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最後の四十七士  作者: ロッド
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武士の覚悟

(・・・全く、邪魔だ!)


 お江は気が気ではなかった。

 吉右衛門の腕前は知っている。

 助太刀なしで相手をするのは無謀に思えた。

 上杉家の者達の腕前は確かではないが、お江には纏めて相手をするだけの自信があった。

 いざともなれば乱入する、その覚悟があるのだが・・・

 お江の傍には呼子衆の姿があった。

 右隣に弥助、左隣に治五郎、後ろに佐平次。

 恐らく他にもいるのだろう。


「・・・お江よ、分かっていような?」


 そんなお江を(いさ)めるのは治五郎であった。

 幼い頃とはいえ共に学び遊んだ間柄なのが運の尽きである。

 見届け人の与五郎に続いて吉右衛門が姿を見せる。

 既に上杉家の武士達は上ノ馬場で控えていた。

 殺気を抑えようとしていない。

 剣の技量は程々とお江には思えた。


「では、始めぇ!」


 与五郎の号令。

 上杉家の武士達が吉右衛門に殺到する!

 その一方で吉右衛門は?

 動かない。

 一気に包囲されたが、動かない。

 それどころか、刀すら抜こうとしない。


(・・・何?)


 吉右衛門が動いた。

 そのまま、跪く。


「刀を抜け!」


「いざ、尋常に勝負せよっ!」


「立たぬかっ!」


 決闘の相手もまた困惑しているようだ。

 各々が刀を構えたまま、斬りかかろうとしなかった。

 無抵抗の、しかも戦う気のない相手を斬るのは武士の誉れにならない。

 しかもこれは決闘なのだ。

 躊躇するのも当然。

 だがお江や呼子衆ならば斬って捨てていたことだろう。


「・・・(それがし)にお願いがござる」


「「「・・・」」」


 吉右衛門の問い掛け。

 やはり三人共、動けない。


「・・・これより切腹(つかまつ)る。どなたか介錯をお願いしたい」


「「「・・・」」」


 三人がお互いの顔を見る。

 余りにも予想外の申し出に心の整理がつかないのだろう。

 そうしている間にも吉右衛門は腹を斬る準備を淡々と進めていた。

 片袖の中から手拭いを取り出し短刀に巻き付けると腹に当てる。


「ま、待てッ!」


 制止する声を上げたのは与五郎であった。

 だが吉右衛門は止まらない。


「・・・お世話になりました。恩を返せず申し訳ない」


 吉右衛門は周囲を見渡した。

 ・・・お江の姿が見える。

 何かを叫んでいるように見えた。

 両腕は弥助と治五郎が捕らえ、そして後ろから佐平次が羽交い絞めにしている。

 事前に頼んでいて、よかった。


「・・・御免ッ!」


 短刀を腹に突き刺す。

 そして横に裂く。

 激痛の中で吉右衛門は不思議な開放感に包まれていた。

 これが望んでいた最期の瞬間。

 そう思うとこれまでの全てが愛おしく思えてきていた。

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