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最後の四十七士  作者: ロッド
12/36

示現流

(・・・これは)


 小高い丘、と見えたが近くで見ると違う。

 遠目では屋敷が並ぶように見えたが、違う。

 城としか思えなかった。


「出水(ふもと)じゃ。地頭(サァ)・・・いや、地頭(さま)のお膝元じゃよ」


「・・・地頭様?」


「今は代官様がおるだけじゃがのう」


 一国一城令。

 江戸幕府が布告、一藩に一城を定めた命令である。

 徳川家康が策定したともされ、主な目的は諸大名の軍事力削減であった。

 例えば薩摩藩の場合、鶴丸城(鹿児島城)が本城となる。

 他に城を持つのは飛び地でもない限りあってはならない決まりであった。

 だが薩摩藩は外城(とじょう)制度を既に設けていた。


 外城制度とは?

 関ヶ原の戦いから二年が経過した慶長七年に鶴丸城は着工、慶長九年に完成した。

 この鶴丸城を内城とし、薩摩藩各所の拠点を外城とし、領内全てを城と見立てるのが外城制度である。

 要害となる場所の近くに武士を集めて住まわせた武家屋敷群を(ふもと)

 その(ふもと)の中心に置いた役所を仮屋(かりや)

 武家屋敷群に通された広い道は馬場(ばば)と呼ばれ訓練場と防御施設をも兼ねていた。

 この外城は後に郷と呼ばれるようになった。

 江戸時代後期には薩摩藩で地方在住の武士を郷士、鶴丸城の武士は城下士と呼ばれるようになる。

 一国一城令の発令後も薩摩藩は外城制度を維持しており、命令に従っているとは言い難いのである。



 吉右衛門は丘の向こう側にある山の頂上に城郭があるのが見えていた。

 森に覆われていて朽ちているようにも見えるのだが・・・

 そのまま城として機能しているようにも見えた。


「・・・和尚様、あれは?」


「亀ヶ城じゃな。今や廃城じゃよ」


 釈真にそう言われても尚、違和感が残っていた。

 確かに使われていない雰囲気はある。

 しかし城郭が打ち壊されているように見えない。


 疑念を持ったまま、釈真と吉右衛門は屋敷が建ち並ぶ通りに出た。

 広く整地されたその通りのあちこちに切り取られた枝が積まれているようだ。

 そして子供達。

 身なりの整った子もいれば農民としか思えぬ子もいる。

 各々が手に木の枝を持っていた。



「「「「「「「チェァァァァァァァァーーーーーッ!」」」」」」」


 気合いを発し、積まれた木の枝の山に向けて子供達が突撃する!

 手にした木の枝で積まれた木の枝を打つ!

 そして後退、再び木の枝を構えると突撃。

 これを繰り返した。

 それにしても構えが独特に見えた。

 袈裟斬り、逆袈裟斬りに木の枝を振っているようだが・・・



「・・・これは?」


「示現、じゃな」


「・・・じげん?」


「東郷重位公を祖とする剣法でな」


 示現流。

 元々は天真正自顕流と称する。

 天正十五年に島津義久に従い上洛した東郷重位は善吉和尚に師事して天真正自顕流を学んだ。

 後に島津忠恒に認められ示現流と称するようになる。

 これは経典の一文、示現神通力に由来するという。

 そしてその教えは薩摩の風土によく合致するものであったようだ。

 剣法の多くは無益な殺生を戒めている。

 だが示現流では危急の際は迷わず無念無想に打て、と教えている。

 稽古では一旦木刀を持てば敵と相対する事が前提であり互いに礼はしない。

 実戦をより意識した流派と言えるだろう。



「釈真(さぁ)じゃ!」


「「「「「「「おはようごあすッ!」」」」」」」


善哉(よきかな)善哉(よきかな)


 釈真が子供達に手を合わせ合掌して一礼する。

 吉右衛門もやや遅れて一礼していた。



「・・・和尚様、こん方があの」


「うむ。山右衛門じゃよ」


 指導役であった若者の目は興味津々といった所であった。

 吉右衛門にはそれが少し気になった。



「・・・こん方が山右衛門(さぁ)じゃ! 挨拶せぇ!」


「「「「「「「おはようごあすッ!」」」」」」」


 若者の声に応じて子供達が再び挨拶する。

 純真な子供達の視線はどれも興味津々の態である。

 吉右衛門は再び挨拶を返すことになっていた。

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