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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第一部:元老人は蒐集欲を抑えない
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第六章:貴族潰し-21

 金庫の見た目は普通。至って一般的な黒い金属の金庫だ。ならば早々に金庫を開け、中にある証拠品を掻っ攫いこの屋敷を後にする。それだけで済むのだが、ここで一つ、スキル《罠感知》を使って確認してみる。


 するとどうだろう、私の目にはこの金庫が真っ赤に光っている様に見えるではないか。


 これは間違いなく、この金庫に罠が仕掛けられているという事。恐らくだがこの金庫を不用意に開けた場合、中の物が炎上なりするのだろう。それはこの万能鍵を使ったとて同じ。全く用心深い。


 だがここで焦ってはいけない。罠が仕掛けられているとはいえ、開ける手段がないわけではない。開ける手段がなければそもそも保管しておく意味がないからだ。故にどこかに開ける為の何かがある筈なのだが……。


 取り敢えず《解析鑑定》を使い、その特性を調べる。すると……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アイテム名:不盗の金庫


 種別:スキルアイテム


 概要:スキル《焼失》を付与された金庫。不当な手段で金庫を開錠しようとした場合、その中の物を燃やし、焼失させる。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんとこの金庫、スキルアイテムであった。なんとまあ、贅沢な。まあ、それだけこの金庫の中身が大事なのだろう、故に証拠が眠っている可能性も大きいという事、上々である。


 さて、では問題の開け方だが、スキルアイテムならば寧ろ好都合である。


 この金庫、無理矢理開けるなどのイレギュラーな開け方をした場合にスキルが発動する様だが、ではそのスキルが消失した場合はどうなのか? 当然金庫を開けようとしたわけではないのでスキルは発動しない。そしてスキルの消失した金庫ならば後は煮るなり焼くなりこちら次第である。


 金庫からスキルを消す。普通ならば思いも寄らない所業だし、そもそも実行出来る手段が普通はないし一般的ではない。だが私なら?


 私は金庫に手を触れ、徐々に魔力を流し込む。そう、私はこの金庫からスキルを習得してしまおうと考えているのだ。


 スキルアイテムとスクロールは基本的な作り方は一緒である。スキルを封印する物が羊皮紙かその他の物品か、それだけ。ただ羊皮紙はスキル習得に特化し、その他の物品は普段使いに特化しているというのが一般的だ。


 しかしだからと言ってその他の物品からスキルを習得出来ないわけではない。可能性は限りなく低く、そもそもそんな発想がないらしいが、やって出来ないことはない。


 私のユニークスキル《強欲》は一度習得に失敗した後、二度目の習得の際に流し込んだ魔力の分だけ習得率を底上げする権能がある。いま私の中にある魔力量は少ないが、買っておいた残り一本の魔力回復ポーション、そいつを使えば恐らくいける。


 元々この残り一本は研究用に残していたのだが、緊急事態故、致し方ない。こんな事になるのなら体力回復ポーションの量を減らし、その分を魔力回復ポーションに回せばよかった。今日はイレギュラーな出来事が重なって事があまり思い通りに行っていないのが原因だ。まったく、ままならない。


 そうして私は魔力回復ポーションを一本呷り、魔力が漲るのを体感する。準備は万端、後は……。


 私は金庫に魔力を一気に流し込む。金庫に封印されたスキルに魔力の線を結び付け、少しずつ私に引き寄せる。だがやはりスクロールでないからなのか、その結び付きは全く安定しない。強風の中で一本の蜘蛛の糸を真っ直ぐに伸ばしている様な不安定さ、これが平均的なスキルアイテムからのスキル習得難易度なら、そりゃ普通はやらない。十中八九失敗する。現に、


 そうする間に魔力の線はあっさり途切れ、封印されているスキルはそのまま魔力として霧散出し始める。


 ん? そういえばスキル習得失敗した場合、スキルは魔力として霧散するんだったか? なんだ、それなら問題ないじゃないか。このままスキルが霧散してくれれば結局は金庫からスキルは消失する。スキルアイテムとしての金庫は普通の金庫となり、安全に開錠出来る。うん、なんの問題もない、問題はないが……。実に勿体無い。


 私は構わず再び金庫に魔力を繋げる。ユニークスキル《強欲》を発動、更に追加で魔力を注ぎ、習得を底上げしていく。霧散し出した魔力も無理矢理巻き込み、私の中に収めていく。


 折角のスキルを習得するチャンス、みすみす逃す私ではない。そもそも魔力回復ポーションを一本消費してしまったのだ、何が何でも活用しなくては私の気が済まない、我慢ならない。


 さあ、私の一部として大人しく仕舞われろ。存分に活用してやるから。


 そうして金庫に封印されたスキルの全てが私に定着する。新たなスキルが私に備わり、少しだが心に高揚感が満ちる。嗚呼、私はこの感覚が好きなのだ。堪らないな。


『確認しました。補助系スキル《焼失》を習得しました』


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