第一章:四天王の華麗なる艱難-17
「ロリーナ」
「はい。グラッドさんを治療します」
「頼んだ。エルシー。エイダ」
「「は、はいっ!!」」
「お前達はキャサリンの治療を。そこの男は私が対処するから、気にせず練習通り落ち着いて当たりなさい」
「「はいっ!!」」
「さて……」
……震えてるな。
私に甘えて顔を擦り付けてくる竣驪から伝わる、小刻みな震え。
覗く目の生気は薄く、漏れ出る息も乱れている。
恐らく取り除いた虚神が、竣驪の身体や力……そして魂を安定させる楔のようなものだったのだろう。
それを失った今、その負担が一気に彼女に押し寄せている……。このままでは肉体が耐えられず崩壊してしまうかもしれない。
取るべき手段は……限られているだろうな。
ふふふ。私は運が良い。
「シセラ」
「はい」
私の胸中から血色の光球が飛び出し、猫の姿を取って地面に着地する。
「あの遺跡、そうだろう?」
「……はい。ここにあったなんて……」
「交渉し、一匹捕まえて来なさい。なるべく迅速にな」
「畏まりました」
シセラが駆け、遺跡の中に消えていく。彼女が連れて来るまでは、私が何とかせねばな。
「……辛いか?」
声を掛けると、竣驪は小さいながらも顔を上げ、微笑む。
「問題、ありません……」
「なんだそうか? 辛いようなら膝枕でもしてやろうと思っていたんだがな。まあ、寝心地は保証でき──」
「辛い、ですっ! もう、立っているのも限界でっ!!」
「ふふふ。私の前でくらい素直になりなさい。君の魅力は気丈と高潔さだけではないだろう?」
「は、はい……」
竣驪の身体を支えながらゆっくりと彼女を寝かし、頭を私の両太腿に乗せてやる。
それと同時に彼女の頭を撫でながら魔力を送り込んでみる。
イメージとしては複雑な振動の波を相殺するようにして私の魔力で均す……。そうすれば揺れ幅も少なくなり、乱れが軽減されるかもしれん。
「……どうだ?」
「……はい。不思議と数段、楽になりました」
予想は当たっていたようだな。多少ではあるが不安定だった力や魔力が凪ぎ、その身にのしかかっていた負担も減らせたようだ。幾分か呼吸も安定し、僅かにだが表情が柔らかくなったように見える。
ずっとというワケにはいかんだろうが、これならば暫しは持つだろう。
「……主」
「ん?」
「……己のこの姿……喋れるようになった事……厄介なこの身の能力……主は、どのように……」
「うん。素敵だと思うぞ」
「──っ!!」
「まだ分からん事もあるだろうから今感じている率直な印象での話にはなってしまうがな。だが少なくとも今の君を、大変に魅力的に思っている事は間違いない」
「主……」
「まあ、仮に色々と判明したのだとしても、その印象と好感は増す事はあっても無くなりはしないがな。どんな君でも、君らしくさえあれば私は絶対に見捨ててなどやらない。手放さんぞ、竣驪」
結果的にこのような形になってしまった事は喜ばしくはあるが、例えこの先竣驪がただ特別なだけの馬だったのだとしても、私の彼女に対する愛情と執着は変わらない。
今回はそれに運良くオマケが付いてきただけの話だ。喜びこそすれ、残念がる事など微塵もない。
「逆に聞くが、君はどうなんだ? ただの馬を逸脱し、素敵な素敵な怪物になった気分は」
「……戸惑いが無いと言えば嘘になります。ただ」
「ああ」
「この力も、姿も、己が望んで手にしたものです。後悔などありませんし、そんな己を主が認め、寿いで下さるのなら、それ以上などあろう筈がありません」
理路整然とした口調。
気高さを感じさせる言葉遣い。
弱味を感じさせぬ語気。
宛ら女王の如きその振る舞いはただの馬であった頃と何ら変わらない。
私が内心で思っていた通りの竣驪そのままだ。
……少し安心する。
「……主?」
「いや、君らしくて素敵だ、とな」
