第一章:四天王の華麗なる艱難-9
「そ、そんなもんあるなら、最初から出せよな……」
魔物討伐ギルド調査員──ウィリアムのオッサンがそんな事を不満そうに漏らす。
……というかこのオッサンの名前ウィリアムかよ……。なんでよりによってボクの旧名と同名なのさ。
あーあ、やりにきー。
「出したってどうせニセモノだなんだって難癖付けてきますよね? アナタ性格悪そうですし」
「なっ!? お、オレは自分の仕事を遂行したまでだっ!!」
「そうですか? グラッドさんは基本自己肯定感が低いので自分で性格悪いとか第一印象悪いとか言いがちですけど、私から言わせればアナタの方が自覚ない分タチ悪いですけどね」
「て、テメ……」
「他人を疑うのは否定しませんが、もっと人を見る目を養ってみては? じゃないと今後の対人関係に支障をきたしますよ? ……というか仲の良い同僚とか友達……います?」
「なっ!? こンのガキぃぃ、言わせておけばぁぁ……っ」
「はいはーいそこまでー」
二人に振り返ってケンカを止める。
このままじゃーさっきの続き始めちゃいそーだったからね。オッサンを寝かせるにはまだまだ日は高い。
今は仕事最ゆーせん。
「とりあえずオッサン」
「お、オッサン言うんじゃねぇ。ウィリアムだウィリアムっ!!」
「そーいうのいーから。早く調査結果教えてよ。さっさと終わらせないと村人のめーわくになるじゃん?」
──オッサンとのいざこざの後、ボク等は村人の案内で一つの家屋に案内された。
辺境の小さな村というだけあって宿屋なんてもんは無くて、あるのはたまーに来るお客の為に空けてあるっていう少しボロい平屋。
ただ広さ自体はそれなりにあって、先にお邪魔してたオッサンの部屋以外にもボク等二人分の部屋が掃除済みで用意されていた。
最初に懸念してた村人から爪弾きにされるって展開は幸い無くって、どーやら定期的に麓で交流してるから余所者に対してはある程度耐性があるみたい。
……まー、一般人よりは沸点は低いかもだから要ちゅーいに越したことないんだろうけど。
だからなるべく彼等を嫌な方向に刺激して村人に悪印象を与えない為にも、さっさと仕事を終わらせて余所者であるボク等は早めに出て行った方がいい。
この村との友好的な交友は、今後ボク等のギルドの為にもなるかもしれないしねー。
「……」
「ん? なに? そんな目なんか細めちゃってさ」
「いや……。オレを権力と暴力で脅かしといてスンゲー常識的なこと言うんだな、と……」
「あ? 言っとくけど、誰彼構わずあーやってるワケじゃないからね? 話が通じなくて頭の硬いけんもほろろなヤツにしかやらないよ」
「ふーん。お前の上司──クラウン殿ってのも、そんな感じなんか?」
あ。ちゃんとボスには敬称付けるんだ。
割とアッサリ権力にはなびくんだねー。
まー。悪いことじゃないからいいけど。
「ボスはボクみたいに短絡的じゃないよ? 遠謀深慮で権謀術数。身内には最大の敬意と寵愛をくださり、敵対する者には無慈悲で冷酷無比の果断さを見せる……。畏敬と畏怖をその一身に体現する正にっ!! ……ボク等の王だよ」
ボクにとっては救世主。
過去の呪縛から解放してくれて、新たな道を歩もうと手を取ってくれた英雄だっ!!
