限度があるらしい。さすがに連日のダンジョン探索はきつかったか。


 授業中も爆睡してしまった。

 あ、これは普段と同じだわ。

 しかしこう書くとサボっているようで印象が悪いな。


 爆睡中も授業を受けてしまった。

 これがいい。

 俺って勤勉。



「あれ笠木、制服新品か?」


 先生が去った途端に話しかけてきたポッチャリ体型はクラスメイトの山口和也だ。背も高めなのでかなり威圧感がある。

 その後ろには無口で小柄なメガネ、滝田遊もいる。二人ともゲーム仲間だ。


 スクールカースト……みたいなハッキリしたものはないが、クラスはいくつかのグループに分かれる。


 一大勢力の富岡を筆頭としたウェーイ勢……っていうのか? とか、野球部やバスケ部などの体育会系、アニメ勢などで分かれていたりする。


 俺はいつも山口・滝田のゲーマーグループでツルんでいる。俺たちは周囲からは比較的コアなゲーマーだと思われているようだ。そうでもないのだが。


 富岡達からは軽蔑されているような感じは受けるが、特にいじめられているとかはない。

 ……一度体育館でボクシンググローブを渡されてボクシングをやらされたことはあるな。弱そうに見える俺をいじめようとしたんだろうか。

 全力でワンパン入れてやったらおとなしくなったのだが、負けてたらいじめられてたかもな。


「あー。汚しちゃってな」


 制服の話だ。ダンジョンのショップで買った制服は新品だったのである。家では脱いでるので親にはバレていないが、着ていたらモロバレだ。

 もうじき衣替えだが、ちょっと丸めておいて新品感をなくしておくか。

 山口はふーん、と気の無い返事をした。なら聞くなよ。


「学食だろ? 一緒に行こうぜ。腹減ったよ」 


 俺は同意すると席を立った。

 俺の家は親が共働きなので昼飯は学食か購買で買ったパンで済ますことがほとんどだ。


 山口は弁当を持ってきているが、その上さらに学食のカレーライスを食う。食い過ぎだ。戦隊モノの黄色か。対して、滝田は少食だ。足して2で割ると丁度いいのだが。



「笠木、お前……休みの間一回もやんなかっただろ! お前がいないと前衛(タンク)居ないんだぞ」


「忙しかったんだよ。野良で組めばいいだろ」


「立ち回り分かってる前衛なんてそうそういないんだよ。昨日なんてなあ、タンクが開幕からずっとジャングルに……」



 普段やってるオンライン対戦ゲームの話をまくし立てる山口を適当にいなしながら学食に向かう。


 俺はレトロゲーム好きの兄貴の影響もあって古いゲームをいろいろやるが、山口はオンライン対戦のMOBAやバトルロイヤルシューター、MMORPGを好んでそればかりやっている。

 滝田はオンラインゲームに加えてPCの(ピー)なゲームを好むらしい。実は眼鏡の下は美少年なのに結構な変態ムッツリスケベなのだ。惜しい。



 そんな話をしながら渡り廊下に差し掛かると、隣のクラスの女子の集団とすれ違った。白河がいる。

 白河は俺が切ってしまった髪を整えたようだった。ショートになっている。切った俺が言うのもなんだが、似合ってるな。


 白河は俺と目が合うと微かに微笑んだ。

 お父さんのことに希望を持てたから少し明るさを取り戻したかな?


 すれ違った後、山口が耳打ちしてくる。



「今、白河さんが俺の方見てニコッて笑ったよな?」


 すると、滝田もボソリと言った。


「……いや、ぼくだ」


「……気のせいだろ」


 お前らが隠れファンか。




ーーー



 学食は既に大勢でごった返している。だが回転は早いので見渡せばチラホラ空きができる。男子の三人組が席を立ったところに滑り込むように長机の端の席を確保した。


 山口は弁当を持って来ているのでそのまま席に座り、俺と滝田は制服の上着を自分の席に置いておく。そうでもしないとあっという間に取られてしまう。


 滝田と一緒に食券を買い、列に並んだ。今日はサンドイッチのようだが、こいつは大体軽いものしか注文しないので、トレーに山口の分のカレーライスも載せていく。

 俺はうどんとおにぎり二個だ。常連なので黙っていてもうどんは大盛りにしてもらえるのだ。


 席に着き、いつものように飯を食う。

 基本的に無口な俺と、輪をかけて無口な滝田に対しても山口は延々と喋り続けている。相槌を打っていれば会話が成立するので、コイツといるのはとても気が楽だ。



「そういや知ってるか? ダンジョンの噂」


 ぶぼっ……

 不意打ちで振られた話題に、俺は吹き出してしまった。


「うわっなんだよ汚えな!」


「いや……すまん。なんだよダンジョンて。ゲームの話か?」


 漫画のように鼻から出てきたうどんを、滝田が渡してくれたちり紙に包んで引き抜きながら先を促す。

 山口はすぐに話を続けた。


「いや、ゲームじゃなくて……学校の近くに本物のダンジョンがあってさ、そこに入ったやつがいるらしいんだよ」


「学校近くに……本物のダンジョン? 意味が分からんぞ。どこのことだよ?」


「どこかは聞いてないけど、モンスターとかいるらしい」


「はあ……? 誰に聞いたんだ?」


 俺の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは白河の顔だが、言いふらすような真似をするとは思えない。もちろん俺も誰にも言っていない。構築者に止められているしな。


「D組の平井だよ。同じ部活の」


「ああ、コンピュータ部か」


 うーん、知らんな。

 俺の所属するB組にはコンピュータ部は山口しかいない。山口もそうだがご多聞に漏れず大体ゲーム好きなはずだ。

 コンピュータ部のやつがダンジョンに入ったなら……噂話の出所としては頷けるな。



 しかしだ。

 神隠しが噂になるならともかく、ダンジョンが噂になるとしたら、入ったやつは生還していることになる。 禍神を倒したのは俺が初めてのはずだが……



 あれ?


 つまり……


 ひょっとして、地下5階でボスを倒さなくても帰還できた?



「笠木? おい……? 聞いてる?」



 果たして俺の苦労はなんだったというのか。


 乾いた笑い声が口の端から漏れてくるのを自覚しながら、俺は考えるのをやめた。


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