「……恐悦至極に……」
「ふふふふふふ。…………なんだ? 腹でも痛いのか?」
背後で這い動く気配に声を掛けながら、そいつを《溶岩魔法》で現出させた溶岩のサークルに閉じ込める。
「──ッ!?」
「跨ごうなどと思わない事だ。その瞬間溶岩の範囲を広げてお前をグズグズにしてやる」
「……くそ」
男は私の言葉で諦めると大人しくサークル内で畏まり、苦しそうに胸を押さえ頭を抱える。
「……成る程。「魂の契約」が不履行となるとそうなるワケか。勉強になる」
「は、ははっ……。アンタか。グラッド達が言ってたおっかねぇボスってのは」
ほう。グラッド達私の事を話したのか。
あまり面映い部分を漏らしていないと良いのだがな。これでも最低限の尊厳くらいは気にするタチなんだ。
「アンタ……どうやって……いつの間に来た……。気配なんざ、微塵も……」
「ふふふ。お前如きに悟られては話にならんよ。私を誰だと思っている」
「そう、かよ……ただ、その方が何なのか……知ってんのか?」
「その方?」
随分と仰々しい物言いだな。まあ、コイツらからすれば無理からん話か。
「幻獣様はなぁ……。アンタ程度が気安くしていい……お方じゃ、ないんだ……。幻獣様は俺たちの──」
「 や か ま し い 」
「──ッ!?」
無粋な男に《熱冷魔法》の魔術「灼熱は君を歩かせない」を浴びせかけ、妄言を吐く口を黙らせる。
「か……はっ……」
「急激な乾燥による脱水症に魂の破損……そこに熱中症もプラスしてやった。なまじ身体が丈夫だと苦しいだろう? いいぞ存分に苦しめ」
「ひゅぅぅ……ひゅぅぅ……」
「……貴様こそ、気安く竣驪をくだらん呼称で呼ぶんじゃない。この子は私の馬だ。他の誰でもない、私だけのな」
「……」
失神した、か。軟弱者め。
後々の拷問で簡単に失神されては敵わんのだがな。メルラに迷惑を掛けてしまう。
──と、来たか。
目を遺跡の方へと向ける。
そこには先程遺跡内に入って行ったシセラが後ろに緑色に発光する光球を連れ、コチラに戻って来るところであった。
「遅くなり申し訳ありません」
「いや構わん。存外安定させられたのでな」
「左様で」
「それで……彼が?」
目線を光球へと向ける。
すると光球は緑色から黄色と体色を明滅させ、私に接近して来た。
『お初にお目に掛かる、お客人。我はそこな遺跡に存在する〝コロニー〟に在る大精霊が一体。このような辺境まで遥々、よく来た』
……言葉遣いはちゃんとしているが、滑舌が随分と辿々しいな。頭に響いて来る声質も若干幼いし、本当に大精霊なのか?
喋り慣れていないというか何というか……。
『話は聞かせて貰った、お客人。今シセラ殿より微精霊を預かり、霊力を注いでおる』
「そうか」
『加えて我等精霊の一体──今回は我だが、何か用向きがあると?』
「……」
私がシセラを横目で見ると、彼女は露骨に目を逸らし、素知らぬ顔で明後日の方を見ている。
私の言った説得は微精霊の話ではないのだがな……。早々に私に丸投げしようと諦めたなコイツ。
……はぁ。まあ、仕方がない。
「不躾になってしまうのだが……」
『ああ』
「……彼女と同一化しては貰えないだろうか?」
『……え?』
「……」
──暫しの沈黙。
恐らく出来るだけ受け取った言葉を咀嚼しているのだろう。額面通りではない意味がある何かがあるのではないかと。
しかし残念ながら、そんな含みは一切ない。
『……浅慮故、素直に聞き返す』
「ああ」
『その言葉はつまり、我に犠牲になってくれ、と? 何の得も無く?』
「そうだな。私がしてやれるのは、同一化したお前に、今まで見た事もない景色とした事のない経験をさせてやるくらいだ。この暗い洞窟の、更に暗い遺跡の中に在るコロニーでは絶対に味わえない……そんな経験を」
『ふむ……』
「それに興味がないなら、そうだな──」