そんなあの人をボクは──
『ウィリアム……。妹、お願いね……』
…………。
「……なぁ、キャサリン」
「気安く名前呼ばないで下さい」
「あー……。じゃあお嬢ちゃん」
「なんです」
「その……。クラウン殿の部下であるお前ら──」
「「十万億土」です」
「……「十万億土」の連中ってのは、みんなあんな狂信者ばっかなのか?」
「……度合いはそれぞれ違いますが、少なくとも全員があの人を一定水準以上に尊敬し、畏怖しています。グラッドさんともう一人は、その最たるものですね」
「じゃあ、お前は?」
「私も勿論、尊敬してますよ。あの人の部下になってから今まで燻ってたものが開花していく実感を得てますし、上司としては信賞必罰を徹底するまさに理想形の人格者ですから。……ただ」
「ただ?」
「あまりに凄すぎて、そんな天上人の部下なんだって実感が湧かない時はしばしばあります。普段のあの人は私達身内に対して不気味なくらいに親しみがあって気さくですから。時々、歴史の教科書に載るような人だって事を忘れそうになるんですよね」
「な、なるほど。そりゃまた随分と──」
「それと不定期にもの凄く怖いです」
「え」
「この前なんて彼の美人な恋人がそれと知らない不調法者にナンパされていたんですが」
「お、おう」
「駆け付けた彼に捕まり」
「捕まり?」
「……腕の関節を五つにされていました」
「うっっわ……」
……なんだかこの前のボスの話してるみたいだけど、ボスの喧伝をしてるようだから放っておこう。
──っと、そーだそーだ。ボスの話を振られちゃったから少し話が逸れちゃったけど、今は仕事しなきゃね。うん。
「さーさ、オッサン」
「うをっ!? きゅ、急に正気になるなよ……」
「なーに言ってんの。ボクはいつもちょっとおかしいよ。慣れて」
「あ、ああ」
「んじゃ、話、聞かして。いったいぜんたいどんな魔物なのかさー」
──この村──ロエアは山の中腹にある平地に築かれた村で、その周りには鬱蒼とした森林が広がってる。
ロエアの村ではそんな森に自生する固有種の薬草「サワリガエシ」を採取し、それを秘伝のレシピで調合する事で作られる超高級万能薬「ケイア」を卸して村全体の生計を保っているワケなんだけど……。
「……遺跡?」
「ああ。森の奥に洞窟があってな。「サワリガエシ」ってのは、その遺跡の周りにしか自生してないんだとよ」
どういう理由か分からないけど、村人達いわく、その遺跡の周りは肌で感じるくらいに空気感が外と違っていて、その「サワリガエシ」も明らかに他の薬草とは異質な雰囲気を放っているそう。
元々薬草学に一家言ある身としては興味が尽きない話だねー。ボスからも──
『余裕があればサワリガエシやケイアについての調査も頼む。本来アレは乱獲と利権目的の侵略防止の為に調査が禁じられているが、自生しているものを少量私用で確保してしまう分には問題あるまい。あぁ、無論、栽培は御法度だからな? あくまでも君と私とロリーナの研究用だ』
──との話だったから、隙を見てちょっと拝借するつもり。
できれば種子なんかも回収して、小規模でもいいから栽培なんかしちゃったりすれば研究も深掘りできるだろうしね。
商業利用するワケじゃないし、そこまではしていいでしょ。
──んで、じゃあそれの何が魔物と関係してのかって話なんだけど……。
「厄介なことに、件の特殊個体魔物ってのはその遺跡の周りに現れたんだとよ。それで村人が薬草採れないって嘆いてんだ」
「遺跡の周り?」
……アレ? なんか事前に聞いてた話とちょっと違うんだけど?
確かー……森に少し異変があってそれを村人が懸念してーって話だったような気がするんだけどー?
