序章:浸透する支配-5
遅くなりました。
全部ゲームが悪いんです。
皆さん、黒神話:悟空って知ってます?
「次はどちらに?」
「そこの路地を入って少しした所に最近出来た食器を扱う雑貨屋があるんだ。新居に置きたい」
「はい。分かりました」
家族会議の翌日。私はロリーナと二人で鉱山都市パージンに赴いていた。
何を暢気な、と思うだろうが、これにはワケがある。
何故なら私に喧嘩を売った「不可視の金糸雀」に関しては一時保留としているからだ。
正直、気に食わん事ではある。が、致し方無い。
最初は焦れてエメラルダス侯に下街侵略の許可を取り付けようとして──
『ダメダメーッッ!! キミ一応は学生でまだ明確な身分証明出来ないでしょッ!? そんなん知って下街で問題起きたら僕の信用に関わるよッ!! 色んなとこからのッ!!』
──と断られた為に父上に継承の申請状況を聞いたが私の正式なキャッツ家〝裏稼業〟──「劈開者」の元帥就任を国に申請、処理する為にはもう少し時間が掛かるらしい。
つまり、今私が「不可視の金糸雀」に殴り込みに行くのは明確に〝犯罪〟になるわけである。
まあ、碌でもない犯罪者だろうが人権がある以上、無為に──いや別に無為でもないが、兎に角何かしらの「免罪符」が必要で、今の私にはそれがない。
故に、私は今「不可視の金糸雀」の連中を正当防衛でもない限り手を出せない……。ふふふ……立場があるとやはり雁字絡まる。致し方ないが。
一応監視は付けている。私に関連するものにはムスカによる眷属を──と、ムスカの事も色々とあるのだったな……。アレはどうするか……。スキルを使えるからまだ良いが意思の疎通が──いや、今はいい。今解決出来ん事は置いておこう。
兎にも角にも、今は仕方なく奴等は保留。今の内にフラストレーションを溜め、近い内に必ずぶつけてやる。
ふふ、ふふふふふ。
「クラウンさん?」
「──ああ、いやすまない。君との時間に集中せねばな」
「はい。今は私に、集中して下さい」
くっ。そう言われてしまったらどうしようもない。
今抱えるこの汚らわしい感情など他所へやってしまい、今はデートだ、デート。
そう。今の私達はデートをしている。用事ついでのデートだ。
パージンは鉱山都市故に一見観光には向いていないような印象を受けるが、その実、工芸品や酪農品を使った加工品、料理に富んだ街でもある。
ドワーフ族との交流が盛んな為に武器や防具は勿論、料理道具や工具類、衣服やアクセサリーなどの小物が高品質で充実しており。
舌の肥えた彼等が満足するクオリティの料理や質の良い酒を取り揃える料理屋が数多く建ち並んでいる。
幾度と訪れ、その度に様々な店に立ち寄ったがまだ興味がある店が数多く残っている。今回はそんな中からロリーナが喜んでくれそうな店を選び、満喫していた。
狙い通り彼女も楽しんでくれたようで、終始美しく可愛らしい微笑みを向けてくれていた。
……だが、このデートは残念ながらついでだ。パージンの用事までの時間潰し……。
用事がなければ最近の流れ通りこのまま何処か景色の良い場所で過ごしてから二人一室に……とするのだがな。
今日の用事はそこそこ大事だ。何せ──
「クラウンさんの武器の半分と私の細剣……。このままでは宜しくありませんものね」
そう。私がパージンに用事があると言えば無論、ノーマンさんとモーガンに武器や防具に関する依頼をする為だ。
ユーリとの戦いで、進化した私の力に耐えられなかった武器達の半分とロリーナの細剣が破損した。
個人の手入れでは補えない領域の損壊で、武器として使うなど以っての外。
一応私は他に武器があるが、私のポテンシャルを最大限に活用するには全て揃っていなくては意味がない。
姉さんとの試合でも、それらの武器を使えなかったが為に十全に戦う事が出来なかった……。
何せ直剣や槍なんかの基礎的な物が軒並み使えなかったわけだからな。まだまだ練度や経験の浅い武器で姉さんと戦うしかなかった。実に歯痒い結果だ。
まあそれでも、姉さんに敵うかは分からんがな。