精霊相手に交渉するとなると、一般的な前提は微塵も通じない。
シセラやムスカの時のような明確な願望があるならばそれを叶えてやる事で可能ではあるだろうが、そんなものを窺い知れない彼相手にコチラが出せるモノなど限られている。
それこそ彼等が現状叶える事が出来ず、且つ彼等のような浮世離れした別次元の存在でも望みそうなモノ──という曖昧な回答になってしまうものくらいだ。
金銭など論外。都合数百年から数千年以上を引き篭もっている精霊の趣味嗜好など想像の余地はないし、かと言って今から親睦を深め探ろうなど話にならない。
……故に、私はこういう言い方しか出来ない。
「お前の望みを叶えてやる。精霊としての役割に準ずるお前ではなく、名もないお前という一個体としての望みを、だ」
精霊には心がある。シセラやムスカを見ていれば分かる。
心があり、思考するならば自ずと感情は発芽し、欲望の実を結実させる。
「私はこれでもそれなりの人間であり、更に高みを往く。仮に今その望みが叶わぬとも、私の命が続く限りはいずれ必ず、叶えてやる」
《仙人眼》を発動。その権能を利用し、《欲望の御手》の権能で精霊を撫でる。
精霊には欲望がある。
欲望抱く者ならば、私の言葉はさぞ甘く響くだろう。この手はさぞ魅力的だろう。
掻き乱される欲望に、果たしてお前の理性は錠を掛けたままでいられるかな?
「さぁ、選べ。その魂と心で己が欲望を解き放つか、それともこのままここでいつ来るとしれない次の機会をただ待ち続けるのか」
『……』
「……」
『…………』
「…………」
『──この我々のコロニーにはかつて、大罪が一つ「怠惰」が封じられていた』
「む?」
なんだ? 急に何を語り出した?
『お客人が知っているかは分からんが、遥かなる古の昔、とある禁忌を犯した幸神様であり欲神様は、その咎の為に自らの神体を神域へ、権能と魂は十八に分解させられ、この地上世界へとそれぞれに封印した』
「……」
『だが彼の権能と魂は他の神々より余程近しい波長を有し、封印される直前、それらは最も自らに性質の近しい知的支配種族に目星を付け〝スキル〟として、その姿形を変容させたのだ』
「……それで?」
『神々とて愚かではない。それらを封印する際、それぞれの波長が合致する種族の元から離れた位置にて封印を施し、そこを地脈点として魔力と霊力を循環させ、龍を遣わし我々精霊にてコロニーを形成させたのだ。美徳と大罪、その両者に余計な力を蓄えさせ封印を破ろうとさせない為にな』
……成る程。そんな経緯があったワケか。
私の中の大罪達は教えてくれなかったがな。
まあ、どうせまた制限が掛かっている云々と言い出すのだろう。
そしてそれもまた、神々が欲神に施した封印の一部、か……。
『しかし、神々は侮っていた。美徳と大罪の執念と、地上の知的支配種族達の飽くなき欲の深さを』
「まあ、そうだろうな」
『「暴食」は深き森の奥に座しながら祖国守護を抱く魔族の女剣士に解かれ、化け物として我が子を守りながら死に』
ふむ。どこかで聞いた話だな。
『「嫉妬」は深淵なる洞穴に座しながら復讐と嫉みに焦がれた森精族の魔術士に解かれ、黒く荒んだ身に堕ち同族を数多屠った末に死に』
こっちは初代「嫉妬の魔王」か? 随分とまあらしいヤツに狙われたもんだな。
『「強欲」は「無竜サルトル」の塒に座しながら正義感溢れる人族の真なる勇者に解かれ、自身の裡に眠る醜き欲望に焼かれた末に死んだ』
……コチラは初耳だな。
竜に挑む英雄譚ならば大抵は書籍化されたり吟遊詩人に謳われたりしているはずだが……。
……まあ、何かしら都合が悪かったのだろう。その時代その時の権力者にとって、その勇者の話が広まる事が。
しかし我が「強欲」が勇者に、ねぇ。
話振りから察するに、その時代に於ける勇者が美徳スキル保有者でなく、本当の意味合いでの〝勇者〟なのだろうな。
