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そのへんのダンジョン  作者: どっすん権兵衛
第二章 増えるダンジョン
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19 虫道場

 

 まほまほを仲間にした俺は、とりあえず地下1階を回ることにした。



 俺はまがりなりにも柔道部だった。

 体はそれなりに鍛えていたし、面倒で昇段試験を受けてすらいないので黒帯は持っていないが、初段の相手なら互角に戦える程度には経験があった。

 剣道と空手は……小学生の頃にかじった程度だ。


 白河は格闘技経験はない。

 普通の女子にいきなりモンスターと殴り合えというのも無理な話だ。



 白河のレベルを上げるにはどうするか。


 まず、白河は『ダンジョンアシスタント』アプリの機能により俺とパーティを組んでいる。

 ひょっとしたら経験値が等分されるかもしれない、と目につく敵を俺が全てサクサク斬ってみた。


 ダメだった。上がらない。

 10体ほどコロコロしても上がらない。

 やはり攻撃させるしかないか。



 そんな白河にうってつけの相手がここにはいる。

 シーリングバグ……キモい天井虫だ。


「ホラ、あそこにいる」

「……あっ、ほんと。いるね。えっと……【魔矢】(マジックアロー)!」


 動かない虫はいい的だ。

 杖から放たれた魔法の矢は狙い違わず虫の頭部に直撃した。

 虫は落下して力なくもがいた後、動きを止めた。



「いい感じだ。これでレベル上げしよう」

「はい!」


 いい返事だ。モンスターを倒すことに抵抗は少ないようだ。ここであまりヘコまれても困る。

 問題はMPかな……


 白河を【解析】する。


 ===================

 白河真帆 学生

 レベル 1 MP 11 / 15 SP 5

 スキルなし

 ===================


 消費MPは一発につき4。

 白河は【回復】スキルが無いので安静にしても回復には 1MP / 2分 かかるので効率が悪い。まあ、最初は仕方ないか。

 ん? 俺がレベル1の時はMP10だったような……ああ、杖の効果かな? MP最大値が上がるのか。


 そんな感じで休み休み戦う。

 白河に任せるのは虫と、接近するまでは動きが鈍いスケルトンだ。

 スネークリザードは俺が刀でサクッとやる。


 白河も段々と慣れてきたようだ。ノリノリで魔法を連射している。今度は10体くらい倒させてみた。



 ===================

 白河真帆 学生

 レベル 3 MP 4 / 25 SP 15

 スキルなし

 ===================


 ちゃんとレベルが上がっている。効率のために回復系のスキルは取得できないだろうか……

 あ、さすがに人のスキルは取得できないようだ。


 一旦休憩室に戻り、アプリを開かせる。


 ===================

 気配察知Lv1 3SP

 魔力Lv1   3SP

 ===================


 ……まあこんなもんか。

【回復】はまだ出ていない。


「両方覚えていいの?」


 ソワソワした感じで聞いてきた白河に頷いてやると、白河は嬉しそうにスキルを取得した。

 ゲーム好きの反応だ。意外だなあ。




 休憩室を出て、再度レベル上げを行う。


【魔力】を習得したことで【魔矢】が多少強化されたらしく、大きく速くなった。

 シーリングバグは頭部に当てなければ一撃で倒せなかったのだが、今は胴体でも粉砕できる。


 ちなみに【魔力】は最大MPも増えるらしく、+10されていた。増加値は固定なのな。


 魔法の扱いに慣れたところで地下2階に降りた。

 ここにはゴブリンやマッドドッグといった哺乳類っぽい連中がいる。


 俺が機動力を奪い、白河の魔法でトドメを刺す。

 白河もさすがに顔をしかめたが、黙々と矢を撃ち込んだ。


 こいつらは禍神の力で生み出された、言ってみれば魔法生物だ。普通の生物とは違う。

 そんな説明を彼女には事前にしてある。もちろん俺にも本当のところはよく分からないが、とりあえず納得はしてくれたようだ。


 どちらにしろ彼女の目的のためには避けて通れないことだ。慣れてもらうしかない。



「疲れた?」


 何度目かの戦闘を終えたところで、俺は尋ねた。心なしか顔が青く見える。

 白河はかぶりを振る。


「まだ平気だよ」


 俺はスマホで時間を見た。

 19時過ぎだ。俺が来てからもう3時間以上経っている。

 白河はそれより前から一人、極限の緊張の中でダンジョンに居たのだ。限界だろう。


「時間も遅い。帰ろう」


「……どうやって?」


 白河には言ってなかった。……そもそも試してもいなかったな。


「休憩室に戻ろう。そこから帰れるかもしれない」



 休憩室に戻った俺は『ダンジョンアシスタント』のマップを開いて地下5階を選択する。マップには自分の白い光点と重なるように緑の光点がある。白河がフレンドになったため、マップに表示されているようだ。


 そしてやはり、休憩室のアイコンが明るくなっている。ゲーム的に言うとファストトラベルだ。

 そこで気づいたが、白河は行ったことがない地下5階は開けない。

 考えた挙句、力技でなんとかしてみることにした。

 まあダメだったら戻って来ればいいし。


「きゃっ。……え? え?」


 俺は白河を抱え上げた。お姫様抱っこの形だ。

 白河は目を白黒させて、自分がどういう状態か気づくと顔を真っ赤にした。

 我慢して欲しい。俺も恥ずかしいのだ。


 俺も熱くなった顔を背けながらスマホを操作してファストトラベルを起動した。



 俺達は魔法陣から出た光に包まれーー少しの浮遊感。光が収まると、同じような部屋にいた。だが、部屋の大きさが少し違う。地下5階だ。


「ん、んー。コホン。そういう時は、先に説明してよね!」


「ごめん」


 俺の腕から逃げるように降りた白河はソッポを向いて言ったので、俺はあっさり謝った。反省はしていない。



 休憩室を出て、ウォルズのいた広間に入る。石扉は開いていた。

 足を踏み入れた瞬間、死闘の記憶が蘇り身震いする。


 篝火は相変わらず燃えているが、敵の気配はない。

 ホッとする。

 ちょっと浅はかだったな。リスポーンしたらどうするか考えていなかった。


「ここに禍神がいたんだね…… お父さんも」


 部屋を見回しながら決意を込めた表情で白河が呟く。


 実際に構築者が白河のお父さんかどうかはまだ分からない。本人もそれは分かっているだろう。

 だが、希望を持っている白河を落胆させたくはなかった。


「探すために、強くなろう。一緒に」


 白河はこちらを振り向き、笑顔を見せた。


「……ありがとう、詠介くん」


 篝火に照らされた白河の顔は、赤くなって見えた。




 無事に帰還魔法陣に辿り着き、ダンジョンを出た。

 外はすっかり日が落ちている。


 ガレージのシャッターは健在だったので閉めておいた。これで俺のように部外者が入ることもないだろう。



 帰りの電車では、白河は自分の駅で先に降りた。


「じゃあ、メッセするね」


 電車で遠ざかる俺を、白河は手を振って見送ってくれた。



 そういや、さっき名前で呼ばれたよな……



 俺はそんなことを考えながら家路についた。


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