私が隠し事なく全ての力を使い、本気で姉さんを殺そうとでもしない限りあの人とまともには渡り合えないだろう。
しかもそれはあくまで姉さんが〝あの状態〟であっての話。あの時言った姉さんの〝本気〟はあくまでも膂力や技術面の話であり、殺意やスキルなんかを惜しげもなく投入されたら必敗する予感がする。
一応私って進化した筈なんだがな……。しかも人族の進化種族である〝仙人〟に加え、大罪スキルを有していた結果である〝魔人〟と、他種族──この場合はエルフ族の因子を取り込む事で到達した〝亜人〟の三点盛り。
その三点盛りの私が、未進化の姉さんに歯が立たない……。全く以って可笑しな話だ。一体姉さんの何が進化すら上回る力を齎しているのか……。
──と、思考が逸れた。
つまりはだ。今の私でもある程度は戦えるが、仮に姉さんに匹敵するような者が奇襲でも仕掛けに来た場合、そんな私では抑えるのがやっとの状況になってしまう。
まあ流石にそうポンポンと姉さん並みのバケモノなど居てたまるかという話だが、万が一を想定しなくてはならない。私の敵は依然として居ることを、忘れてはならない。
私に喧嘩を売った「不可視の金糸雀」連中然り、意味不明の理由で部下達を襲って来た帝国の騎士総長然り、行方をくらましたサンジェルマン然り……。
その為にも、ノーマンとモーガンに私とロリーナの武器を直してもらうべく今日は彼の店「竜剣の眠る竈」に来店──
「ふざけてんのかテメェッッ!?」
店のドアをノックしようと手を翳した時、突如として店内から怒号が響いた。
声の主人がノーマンであったなら別に気にもしないのだが、声音が違う。彼よりも更に渋く、年齢を考えると初老か? 若干だが嗄れている。
「クラウンさん?」
ロリーナが「どうしましょう」という意味で私の方を見遣る。別に後日にしても支障は少ないが……。
「私達は客だ。常識の範疇ならば余程の事態でない限り気を遣わんでいいだろう」
「そう、ですね」
「なに。何か中で問題が起きていれば私なりに収めるさ。まあ、私の主観の話だが」
そう言いつつ、私は容赦無く店のドアを開ける。ノックしてもどうせ怒鳴り声で聞こえんだろうから無しだ。
「だからッ──って……お、オメェさん」
「あぁ?」
店に入ると、二人の男が視界に入る。
一人は勿論ノーマンだ。受付カウンターに両手を付き、若干だが前のめりになっている。
もう一人は白髪の、ノーマンと同じドワーフ族の初老の男だ。
全身を老いる年波に真っ向から逆らうかのような金属や磨かれた岩を思わせる筋肉で固め、しかし明らかな用途で以って拵えたであろう機能性を追求した肉の宮が覆っている。
顔の半分を這う白く長い髭はただでさえ厳つい顔を更に近付き難い印象に押し上げ、鋭く私を睨み付ける眼光はまるで私を切り刻まんとする威容すら感じさせる。
「オメェさんって……。じゃあテメェが言ってた〝実質専属〟みてぇなお得意様ってのは?」
男は私から視線を外すとノーマンへと戻す。
そしてそれを受けたノーマンは少々複雑そうな表情を浮かべながらただ一言「そうだ」とだけ呟く。
「ほぉぉん?」
今度は疑り深い目で男が私を改めて見ると、不躾な程に遠慮無く私に歩み寄り、露骨に値踏みするように矯めつ眇めつ私の全身を睨め回す。
普段ならこのような蛮行、他人に許す私ではないのだが……。
「……」
「……」
「……」
「……ほぉん」
小さく唸った男は品定めを終えたのか私から目線を外し、一歩二歩と後退りながら蓄えた顎髭を弄び、瞳を燃やす。
「コイツぁまた、スゲェ欲張りな奴が居たもんじゃな」
「分かります?」
「剣士に槍士、重戦士に弓士に格闘家に暗殺者……。パッと思い付く限りの戦術全部を熟す鍛え方してやがる。そん歳で一体どんな訓練しとるんだ? 常軌を逸しとる」
やはり。この御仁も〝本物〟だ。
「最初ノーマンの奴にテメェの事ォ聞かされた時ゃ、遂に自分の頭まで都合良くハンマーで鍛えてんじゃねェかって疑ったもんじゃが、なるほど。まさか儂等の〝夢〟が、人の形をしとるとはのう。こりゃ儂も──」
