詮議
(・・・これはどうしたものか)
その日、吉右衛門は丸山与五郎の屋敷にいた。
釈真和尚のお供であったのだが、様子がおかしい。
武士が二名、同席していた。
片山久兵衛、それに南園平十郎と紹介されたが共に訛り言葉ではない。
与五郎と同様、関所勤番の武士であるのだという。
問題はその視線であった。
明らかに、好奇の目をしている。
それは与五郎も、そして釈真和尚も同様であった。
「お江よ、酒を持って参れ」
与五郎がそう言うと控えていた女が目礼して座を退いた。
そのお江という女の視線も気になる。
何故か、睨まれてしまっていた。
それに久兵衛と平十郎がお江を見る目も少し気になっていた。
何かに恐怖するような感じがしていた。
「さて・・・そろそろ御身の話を聞いてみたいが・・・如何じゃ?」
「拙者の、でございますか?」
「いかにも、寺坂吉右衛門殿」
与五郎は普段から吉右衛門を山右衛門と呼んでいる。
それを吉右衛門と呼ぶ、その意味は?
聞くまでもなかった。
彼は赤穂浪士であった事を知っているのだ。
吉右衛門自身の詮議をするつもりであるのに違いない。
「儂は江戸の薩摩藩邸で勤番をしておった時、吉良邸仇討ちの報を殿に言上した事がある」
「・・・」
「あれは痛快であった。近来稀に見る、な」
「・・・何故、拙者が赤穂浪士と?」
「最初に運び込まれた際、譫言でな」
譫言で?
吉右衛門には当然、覚えがない。
一体、何を呟いていたのであろうか?
「話したくない事があれば話さずともよい」
「・・・」
「まずは身の上話から聞いて参ろうかの」




