12 黒閃の騎士
はい。
何というか……
戻れません。
戻ろうとしたら鉄格子がきっちり下りていた。
『……逃さん……お前だけは……』
ってやつか。詰んだ。
そんな訳でボス部屋であろうと思われる両開きの石扉前です。
これから突撃してみようと思います。
……なんかテンションがおかしいな。大丈夫。俺はおかしくない。【探検家】の特典もあることだし。
重い石扉を両手で押し開けていく。
ゴゴゴ……と低い音を響かせながらゆっくりと開いていくーー
中はかつてなく広い空間だ。
天井も軽く5メートル以上ある。いくつも篝火が焚かれ、四角い柱が間隔を開けて並んでいる。
気配を探りつつ、地形を確認しつつ歩く。
中央近くまで進むと、背後で石扉が閉まった。またこのパターンか。
目の前に黒い霧が渦を巻きーー闇が集まるように、なにかを形作っていく。
全身真っ黒で凹凸が少なくつるんとしている。
のっぺらぼうの頭部に三角錐や四角柱など、プリミティブな立体を組み合わせたような胸部。
右手は騎士槍のごとく尖っており、左手は盾、円形に広がっている。
胴体は後ろに伸び、足は4本。ケンタウロスをローポリゴンで表したようなシルエットだ。
3メートルはある巨大なーー騎士だ。
意識で【解析】を発動する。
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黒閃の騎士 ウォルズ
レベル ??? MP ???
???
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はいきた。解析不能。
てぶら解析できるようになったところでこれかよ。
名前も固有名だし、これもう完全にボスじゃん。やってらんねーわほんと。
形がハッキリすると同時にこちらから刀を抜いて斬りかかった。狙いは脚だ。
【敏捷Lv3】により目にも留まらぬスピードで足元に入り込む。
ブォン、と脚が跳ね上がる。
俺は間一髪飛び退った。
奇襲は外された。仕切り直しだ。
そのまま跳ねるように距離を取る。
ウォルズはそれを見るや、ノーモーションからトップスピードで駆け出した。
槍をこちらにピタリと向けて。
まずい、不意を突かれた。
バックステップ中で動けない俺は即座に待機していた【魔手】を伸ばして近くの柱を掴み、そちらに体を飛ばす。
ウォルズは俺の居た場所をあっという間に通り過ぎ、即座に向き直った。
早くも手の内を見せてしまい、舌打ちする。
再び槍を構え、弾丸のようにこちらに突進してくる。
俺は今度は天井に【魔手】を伸ばし、跳び上がる。
すれ違いざまに頭部を薙ぐ。
ーー!?
強い衝撃に意識が飛びかける。
上も下も分からなくなる中で必死に【魔手】を伸ばして勢いを止めた。
気づくと、地面に打ち落とされている。
ふらつく頭を気配の方へ向けると、ウォルズが振り返りながら掲げていた盾を下ろす。
跳んだところを盾で殴りつけられたのか。
クソ、対処法がない。
慣性を無視するような急加速と急停止。反応速度……
まともに当たったら勝ち目はない。
頭を切ったのか、額に流れてくる血を袖で拭う。
考える時間を与えないかのように間をおかず三度突進してくる。
【魔手】を横に伸ばして回避する。逃げの一手だ。
敵も方向転換してくるが、なんとか柱の影に飛び込みやり過ごす。
何かないか、手はーー
柱を背にして必死で考える。
気配を探ると、ウォルズは柱を迂回する訳でもなく、静止している。
まさかーー
背筋を悪寒が駆け抜ける。
全力で横に跳ぶ。
刹那、柱が砕け散り、石片を全身に浴びる。
肉が裂け、血が飛び散った。
マジかよ。突進で柱をぶっ壊しやがった……
吹っ飛ばされてまたも地面を舐めさせられた俺が顔を上げると、ウォルズがこちらに向けて槍を構えたところだった。
【魔手】を後ろに伸ばし、強引に体を起こしながら距離を取る。
すると、ウォルズの槍先から黒い閃光が迸る。
咄嗟に【魔盾】を発動するが、幾筋もの黒い光は俺の体を突き抜けた。
全身から血が噴き出す。
「がっ……」
遠距離攻撃。
ダメージが把握できない。体に何箇所か穴が空いた。
幾度目になるのか、ウォルズがこちらを目掛けて駆け出してくる。
「う、わああああああッ!!」
逃げる。
恥も外聞も捨て、逃げ回る。
柱の影に。
できるだけ遠くに。
走り、跳んで。這い回る。
ウォルズは何処までも追ってくる。
離れれば閃光を放ち、隠れれば隠れ場所ごと。
逃げ場などなかった。
なんとかなると思っていた。
所詮はゲームだと。
甘い認識だった。
ヤツは強く、速い。
なにも通用しない。考える暇も与えてくれない。
ヤツは情けも容赦もなく俺を殺す。
家の中に入ってきたハエを叩き潰すように簡単に。
何故。
そもそもなんで俺はここにいるんだ。
理不尽に過ぎる。
そんなに悪いことをしただろうか。
なんで俺はこんな目に遭っているんだーー
俺はいつしか地面に倒れ伏し、涙を流していた。
【魔盾】も使い切った。
ヒールポーションも取り出す余裕はない。
全身からはとめどなく血が流れ出している。
もう、終わりだ。
ウォルズは標的を定め、槍を向ける。
その槍先には一寸のブレもない。
のっぺらぼうのはずのヤツと目が合った。
存在しない口がニヤリと嗤ったように見えた。
今にも。
その槍は瞬きの間に俺を貫いてその命を散らすのだろう。
俺は目を閉じた。




