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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第一部:元老人は蒐集欲を抑えない
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幕間:滑稽-3

 暫く時を置き、屋敷内は明かりを取り戻す。だがしかし、そこに広がっていたのは惨憺たる光景であった。


 廊下に転がる無数の警備兵達。警備兵の殆どが謎の侵入者によって行動不能にされていたのだ。幸い死傷者は無く、その全員が麻痺により倒れ伏していたという。


 そんな報告を連絡役の警備兵から受けたディーボルツと共に面談室で待機していたスーベルクは余りの出来事に呆気に取られる。そして我に返り、顔を真っ赤に紅潮させ青筋を額に浮かべながら客人の前にも構わずに声を上げる。


「き、貴様等!! それでもこの国随一の民間警備ギルドか!? そんな体たらくでよくも私の前に顔を出せたものだな!? え!?」


「も、申し訳ありません!!」


 警備兵のそんな謝辞にもスーベルクは未だ怒り心頭に警備兵に対し罵詈雑言を吐き掛ける。だがそんなスーベルクの口を見かねたディーボルツは咳払い一つで黙らせる。


「こ、これは大変お見苦しい所を!! 申し訳ありません!!」


「よい。さて、では混乱も収まりそうなご様子。私はそろそろお暇させて頂こうかの」


「は、はい!! 本日はお時間が無い中、私めと面談して頂き有難うございます!! 並びに今回の騒動、謹んでお詫び申し上げます!!」


「よいよい。では帰るとする。ああ、見送りは結構。貴殿はこの状況を早急に処理する事に専念したまえ。よいね?」


「ははっ!!」


 そうしてディーボルツが屋敷を後にする。それを遠目で見送ったスーベルクは血相を変え、一目散に書斎へと走る。恐らくスーベルク自身、これまでの人生で一番全力を出した疾走に違いないと感じながら、書斎に辿り着き勢い良く扉を開け放つ。


 瞬間目に飛び込んで来たのは無残にも割れた窓ガラスとあたりに散らばるガラス片。スーベルクは一瞬激しい動悸に襲われるも、乱れる息を無理矢理押し殺しながら一旦冷静に周りに誰もいない事を確認し、扉を閉め、内心で祈りながら書斎机へと歩み寄る。


 だがしかし、スーベルクの目に映ったのは考え得る限りの最悪の事態だった。


 書斎机の引き出しが全て取り外され、引き出しの奥に隠されていた金庫は見つけられている。そして金庫自体には一切のこじ開けた形跡は無く、また金庫に封印されていたスキルが発動した様子もない。にも関わらず、金庫はその口をぽっかりと開け、中はもぬけの殻となっていた。


 余りにも受け入れ難い現実に全身からおぞましい程の寒気に襲われ、スーベルクは我を失ったかのように虚しく口を開けた金庫に縋り付く。


「嘘だ……、無い、無い……無い!! 嘘だ嘘だ嘘だ!!」


 目を凝らし、目をこすり、何度中身を確認しても、そこあった筈の様々な証拠は綺麗さっぱり消え失せている。


「!? ま、まさか!?」


 何かを思い当たり、今度は金庫内の引き出しを開ける。しかし、そこにも何も入っていない。


 スーベルクはそれを確認すると、全身の力が抜けたような浮遊感を覚え、思わずその場に力なく座り込んでしまう。


「せ、精霊の……涙さえも……。これでは異種族との取引さえも水の泡ではないかっ…………!!」


 この金庫に仕舞われていた精霊の涙はスーベルクが闇商人から買い叩いた逸品。ただでさえ見掛けるのも稀な精霊の奇跡にも近い確率で生成されるそれは、取引している異種族国家の要人に依頼されて数年掛けて漸く手にした物であった。


 だがそれが盗まれたとあっては数日後に迫る取引が行えない。異種族国家の要人はそんな失態を犯したスーベルクを許さないだろう。かと言ってもう一度入手するなど不可能に近い。


 そんな現実にスーベルクは、込み上げてくる怒りと絶望でうずくまり、言葉にならない言葉で呻き声を上げる。


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