一人でブツブツ盛り上がり始めた男は一旦無視し、ノーマンへ無言の圧を送る。勿論、最低限の、だ。
すると彼は顔色を悪くしながらカウンターからこちらへ歩み寄り、溜め息混じりに目の前の初老のドワーフ族について語り始める。
「すまねぇなオメェさん。コイツ、俺の兄貴でよぉ……」
「兄……。実のご兄弟が居たのですか? それとも同門の兄弟子というニュアンスで?」
「両方だよ。歳は一回りと離れちゃいるがな」
ふむ。ノーマンの実の兄であり兄弟子か。中々に面白いじゃないか。
「つっても、鍛治の腕前に関しちゃあ俺のが上だ。なんならモーガンのがまだ腕は良い」
「……それはそれは」
「ただ、素材の加工技術に関しちゃ天才的だ。マスグラバイトで一二を争う技術者だぜ?」
ほう。素材の加工技術か。
鍛治の腕が劣ると聞いて少々興味が削がれそうになったが、そうなると話が変わってくるな。
「この前──戦争が終わって俺達ドワーフ族の鍛治職人が拠点から撤収する時によう。オメェさん持って来てくれたろ? ほら、例の──」
「そんなわざわざ名前を伏せなくてもいいですよ」
「そうか? なら……オメェさんが持って来た「竜鏡銀」。アレの加工に関して兄貴に相談したらよう。本国から吹っ飛んで来たんだよ」
「……成る程」
「「竜鏡銀」は所謂〝竜材〟って括りの竜由来からしか産出されねぇ素材なわけだが、その中でも「竜鏡銀」って言やぁ鍛治職人やら加工屋やらが目の色変える代物だ。あの時だって大変だったろう?」
あの時──というと、恐らく私が森精の巨人兵が信竜プルトンの竜の息吹によって巨人型の「竜鏡銀」に変貌した巨大金属塊を回収しに訪れた時、だな。
戦後処理で色々と奔走しなければならず少し遅れて回収しに行ったのだが、まさにアレは〝欲望の坩堝〟と呼ぶに相応しい阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
「竜鏡銀」という少量でも途方もない価値を生む巨大金属塊の周辺には、まるで誘蛾灯に誘引された哀れで愚かな羽虫のように人集りが出来ており、それらが聞くに堪えない声で己が欲望を満たしたいという異次元の解釈で都合の良い主張による所有権云々を吐き散らしていたのだ。
一応、後程協力の報酬として数キロ譲るという契約でモンドベルク公とコランダーム公、それならエメラルダス侯に「竜鏡銀」の防衛を頼んでいた故に盗難まではされていなかったが、いやはや、ああも醜くなれるものかと一周回って感心してしまった。
結果的には私が直々に出向き、姉さんと私の主張を喧伝した後に《威圧》や覇気系スキルで全員大人しくさせ、「竜鏡銀」の巨大金属塊は丸ごとポケットディメンションにぶち込んで終息させたが、あの後も所有権の主張までではないが幾つか取り引き等を持ち掛けられる事が度々ある。実に面倒な話だ。
その直後くらいか。撤収中だったノーマンの元へ赴き「竜鏡銀」の欠片を渡して武器修理の簡易契約を結んだのは。
「いきなり来て渡してくんだからよお、あん時は肝が冷えたぜ? 周りの同胞達が色めきだってよぉ……」
「すみません。私も色々と忙しかったもので配慮の余裕がありませんでした」
「まぁ、そりゃいいさ。──んで、あん時にゃ言えなかったがな」
「はい」
「しょーじきなハナシ、俺にゃ「竜鏡銀」を上手く扱う──加工する技術はねぇ。分かんだろ? ブレン合金で四苦八苦してたぐれぇだからなぁ、俺は」
──「竜鏡銀」はその名の通り、全ての面が宛ら鏡のような鏡面を有する金属であり、どれだけ大雑把に砕き、割ったとしてもその性質は変わらず、そして一切輝きが濁る事はない。
しかし金属としての硬度は別段変わったような特徴はなく。一般的な道具で割りかし容易に破砕は可能であるし、熱で融解もする。
つまり加工という面で言えば、彼自身も言っている以前ノーマンに用意して貰ったブレン合金の方がよっぽどに簡素である筈……と、素人目には見えるのだがな。
《究明の導き》を使えば理解出来るか?