「いや。別に間違っちゃいねぇよ」
「どゆこと?」
「村人が感じた異変ってのが漠然とした内容だったから分かりづれぇとは思うが、簡単に言やぁ、特殊個体魔物の影響で森の動物が一斉に洞窟遺跡周辺から避難して生息地が一時的に変わったのが原因だ」
「あーなるほど。ただでさえ普通の魔物でも周辺環境変えちゃったりするけど、特殊個体となったら余計にかー」
「むしろまだこの程度の変化で済んでんのは不幸中の幸いだ。魔物にもよるが、最悪の場合は村人の生活圏にまで野生動物が降りてきて村が壊滅しかねないからな」
「逆に言うと、このまま放置したらそうなってもおかしくない、か……。別にのーんびりやるつもりだったワケじゃないけど、なるだけ急いで解決しないとねー」
状況はある程度分かったかな。
ロエアは戦後衰弱気味なこの国にとって貴重な財源の一つ……。その命運の一助を任されたワケだから責任重大だね。
それだけボスが信頼されていて、ボスがボク等を信頼してるって事……。ああ……嬉しくって口角上がっちゃうなー。ふへへへ。
「……コイツなんで急に笑ってんだ」
「お気になさらず。グラッドさんは不定期にボスへの敬意と寵愛で少しトリップ気味になるだけなので」
「忠誠心限界突破してんのな。一体何がありゃそんなに……」
「詮索はナシですよ。アナタ程度に受け止められる話じゃありませんから」
「わぁってるよ。別にお前等と仲良しこよししてでワケじゃねって。つい口に出ちまっただけだよ」
「そうですか。なら構いません」
「へーへー」
「でオッサン」
「うわっ!? また急に正気に戻んなっ!!」
「肝心の魔物の情報、まだなんだけど?」
「あ、ああ……そうだったな。まだ話してなかったか……」
「オッサンの仕事のメインどころなんだからさー。頼むよーオッサン」
「頼みますよ。オッサン」
「オッサンオッサンうるせぇッ!!」
「んで? なんの魔物なの? 獣系? それとも洞窟だからー……爬虫類系?」
「……ゴーレム」
「え」
「遺跡の周りにいるのはゴーレムだ」
──ゴーレム。
その全身が岩石なんかの鉱物で出来た魔物で、様々な様相や種類が存在するかなり特殊な魔物の分類。
当たり前の事だけど、普通は鉱物なんかの無生物が魔物化なんてしない。
魔物化するのは動植物なんかの生物だけで、魔力の影響を受けて変異する事はあるけど、魔物化なんてのにはなることは無いってのが一般常識。
じゃあなんでゴーレムなんて岩石の魔物がいるんだって話なんだけど、理由は単純。
ゴーレムの正体は岩石じゃなくて、岩石同士を自身の特性で接合して動かす微生物──〝細菌〟の魔物らしい。
魔物化した事で微生物にはあるまじき〝知性〟を身に付けたその細菌の魔物は周辺の環境を把握して利用し、他の生物を取り込み栄養を摂取しながら増殖を繰り返して数を増やす。
そして岩石なんかの鉱物を自身を使って繋ぎ合わせて身体を形成して、最終的にはまるで鉱物で出来た生物みたいな造形にまでなり、魔物としての本能の赴くままに行動しだす。それがゴーレムと呼ばれる岩石魔物の正体という事みたい。
「微生物の魔物ってのは、実はかなり珍しい。生物として脆弱だから魔力に干渉されると自壊しちまうのが大半で、生き残ったとしてもかなり歪んだ形に変異しちまって寿命も極端に短くなる」
「ふーん。だからそこらじゅうに居るハズなのに微生物の魔物ってあんま聞かないんだねー」
「ゴーレム以外の微生物魔物で言うと、有名どころじゃあ〝スライム〟が居るな。アメーバって微生物が魔物化したもんだが、コイツに関しては環境さえ整ってりゃ比較的発生しやすい。場所によっちゃ群生してる場合もあるな」
……スライム、か。
そういえば前にボスが言ってたなー……。
『スライムを探してる?』
『ああ。スキル《大欲》の権能により、今の私は種族の特性をスキルとして習得可能となっている。スライムの特性である《形状変化》を習得出来れば、私は自身の意思でありとあらゆる形状に肉体を変化させる事が出来るようになるだろう』
『へー。身体を、ねー……』
『そうなれば今まで持ち腐れていた人族には存在しない身体部位を利用、強化する《堅角》や《堅鱗》等のスキルを活用出来るし、戦闘面では身体を変化させながら戦闘する事で敵に対策を取らせない戦法を取ることも可能だ。夢があるだろう?』