もしかしたら美徳スキル保有者を勇者と呼称しているのも、その真の意味での勇者を風化させる為の情報戦略なのかもしれん。
その流れで大罪スキル保有者には魔王、と……。まったく、俗っぽい。
『そして、この地に眠っていた「怠惰」……。奴は……』
「……ん?」
『……奴は当時、「忙殺王」と名高かった地精種であった』
……また妙に親近感が湧く異名だな。
『奴は世界屈指の技術を持つ鍛治師であり、その時分世界中が奴の武器や防具を熱望するような戦乱の時代を生きていた。故に、奴がここに現れた時には半ば宛ら死人のように、身に降り掛かる期待と多忙に押し潰されそうになっていた』
「……ふむ」
『最早意識薄弱で、這うように「怠惰」に触れた奴は言った。「どうか自分を、無能にしてくれ」と。「こんな才能なぞ捨てる。だから自分を解放してくれ」……と』
「……」
『そして奴は全てを〝忘れた〟。記憶も、技術も、才能も……。何者でもなくなった奴のそれからの行方は……知れない。ただ恐らく奴は、碌な最期ではなかったろう。最後に見た奴の顔に、晴れやかさなど微塵も無かったからな』
「……それで?」
長々と昔話を聞かされて、私に一体何を期待している?
『ずっと……ずっと思っていたのだ。あんな頑迷固陋が形を成したような男が陥るほどの──絶望し、涙で顔を崩しながら救いを懇願するほどの〝期待と欲望〟とは何なのか? 本当はそれを……ずっと見守りたいと思っていた』
──コイツが一体、どんなものを見てきたのかなど知らない。
その初代「怠惰の魔王」がその後にどんな道を歩み、魔王と呼ばれながらどう死んだのかも知らん。興味も無い。
……ただ、そうだな。
「ならば来なさい」
『ほう?』
「想像していたよりも私の歩む道に近い願望だ。同道するというのならば、そう手間を掛けずに望みを叶えてやれそうだ」
『……我の願望を希薄なものと蔑んではいまいな?』
「まさか。確かにお前と知り合ってまだ十分と経ってなどいないし、況してやその中で互いの過去に同情や感傷など抱けん。所詮は端を聞き齧った程度のちょっとした味見に過ぎん。感情移入など以っての外だ」
『……』
「ならばこそ、今から積み上げようじゃないか。同情だろうが感傷だろうが、それともまた別の感情なのかは知らんがな。可能性は無限大だ」
『……なるほど』
「盛大にやってやるのも趣がありそうじゃないか? どうせなら美しく、荘厳で、誰もが感嘆するようなものを」
『大袈裟な。……だが、お客人には期待出来そうだ』
そう言うと大精霊はゆっくりと竣驪に近付き、その身を彼女の身体に潜り込ませていく。
『我の意識は、この乙女の意識の根底にて座すだろう。再び浮かび上がる事は、もう無いやもしれん』
「そうか? ならばたまぁに私が沈みに行こう。その時は愚痴にでも付き合いなさい」
『それはいい。……では、またいつか』
大精霊の身が完全に竣驪の中に消える。
それと同時に大精霊が放っていた光が竣驪の放つ魔力と少しずつ混じり合い、辺りに無差別にばら撒いていた旱魃を齎す魔力は鳴りを潜めだす。
すると竣驪の中で渦巻き暴れ回っていた魃驪としての力も落ち着き、漸く本来の安定性を維持し始めた。
「……気分はどうだ?」
「はい……。何というか……、牧場にまだ居た頃に、真夏の暑い時期にギルドマスターが《氷雪魔法》の使い手を呼んで涼ませてくれた時があるのですが……。その時の得も言われぬ心地良さを思い出します」
「ふふふ。なんだあそこ、そんな事までしていたのか?」
「はい。己は特別で、溺愛、されていましたから」
「それなのに君はあんなに暴れたりして……ふふ。その力が安定したら一度顔でも見せに行ってみるか? 君が喋り出したらきっと腰を抜かすぞ?」