……いや、素直に聞くか。
「「竜鏡銀」はそんなに特殊で? 割ったり融かしたりは私でも普通に出来そうですが……」
「……オメェさん、まさか知らねぇのか?」
「私だって知らない事くらいありますよ」
特に身近に専門家が居る場合は、そこら辺の知識収集は後回しにしている。
どれだけ片手間に勉強しようと、専門家に敵うはずもないからな。まあ、会話をある程度円滑にする為に最低限の知識ぐらいは入れたりするが。
「そうか……。別にこれは「竜鏡銀」だけの話しじゃねぇ。〝竜材〟全般に言える事なんだが……」
「なんです?」
「……〝竜材〟は、作り手を狂わせるんだ。良くも悪くもな」
……狂わせる?
「それはアレですか? 竜の逸話と何か関係が?」
──竜という存在には、未だに解明されていない事が山程にある。
何故人語を解するのか。
何故そんな絶大な力を有していて世界を支配しないのか。
魔物でもなく、かと言って動物と呼ぶには規格外で、支配種族とも関係性が希薄なのはどういうワケなのか……。
挙げていけば枚挙に暇がない。
そんな数多の謎の内の一つが、「竜は人の心を染め上げる」……というもの。
竜は、それぞれ〝感情〟を司っているという説がある。
今まで竜に挑み、そして勝敗に関わらず生存した者達の証言から推察された仮説の一つであり、竜は周囲に存在するあらゆる生物に対し、その司っている感情を増幅させるのだという。
感情が増幅したから何だという話にも聞こえるかもしれないが、その度合いは桁外れであり、最早その人物の人格にまで波及するほど。
どれだけ社交性に溢れた人間も孤独の沼に沈める。
どれだけ冷静沈着な人間っても憤怒に染まり切って暴走する……。
それほどまでの振れ幅で振り切れてしまうのだ。
そして急激に人格が変貌すれば精神は追い付かず、一人では満足なパフォーマンスを発揮する事は叶わず、仲間が居たとしても連携など到底不可能となり、破滅するだろう。
そんな感情の増幅に抗う方法は一つ……。元々の人間性がその竜が司っている感情に傾倒している事のみ。
姉さんの場合、その使い魔となった信竜プルトンの司っている感情は「信念」。
元々あらゆる面で信念を貫き、一切曲げる事の無い揺るぎない信念の持ち主である姉さんにとって、プルトンの感情波及は無意味に等しかっただろう。
──それで、その竜の特性である感情の増幅は竜から産出される素材である〝竜材〟にも発生するものであるらしい。
流石に竜本体に比べれば効力は弱まるものの、持つ者に対して──特に〝竜材〟を加工する者に対してその影響を及ぼす……という事だという。
「世間じゃ割と眉唾物の話になっちゃいるがな。俺達ドワーフ族が〝竜材〟を扱う際のいっちゃんの懸念点なんだ。この感情の波及っつうのは」
「成る程……」
「ま。〝竜材〟を扱えるっちゅうのはドワーフ族の鍛治職人にとっちゃ憧れの一つであり特級職人の第一歩だ。感情云々で引けるかってのっ!!」
「……感情の増幅と波及、ねぇ」
例えば独竜アルトゥール。彼の竜は王国南部に存在する湖を根倉にする数百年眠り続けている、王国内でプルトン以外で明確に存在が確認されている竜がいる。
この竜は「孤独」を司っているとされていて、先述した通りどんな生物であろうと対処に無差別に強烈な孤独感を覚えさせるという。
故に彼の竜にまともに挑むならば単身でなくてはならず、且つその人生を通して孤独である事に順応している者というのが最低条件と言われている。
恐らくその〝竜材〟も孤独感を誘発させるものであり、仮に何かしらの加工を施す事ならばきっと補助無しの一人作業を強いられるのだろう。〝竜材〟を加工するというのは、つまりそういう事だ。
……だが、この〝竜鏡銀〟はどうだろうか?
