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最後の四十七士  作者: ロッド
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仇討ち

 佐久間源八、相馬甚兵衛、宍戸小平次の三名は未だに野間之関にいた。

 直訴をして十日ほどが経過している。

 押し込められた座敷牢は意外にも広くさほど不自由は感じなかった。

 食事も十分に与えられている。

 その一方で彼等は刀を取り上げられたままで監視の目が常にある。

 焦燥感に我が身を灼かれる心地であった。


(・・・直訴して本当に良かったのであろうか)


 何度も己に問い掛ける源八一行である。

 そんな彼等に面会があった。


「・・・拙僧は釈真と申す」


 それは一人の僧侶であった。

 だが、その後ろに控える男が問題であった。

 寺坂吉右衛門の姿がある。


「ッ!」


 源八が、甚兵衛が、そして小平次も吉右衛門に向けて殺到する。

 だが彼等は吉右衛門の手前で動きを封じられてしまっていた。

 体に縄が絡みつき、その場で転がされてしまっている!


「おのれっ! 殿の敵ッ!」


 だが発する声も途切れる。

 胸元を押さえつけられ、息が思うように出来なくされていた。

 三者とも自らを捕縛した者が何者であるのか、見ていない。

 吉右衛門の姿しか目に入らなくなっていた。


「・・・どうかな?」


「・・・間違いございませぬ」


「・・・フム、さて、どう致そうかの?」


 吉右衛門の心境は複雑であった。

 以前であれば、無駄死にせぬよう逃げていたであろう相手である。

 だが今はそう思わなくなっていた。

 目の前の三人にはまだ、武士として果たさねばならぬ事がある。

 それに対して、今の自分はどうだ?

 最早、やるべき事は何も残されていない。

 ・・・彼等が羨ましかった。

 武士の生き方を貫こうとする彼等が、羨ましく思えた。

 それはかつて、吉右衛門には出来なかったことでもある。


 そして吉右衛門は、気付いてしまった。

 虚無感にさいなまれていた自分が、何を求めていたのか?

 足軽であったがために仲間と共に死ねなかった後悔。

 武士の身分でありながら士分でないがために切腹も許されない立場。

 そう、死に場所を求めていたのだと気付いた。

 いや、生涯を閉じるのに武士としての最後を望んでいたのだ。


(・・・この年にもなって、どうしようもないのう)


「面通しはどうじゃな?」


「これは与五郎殿」


 上杉家の三名の武士と吉右衛門の面会を赦したのは丸山与五郎の判断であった。

 その様子を見て、どうするかを決める心積もりであったのだが・・・

 吉右衛門は普段と変わらぬ様子に見える。

 上杉家の者達は怒り心頭で取り押さえている呼子衆を跳ね飛ばしそうな勢いで暴れている。

 ・・・仇討ちを諦めさせるのは無理であろう。

 そうなると吉右衛門の意思を確認せねばならないが、与五郎は迷っていた。

 吉右衛門のみでは余りに不利、そうなると助太刀を付けるべきだろう。

 では、誰を?


「その方()の望みは承知している」


「ならばッ!」


「安心めされよ。悪いようにはせぬ」


 決闘を認めよう。

 この場の様子を見た上で与五郎は判断した。

 吉右衛門が怯えるようであれば違った判断になったと思うが・・・

 普段と変わらぬ様子である。

 いや、どこか憐れみの目で上杉家の者達を見ていた。

 少しだけ気になった。

 釈真和尚を見る。

 いつもの笑顔だが与五郎の視線を受けて軽く顔を横に振った。

 致し方なし、といった所か。

 野間之関に詰めている同僚の武士達もまた、同様であった。


「山右衛門・・・いや、寺坂吉右衛門。この者達が仇討ちを望んでいる」


「・・・はい」


「望むのであれば決闘の場を設けるが、如何に?」


「・・・受けましょうぞ」


 与五郎の問いに吉右衛門は即答であった。

 皆の表情を確かめてゆく。

 ・・・微かな熱気が与五郎の頬を叩いていた。

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