『だねー。変装とかも人相自分で変えられるんでしょ? 便利じゃーん』
『一応は《嫉妬》で似たような事は可能だが、アレは情報を書き換える分、自身をイジるのは少々怖いからな。《形状変化》ならばオフに切り替えれば元に戻り使い勝手がいい』
『普通の人はそんな器用にスキルのオンオフ切り替えらんないけどねー。さっすがボスっ!!』
『だが生憎、スライムは特定の環境でしか発生せん魔物な上に行動範囲が極めて狭く、オマケに繁殖と淘汰の間隔が短いから特定も難しいし発見自体が困難ときてる。わざわざ調査して探しに行かなくては会えん魔物だ。実に歯痒い』
──ボスが見つけられてないって事は、ホントにいないんだろうなー。仮に見つけられたら、きっと褒めてくれるんだろうなー。ふへへ。
「加えて、だ。洞窟の遺跡に居るゴーレムは知ってのとおり特殊個体。通常種はなんかの動物っぽい見た目の造形をしてたり、構成してる鉱物が岩石や粘土だったりするんだが……」
「つまりはそこが普通じゃない、と?」
「ああ。形状は概ね人型で身長は三メートル越え。構成してんのは外見上はただの岩石っぽいが、長時間高濃度の魔力に晒されて変異した〝魔岩〟に変異してる可能性が高い。知性も通常種より高いっぽくて、人型の体をそれは器用に動かしながら人間の真似事みたいな行動が散見されたな」
「人間の真似事って……」
「遺跡の周りを徘徊して、例のサワリガエシを摘んでんだよ」
「え、えぇ……」
「恐らく村人が採取してる様を〝見て〟たんだろうな。真似してる意味やら理由やらは知らねぇけど、このままじゃゴーレムによる人的被害以前にサワリガエシが無用に根こそぎやられちまう。割と深刻だ」
「なるほど……。悠長にはしていられないと」
「てゆーかオッサン随分と詳しいね? そんな近くまで行ったの? オッサン一人で?」
「それがオレの仕事だからな。戦闘能力は並以下だからそりゃ必死に隠れながらまじまじとよ」
ゴーレムが探知能力に疎かったのかオッサンが隠密だけなら優秀なのかは知らないけど、一応はちゃんと仕事してたんだね。
まー。しといてもらわなくちゃ困るんだけどねー。やっぱこんな場に派遣されるくらいだから調査員としては優秀なんだろうな。
……根性は曲がってるけど。
「ではオッサン。肝心な事を聞きますが」
「はぁ、もうオッサンでいいよ……。で、肝心な事?」
「ゴーレムの弱点ですよ。調査員のような方ならば魔物の生態にもお詳しいと聞きました。なら弱点もご存じなんですよね?」
「あ、んん、まあ、な」
「歯切れ悪いなー。なんなのさ」
「……お前ら、得意武器と戦法は?」
「え? ナイフ使った白兵戦と隠密暗殺。それから《嵐魔法》とそれを併用した感じかな」
「大弓を使った遠距離から超遠距離の射撃戦。一応は弩弓を使って中距離もやれますがまだまだ修練中です。魔法は《風魔法》を戦法に組み込めますが、精進の最中にいます」
「……なるほど、な」
「だからなんなんだよ」
「……ゴーレムの弱点は」
「うん」
「はい」
「……打撃武器だ」
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「──良い豆鉄砲だ。どこのおもちゃ屋で買ったんだ? 是非紹介してくれ」
正面玄関の扉を開けた直後。私を待っていたのは館の主人の出迎えでもなければ、使用人達の恭しい挨拶でもない。
視界一杯の鈍色をした黒鉄。それから放たれた鉛の暴風雨。
折り重なる破裂音と巻き上がる硝煙の匂いは前世のあの時分を思い出させ、ついつい懐かしさを覚えてしまう……そんな郷愁を感じる景色だった。
いやはや。これはとんだサプライズだな。素晴らしい歓迎だ。是非とも立案者に恩賞の一つでも贈りたい。
……まあ、それはそれとして──
「おすわり」
「「「「──ッッ!?」」」」
様々な銃火器で私を集中砲火したヤンチャな皆様には、少々〝床〟になって頂こう。
こう、帯状に玄関を塞がれては中に入れないのでな。
「さあロリーナ、段差になっているから気を付けて」
「はいクラウンさん」
彼女の手を取り、《重力魔法》で床に徹してくれている彼等を踏み越えながらリードする。
