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最後の四十七士  作者: ロッド
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憤怒

(・・・情けない)


 お江は憤っていた。

 それは呼子衆に対するものだけではない。

 自分自身に対しても憤っていた。

 昔から男衆に負けはしない、その自負ならあった。

 父の与五郎が江戸屋敷勤番となったのはまだ小さい頃でお江は祖父に育てられた。

 武術はその祖父に仕込まれたと言ってよい。

 その腕前は治五郎を始め共に遊ぶ子供達の中で突出していた。


「お江が男であればのう」


 そう。

 祖父には昔からそう言われてきた。

 そう言われる度に鍛錬に没頭した。

 男に負けるものかと、その一念であったのだ。

 そしてお江に思いもよらぬ出来事が次々と起きる。

 許嫁の病死である。

 祝言の三日前であった。

 与五郎が江戸から戻って改めて許嫁が決まったが、その男もまた病死している。

 これも祝言の十日ほど前である。

 そして三人目の許嫁は祝言の日に突然死。

 原因は不明。

 人々はお江は呪われていると噂した。

 或いはお江が殺したのだとも言う者すらいた。

 今ではお江が呪い殺したのだと口にする者がいる。

 お江や与五郎の前でこれを口にする者はいない。

 だがお江も与五郎もその噂を知っていた。


(・・・男のくせに)


 お江は男衆全てを憎んでいたと言ってよい。

 幼い頃共に遊んだ治五郎も、呼子衆も、父である与五郎すらも、である。

 今のお江にしてみればいずれも一対一ならば負ける気がしなかった。

 唯一、剣の師である祖父には勝てる気がしなかったがその祖父は二年前に亡くなった。

 ・・・男衆を見下すようになっている自分がいる。

 それは自覚している。

 今では鬱憤を晴らすかのように山に入っては獣を狩った。

 鹿を、野犬を、猪を、熊を、狼すらも狩る毎日である。

 それを父の与五郎は知らない。

 いずれ呼子衆辺りに見付かるであろうが気にしていなかった。


(・・・そのうち獣()きとでも噂になろう)


 今更、お江が気にすることではなかった。

 元々、嫁入りも気乗りしなかった。

 いずれの相手も祖父や父が決めたものではあった。

 それぞれ武士として及第点であっただろうが、お江にとっては違う。

 弱かった。

 己よりも弱い男に嫁ぐ我が身を嘆いたものであった。

 呪いであるのかは知らぬが祝言前に次々と死ぬとはどういうことなのだろう?

 お江には分からなかった。

 ある意味、僥倖と言えなくもない。


 ただ、困っていることならばあった。

 今や呪われた娘として恐れられている自分に夜這いを仕掛ける馬鹿な男達がいるのだ。

 度胸試し、であるらしい。

 無論、誰一人として夜這いを成功させていない。

 全員、叩きのめして戸板に乗せて上ノ馬場に晒しているお江であった。


(・・・赤穂浪士、か)


 元々、吉右衛門の譫言(うわごと)を漏れなく父の与五郎に伝えたのはお江である。

 江戸で赤穂浪士が吉良邸に討ち入った事件は出水郷でも評判となっていた。

 お江から見たら貧相なあの男が主君の仇討ちを果たしたというのか?

 ある意味武士道の本懐とも言えるだろう。

 だが主君の後を追い自決しなかったのがお江には解せなかった。

 同時に羨ましいとも思っていた。

 女のお江には望んでも到達出来ない世界にあの吉右衛門はいたのだ。

 お江は父達と吉右衛門が何を語っているのか、気になり始めていた。

 呼子衆とはまた別の場所で聞き耳を立てるお江であった。

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