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そのへんのダンジョン  作者: どっすん権兵衛
第一章 始まりのダンジョン
12/48

12 黒閃の騎士

 


 はい。



 何というか……

 戻れません。



 戻ろうとしたら鉄格子がきっちり下りていた。


『……逃さん……お前だけは……』


 ってやつか。詰んだ。


 そんな訳でボス部屋であろうと思われる両開きの石扉前です。

 これから突撃してみようと思います。


 ……なんかテンションがおかしいな。大丈夫。俺はおかしくない。【探検家】の特典もあることだし。


 重い石扉を両手で押し開けていく。

 ゴゴゴ……と低い音を響かせながらゆっくりと開いていくーー



 中はかつてなく広い空間だ。

 天井も軽く5メートル以上ある。いくつも篝火が焚かれ、四角い柱が間隔を開けて並んでいる。


 気配を探りつつ、地形を確認しつつ歩く。

 中央近くまで進むと、背後で石扉が閉まった。またこのパターンか。


 目の前に黒い霧が渦を巻きーー闇が集まるように、なにかを形作っていく。


 全身真っ黒で凹凸が少なくつるんとしている。

 のっぺらぼうの頭部に三角錐や四角柱など、プリミティブな立体を組み合わせたような胸部。

 右手は騎士槍のごとく尖っており、左手は盾、円形に広がっている。

 胴体は後ろに伸び、足は4本。ケンタウロスをローポリゴンで表したようなシルエットだ。


 3メートルはある巨大なーー騎士だ。


 意識で【解析】を発動する。


 ===================

 黒閃の騎士 ウォルズ

 レベル ??? MP ???

 ???

 ===================


 はいきた。解析不能。

 てぶら解析できるようになったところでこれかよ。

 名前も固有名だし、これもう完全にボスじゃん。やってらんねーわほんと。



 形がハッキリすると同時にこちらから刀を抜いて斬りかかった。狙いは脚だ。

 【敏捷Lv3】により目にも留まらぬスピードで足元に入り込む。


 ブォン、と脚が跳ね上がる。

 俺は間一髪飛び退った。


 奇襲は外された。仕切り直しだ。

 そのまま跳ねるように距離を取る。


 ウォルズはそれを見るや、ノーモーションからトップスピードで駆け出した。

 槍をこちらにピタリと向けて。


 まずい、不意を突かれた。


 バックステップ中で動けない俺は即座に待機していた【魔手(マジックハンド)】を伸ばして近くの柱を掴み、そちらに体を飛ばす。


 ウォルズは俺の居た場所をあっという間に通り過ぎ、即座に向き直った。



 早くも手の内を見せてしまい、舌打ちする。


 再び槍を構え、弾丸のようにこちらに突進してくる。

 俺は今度は天井に【魔手】を伸ばし、跳び上がる。

 すれ違いざまに頭部を薙ぐ。



 ーー!?



 強い衝撃に意識が飛びかける。

 上も下も分からなくなる中で必死に【魔手】を伸ばして勢いを止めた。


 気づくと、地面に打ち落とされている。

 ふらつく頭を気配の方へ向けると、ウォルズが振り返りながら掲げていた盾を下ろす。

 跳んだところを盾で殴りつけられたのか。



 クソ、対処法がない。



 慣性を無視するような急加速と急停止。反応速度……

 まともに当たったら勝ち目はない。

 頭を切ったのか、額に流れてくる血を袖で拭う。



 考える時間を与えないかのように間をおかず三度突進してくる。


【魔手】を横に伸ばして回避する。逃げの一手だ。

 敵も方向転換してくるが、なんとか柱の影に飛び込みやり過ごす。



 何かないか、手はーー


 柱を背にして必死で考える。

 気配を探ると、ウォルズは柱を迂回する訳でもなく、静止している。



 まさかーー



 背筋を悪寒が駆け抜ける。

 全力で横に跳ぶ。


 刹那、柱が砕け散り、石片を全身に浴びる。

 肉が裂け、血が飛び散った。


 マジかよ。突進で柱をぶっ壊しやがった……


 吹っ飛ばされてまたも地面を舐めさせられた俺が顔を上げると、ウォルズがこちらに向けて槍を構えたところだった。


【魔手】を後ろに伸ばし、強引に体を起こしながら距離を取る。


 すると、ウォルズの槍先から黒い閃光が迸る。

 咄嗟に【魔盾】を発動するが、幾筋もの黒い光は俺の体を突き抜けた。

 全身から血が噴き出す。



「がっ……」



 遠距離攻撃。

 ダメージが把握できない。体に何箇所か穴が空いた。


 幾度目になるのか、ウォルズがこちらを目掛けて駆け出してくる。



「う、わああああああッ!!」


 逃げる。

 恥も外聞も捨て、逃げ回る。


 柱の影に。

 できるだけ遠くに。

 走り、跳んで。這い回る。


 ウォルズは何処までも追ってくる。

 離れれば閃光を放ち、隠れれば隠れ場所ごと。

 逃げ場などなかった。



 なんとかなると思っていた。

 所詮はゲームだと。


 甘い認識だった。


 ヤツは強く、速い。

 なにも通用しない。考える暇も与えてくれない。

 ヤツは情けも容赦もなく俺を殺す。

 家の中に入ってきたハエを叩き潰すように簡単に。



 何故。


 そもそもなんで俺はここにいるんだ。


 理不尽に過ぎる。


 そんなに悪いことをしただろうか。


 なんで俺はこんな目に遭っているんだーー



 俺はいつしか地面に倒れ伏し、涙を流していた。

 【魔盾】も使い切った。

 ヒールポーションも取り出す余裕はない。

 全身からはとめどなく血が流れ出している。



 もう、終わりだ。



 ウォルズは標的を定め、槍を向ける。

 その槍先には一寸のブレもない。


 のっぺらぼうのはずのヤツと目が合った。

 存在しない口がニヤリと嗤ったように見えた。


 今にも。

 その槍は瞬きの間に俺を貫いてその命を散らすのだろう。



 俺は目を閉じた。



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