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最後の四十七士  作者: ロッド
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制裁

 どうやらお江は夜通し与五郎の説教を受けていたようだ。

 同時に何名かに話を聞いていたようだが・・・

 その辺りについて吉右衛門は知らない。


(・・・お江の思い上がりはどうにかせねばならん)


 お江の父である与五郎はそう思ったようだ。

 屋敷の庭で互いに木刀を手にして試合という名の制裁を加えた。

 ・・・結果は完全に返り討ちである。

 お江の前に与五郎は一本も取れず一方的に打たれ続けていた。

 これには試合を目の当たりにした吉右衛門も驚いた。


(・・・これは・・・安兵衛様でも勝てるかどうか・・・)


 丸山与五郎が弱い、とは思えない。

 吉右衛門の見立てならば堀部安兵衛に迫る力量があるだろう。

 ・・・吉右衛門自身が相手になったならばどうか?

 まるで相手にならない、と思う。


「・・・弥助! 出て参れ!」


 吉右衛門の背後から音もなく影が進み出る。

 ・・・気配が感じ取れなかったことに吉右衛門は驚いた。

 今はまるで獣のような存在感がある。


「お江の相手をせい!」


「・・・承知」


 木刀、ではなく木の枝を手にした弥助。

 その姿はどこにでもいる農民、そうでなければ猟師といった所か?

 吉右衛門には武士に見えなかった。

 だが、それもお江との試合が始まると我が目を疑う様相であった。

 双方、どれだけ打突を繰り出しているのか、目で追えない。

 それは与五郎も同様であったようだ。


「・・・まさか、これ程とはの・・・」


 そう呟く与五郎も我が娘を見る目が変わってしまっていた。

 与五郎には二人の息子がいる。

 長男は江戸屋敷にて勤番、次男は鶴丸城下で奉公に出ている。

 剣の腕前もなかなかのものだ。

 だが、それもお江の前では色褪せる。

 与五郎自身も野間之関を預かる屈強の武士の一人である。

 生半可な腕前の武士に剣を取って遅れをとることはない

 それがお江相手にまるで歯が立たなかった。


(・・・お江を鍛えたのは親父殿か・・・)


 与五郎の父もまた屈強の武士であった。

 その父を相手にしては与五郎も勝てる気がしなかったものである。

 父との鍛錬の日々は今も思い出せる。

 生易しいものではなかったのだ。

 お江もその鍛錬を受けていたのであろうか?

 与五郎が江戸屋敷で勤番をしていた数年間に何があった?

 それを知る術はない。

 与五郎の父は既に他界していたのだから。


「・・・治五郎、宇都野々の佐平次を呼べ!」


「・・・ハッ!」


 弥助が蹲っていた。

 両手が震えている。

 何が起きていたのか、吉右衛門にも与五郎にも分かっていなかった。


「・・・手を抜いておって、これか・・・」


「・・・これでようも呼子衆を名乗れたものよな?」


 お江が手を抜いていた?

 とてもそう見えなかった吉右衛門である。

 それは与五郎も同様であった。



 関外の治五郎が連れてきたその男はどこか茫洋とした雰囲気を身に纏っていた。

 宇都野々の佐平次、と与五郎に名乗って以降、黙ったままである。

 視線はどこにも合っていない。

 呆けているようにしか見えなかった。


「・・・多少、手荒にして構わぬ。お江の相手を致せ」


「・・・」


 吉右衛門の目の前で、佐平次の姿が消えた。

 お江の姿までも一瞬で消えていた。

 姿が見えた、と思った次の瞬間にはまた消えている。

 両者の姿が目で追えない?

 何かがぶつかる音が耳を叩いている。

 そして両者の動きが、止まった。


 佐平次がゆっくりと、地面に崩れ落ちる。

 お江は?

 木刀を放り投げていた。

 その額には僅かに汗が滲んでいた。


「・・・父上(おやっどん)、気は済んだか?」


 与五郎に返す言葉はなかった。

 吉右衛門もまた、与五郎にかける言葉が見付からなかった。


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