表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の四十七士  作者: ロッド
34/36

切腹

「な、何と!」


 佐久間源八は目の前で何が起きたのか、理解出来なかった。

 亡き殿の敵が、何故腹を切るのか?

 相馬甚兵衛も、宍戸小平次もまた呆然としていた。

 どうしたらよいのか、考えが纏まらない。

 源八を見て指示を仰ごうとするが、その源八が呆然としている。


「何を(ほう)けておるかっ!」


 怒声が響いた。

 見届け人の与五郎である。


「介錯を! 介錯を致せ! 早うッ!」


 源八は見届け人の頬に涙が伝っているのを見た。

 その男は源八の背中を叩く。

 いや、蹴飛ばした!


「吉右衛門が覚悟を無碍に致すな! 早うッ!」


 そして見物人の中でも揉み合いが起きていた。

 お江が、暴れていた。

 弥助、治五郎、弥平次の三人がかりで飛び出そうとするのを抑え込んでいた。


「放せッ! 放せーーーーーッ!」


「お江! 後生じゃ!」


「堪えてくれッ!」


 弥助と治五郎はお江に引っ掻かれて傷だらけになっていた。

 弥平次は何度も脚を蹴られているようだ。


「・・・介錯・・・頼むッ!」


「お主等がやらぬなら、(わし)が!」


 源八の目の前で与五郎が刀を抜く。

 それを見て源八も我に返った。


(やらせては、ならぬ!)


 吉右衛門を、斬る。

 それが例えどんな形であっても、他人に譲るなどあってはならない!


「フンッ!」


 源八の刀が一閃。

 吉右衛門の首元に吸い込まれていく。

 源八にはどこか、夢の中でいる心地になっていた。

 同時に苦い思いもある。

 その理由は分からなかった。



 弥助も、そして弥平次もお江を放していた。

 お江の体は力が抜けてしまっている。

 最早、吉右衛門はその命を散らせてしまっているのだ。

 治五郎だけがお江の体に抱きついて、許しを乞うように語り続けていた。

 そんな治五郎もまた、号泣していた。

 治五郎は呼子衆の中で最も吉右衛門と友誼を深めていたのである。

 ・・・呼子衆は獣か化生の如き存在の筈なのに。


「・・・終わったぞ、お江。それに治五郎」


「「・・・」」


 吉右衛門の亡骸が与五郎の手で清められている。

 釈真和尚の読経が周囲を駆け巡っていた。

 見物人には一切、言葉がない。

 皆、手を合わせ拝んでいた。


「・・・山右、いや、吉右衛門様を送らねばならぬであろうが! 立て!」


「「・・・」」


 そう言う弥助の目にも僅かに涙が浮かんでいた。

 情けない、と思う。

 自分にも人間である部分がまだ残されていたのか、と驚くばかりであった。


 お江も治五郎も、手を合わせ吉右衛門の亡骸を見送った。

 どこからか上ノ馬場にカラスが鳴き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