〝竜鏡銀〟は信竜プルトンの素材。つまり信念を司るプルトンの感情が増幅されるというワケだが、果たしてそれはマイナスに働く事があるのだろうか? 寧ろプラスではないのか?
加工一つに信念を持って向き合う……。それがどう厄介になるのだ?
…………いや、そういう事か?
「これ……もしかして複数人での作業だと信念同士がぶつかって譲らなくなります?」
「おうっ! そういうこったな。なぁんだ、分かってんじゃねぇかっ!!」
理解した。確かに強い信念は何かを成すにあたって必要不可欠なものであるし、強ければより良いものを作れるだろう。
だが、信念とは個々人で違うものだ。
その人間が何に重きを置き、何を自身の真ん中に置いているのかは当然だがそれぞれ違う。
それが時にはぶつかる事もあるだろう。何せゆずれないのだから、ぶつけるしかない。
それが頑固な職人であったならば? その惨状は想像に難く無いだろう。
「その〝竜鏡銀〟は聞きゃあ竜の息吹で出来た代物らしいが、性質は変わらねぇ。現にオメェさんに渡されたあん時、いつもより使命感みてぇなもんが湧いてきたしな」
「それでよく実の兄に助力を乞う事が出来ましたね。影響を受けたのなら誰にも譲らないと思うのですが……」
「……オメェさんを、ガッカリさせたくなかったからよ」
「え」
なんだ急に。少しびっくりしたぞ。
「俺がいらねぇ意地張ってオメェさんに満足いかねぇモン作っちまったらよう。俺ぁ多分、二度と鍛治が出来ねぇ気がしてな……。そう思ったら兄貴に連絡してたよ」
それは、また……。
「お? なぁんだオメェさんっ!! 見た事ねぇ顔しやがってっ!!」
「そ、うですか?」
そりゃあ、私だってこうやって真っ直ぐな信頼を向けられたらば感動や感慨深くもなる。
いつの間にかノーマンにここまで信頼されていたのだな。不思議な充実感に万感交到る。
「はんっ!! 俺もオメェさんを動揺させられるようになったってかっ!? 良いねぇ良いねぇ!!」
「……何か癪ですね」
「何言ってんだっ!! そもそも俺ぁ──」
「ウルっせェェなァァッッ!!」
私達の親密な会話に、無粋な濁声が割って入ってくる。
まったく。少しは空気を読んで欲しいものだ。
「テメェら男同士でイチャイチャと鬱陶しいッッ!! コッチはもう頭ん中でまとめ終わったんじゃぞッ!? 早よう会議始めんぞッ!!」
そう叫び散らし、一人ズカズカと店の奥へと消えて行くノーマンの兄──というか今更だが。
「ノーマンさんのお兄さん、お名前はなんと? 自己紹介をしそびれたした」
「ああ、そういやそうだったな」
彼はそう言って家主に断りなく奥に向かった兄の背に呆れた目を注ぎ、溜め息混じりに口にする。
「兄貴の名前はビクター。今は……」
「今は?」
「…………空賊の、専属加工士をしてる」
「……はい?」