時折妙な呻き声が聞こえるが、沢山の銃火器をプレゼントしてくれたんだ。床が鳴くくらいは大目に見てやるとしよう。
「こ、こちらです……」
「ご苦労」
私とじゃれ合い片腕が変な方向に向かってしまった男に案内され、私達は応接間の扉を開ける。
中で待っていたのは小太りでゴテゴテの趣味の悪いアクセサリーを余す事なく身に付けた、少々脂ぎった一人の中年男だ。
「よ、ようこそいらっしゃいましたクラウン元帥閣下っ!! わざわざこ、このような場に足を運んで下さり恐縮でございますっ!!」
慣れたように両手の平を擦り合わせてゴマを擦り、不出来な作り笑いで出迎えた男はそう媚びたセリフを吐きながら私を歓待する。
ふむ。実に白々しい。
「我々「不動の鉄蟹」は偉大な貴方様に忠誠を──」
「お為ごかしの挨拶が下手だな。聴いていて不快だ慎め」
「……はっ」
男は作り笑いと低い腰を崩すと不遜極まりない足取りで高級そうなソファへと歩み寄り、全体重を投げ捨てるようにソファへと沈めた。
「……我々のお出迎えは、どうされましたか?」
「ああ。今頃は玄関マットになっている。少々分厚いし踏むたびに鳴くから質は宜しくないがな。買い替える事をオススメする」
「そうですか。で、出迎えは?」
「ヤンチャな連中を揃えているのだな? 犬猫のようにじゃれついて来て実に鬱陶しい。躾け直す私の身にもなれ」
会話を弾ませながら私も対面のソファへと腰を下ろし、隣にロリーナを、背後へマルガレンを控えさせる。ふむ。中々に良いソファじゃないか。
「教育はしっかりしていたつもりでしたが……。面目ない」
「教育とはまた大きく出たな。獣共がやれる事なんぞ高が知れているだろう? 故にこの為体だ嘆かわしい」
「……こりゃあ、手厳しい」
おお、耐えた耐えた。
今にも浮き出た額の青筋がブチ切れそうに顔を赤くしているが、何とか冷静になろうとしているな。
「それで、本日はどのようなご用件で? 聞いた話じゃ暫くはウチら下街の組織には手を出さないんじゃあ……」
「ふふふ。面白い事を」
「え──」
ポケットディメンションを開き、そこから玄関先で拾った様々な銃火器を床へとばら撒く。
「い、いやそれはただの……」
「ごちゃごちゃとした言い訳なんぞ要らん。裏武器商人として武器を捌く貴様等がコレを大量に密輸入した事実を、私は問い質しに来たのだ」
先日の事だ。密輸監視業務を担当するサヤンから報告が上がってきた。
内容としては下街南区画を統治する武器密輸組織「不動の鉄蟹」が、何やら正体不明の武器らしき物品を仕入れているというもの。
奴等が仕入れている関係上、それが武器であるのは明白であったがいかんせん正体が分からず、私の元にまで上がってきた次第だ。
話を聞いた時点でまさかと思い伺ってみたが……。盛大な歓迎に使ってくれるとはな。手間が省けて大変に助かる。
「随分と派手に仕入れたな? 短銃に小銃に散弾銃……。ここには無いがどうせ狙撃銃なんかも裏にあるんだろう? 新しいおもちゃに興奮でもしたか?」
「……詳しい、んですね」
「貴様等の数十倍はな。その危険性、利便性、罪悪感と殺意の簡便化……。コイツはその辺を歩く農夫を、買い物帰りの主婦を、物乞いをする子供を、杖無しでは歩けぬ老人を明日にでも兵士に変え、数十年鍛えた戦士を一瞬で屠る。問答無用の特級危険物だ」
強者には通じん。この世界に於ける強者にとっては確かにおもちゃだろう。
しかしこれは弱者が手にし、弱者を大量に殺戮者へと変える紛いことなき兵器だ。
それは例え魔法があらゆる銃火器を超越し得るこの世界でも、変わりはしない。
「承知云々はどうでもいい。経緯を話して貰おうか。差し当たりまずは仕入れ先であろう帝こ──」
「オヤジィッ!!」
突然、荒々しい声音に私の言葉が遮られ、応接間の扉が乱暴に開け放たれる。
「んだコラボケがッ!! 接客中だわかんねェェのかッッ!?」
と、「不動の鉄蟹」の頭領である目の前の男──ホーシエ・ケーキクラブが怒号を上げながら扉を開けた方へと目をやったのだが……。
「……あ゛ぁ? んだ、そのガキ共」
そこに居たのは屈強そうな男に捕まり、必死に抵抗する二人の子供の姿があった。
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