「勘弁して下さい……。これ以上の親不孝は流石に気が咎めます」
「そうかそうか。ふふふふふふ……」
──少しして、竣驪は糸が切れたかのように意識を手放し、静かで可愛らしい寝息を立て始める。
身体は少しずつ縮みいつものサイズ──まあ、それでも並の馬よりまだ大きいが──にまでなり、走っていた滅紫色の模様は薄くなるだけに止まったものの、概ね私の記憶にある竣驪の姿へと回帰した。
はぁ……。やれやれ。心配させおってからに。
グラッドから《遠話》で連絡を貰った際、私は丁度エルフアンデッドとそれが持っていた呪怨が染み付いた武器をノーマン達の元へ持ち込んでいた時だった。
それを依頼通りビクターに渡して新たな呪怨属性の鞭として貰うつもりだったのだが……あんのジジイ、私に手伝って欲しいなどと吐かしやがった。
なんでも想定以上に呪怨属性が染み付いており、このままでは工房で作業を始めるとそれが周りに波及してしまい道具は勿論、自分達も使いモノにならなくなる……んだとか。
故にエルフアンデッドの周りに《光魔法》による結界を張り、且つ作業する自分の手元だけを正確無比に結界を通して欲しい……と。
まったくふざけた話だ。事前の契約内容にそんな文言など一切なく、料金に関してもその部分を考慮していない。
流石にノーマンもこれには呆れ「とりあえず料金に関しては差し引かせてもらう」と、ビクターを睨みながら約束してくれた。
カネに困っているワケではないが、こういう細かなところをなあなあにしてしまうのは信用問題に関わるし、何より舐められかねない。
締めるとこは締めんとな……。
──と、そんなこんなで私が手ずから手伝うハメになったのだ。
まさかその作業中に連絡が来るとはな……。
例えるなら手術中に部下の交通事故を聞き付けたような……そんな感覚だろうか?
一応は《魔人眼》と《万里眼》で遠隔で魔術を操作出来はするが、ビクターが要求するレベルの精密さであると不安がどうしても過ぎる。距離が離れ過ぎている故のラグなんかも考慮すると、あまり無謀は出来ない。
何より《遠話》が途切れた影響でコチラの状況が判然としなかったからな。駆け付けるのに時間を要してしまった。
「──ボス」
「ん? ああ、グラッドか」
竣驪の頭を撫でながら脳内で反省会をしていると、背後からグラッドが声を掛けてくる。
その声音は非常に申し訳なさそうに弱々しく、宛ら叱られ待ちの子犬のようだ。実に愛らしい。
「……ごめんなさい。ボク一人じゃ、色々と手に負えなかった……です」
彼は今回の顛末を、不甲斐ない結果だと思っているらしい。
確かに今回、グラッド達幹部は部下達のサポートに徹するよう通達していたし、彼はそれを遂行出来ていたかと問われたならば……ハッキリ言って想定内ではある。
トランセンド・ゴーレムが分化しルプス・ゴーレムを生み出していたのは流石に想定していなかったが、それを抜きにしても切り抜けられる算段──最悪私が割り込む目論見だったからな。
そもそも今回四人とその部下達に与えた任務の中でグラッドとロセッティに関しては、伝えていない真の目的がある。
敢えて窮地に陥らせる内容にしたのはその為だ。
「……私の考えとしてはな」
「え?」
「結果ではなく過程に不満を抱くのは成長の兆しだ、と……。勿論結果が十分な前提の話ではあるがな」
「う、うん……」
「それを踏まえて言えば、今回の内容は君が謝罪するようなものじゃない。結果的に成果は十二分であるし、自然に謝罪を口に出来る程度には過程での反省点を理解している……。素晴らしいじゃないか、実に。私は満足だよ」
「ぼ、ボス……」
「それに──」
振り返り、彼の顔を見る。
ロリーナによって治療され、激痛が止んで開けられるようになったその眼──
「上手く、目覚めたみたいだしな」
その眼は、滅紫色に妖しく輝いていた。




