決めたんだ
放課後、公園へ足を運ぶ。
冬の冷たい空気が、昼間の決意を何度も思い出させる。
「お、来たな少年!」
奏さんが、相変わらずの白衣姿で手を振る。
僕は小さく笑って駆け寄った。
「……提出しました。進路票」
「ほう、それはめでたい! これで晴れて君は『星に生きる人間』だな」
「まだこれからが本番ですけど……でも、怖いです。でも、嬉しいです」
素直に吐き出した言葉に、奏さんは大きく頷いた。
「それでいい。それが人間だ。怖さと嬉しさが混ざってるのが、生きてる証拠だよ」
「……先生にも『お前ならできる』って言われました。でも、正直に言うと、信じきれないんです、自分のこと」
奏さんは望遠鏡を調整しながら、ふと手を止めた。
「君は、自分を疑うことで成長する。『できる』と簡単に信じきるより、何度も悩んで、試して、泣いて、それでいい。星もね、一度も迷わず輝いてるわけじゃないんだ」
「え……?」
「君が見ている星の光は、何百万年もかけて地球に届く。途中で何度も障害に遭い、曲げられ、散りそうになりながら、ようやく届くんだ。それでも光ろうとする……それが、星の生き様だ」
(……僕も、そんなふうに……)
「進むと決めた君は、もう十分強い。でも強いだけじゃなく、脆くていいんだよ。
視界が滲んだ。
涙が一筋、頬を滑り落ちる。
奏さんはそっと肩に手を置いた。
「これから何度も、進路票の文字を思い出す日が来る。でも、そのときにまたここへ来い。星は君を裏切らない。私も、ここで待っているからな」
「……はい」
夜空を見上げると、淡い星々が少しずつ瞬き始めていた。
恐怖もある。でも、その奥にあるかすかな希望が、微光のように胸を照らしている
(未来は怖い。でも、僕は僕を選んだ。これから先、何度立ち止まっても――また、歩き出せる)
帰り道、進路票に書いた「理系」という文字が頭に浮かぶ。
それはもはやただの文字じゃない。僕がこれから生きる、航路の始まりだった。




