終章:忌じき欲望の末-30
一応言っておきますが、この世界で成人は十五歳なので飲酒は可能です。
誰にも言われてないけど、一応ね。
私に、人前でイチャイチャする趣味はない。
結果的にそうなってしまったり、必要性があったり計画的な理由でならその限りではないが、基本的には二人の世界を他人に晒す真似は好ましくない。
故に私は完全に酔っ払い、普段から考えられないくらいにフニャフニャで甘々なロリーナからの全力の誘惑を何とか牽制しながら、変に盛り上がっている女性部下達から逃げるように二人で一時的に退出した。
そして彼女を客間へと連れて行き、必死に私に絡み付いてくるのを何とか宥めながらソファへと座らせ、ポケットディメンションからコップと水差しを取り出してから与える。
「ほら。少し飲みなさい」
「ん〜……ありがとう、ございます……」
ロリーナは嬉しそうにコップを受け取ると水を口に含み、そこで漸く一息吐く。
「ふぅ……。少しは落ち着いたか?」
「ん、ん〜……。よく、わかりません……」
「そうか。わからないか……」
「はいぃ……」
……本当、可愛いな。
だが私はこの甘え上戸のロリーナに、手を出すつもりはない。
触れ合ったりするのはいい。キスをするのも……まあ、この際ギリギリとしておこう。
しかしこの酔った勢いにつけ込み、彼女を寝所に連れ込んで襲う事はしたくはない。
恐らく、今のロリーナならば私が同じノリで甘く囁けばその気になり、昨晩の再演を迎える事が出来るだろう。今の彼女はそれだけ、自分の中のハードルが下がっている。
それはそれで大変素晴らしいだろう。昨晩では味わえなかった演目を、彼女は繰り広げてくれるかもしれない。大変に魅力的だ。
だがそれはあくまでも私の独り善がり。ロリーナの酩酊状態を利用した、自己満足以外の何物でもない。
酔う前から彼女が合意していたならば良いだろう。ハッキリとした意思で予め約束し、その上で楽しく呑んで、酔って、いつもより大胆になれたと自分で決めたならば、それは良い。
面映くて自分からは誘えないからわざと酩酊するまで酒を呑み、私を誘っているのだとしても、それはそれで良いだろう。
けれども、だ。そういったつまるところ「ロリーナの意思」が介在していない状況で彼女を抱くのは私の美学に反するし、何よりロリーナを傷付け、悲しませる可能性がある。
──酩酊状態というのは特殊な状態だ。普段自分の中に押し込めている思考や感情が発露したり、逆に本人すら自覚していない身に覚えのない暴走をすることだってするかもしれない。
今回のロリーナだってそうだ。先程の甘えぶりが彼女の本音や本心から漏れ出たものであったならば喜ばしい事だが、これが仮に本人の自覚していない部分の露出だった場合、やらかした後では取り返しがつかん事態になりかねん。
色々とぐだぐだ考えているが、要するに私は下手を打ってロリーナにトラウマを植え付け、嫌われたくないという事だ。
例え目の前にぶら下げられたのが、垂涎ものの甘美な果実だったのだとしても……。
「クラウンさぁ〜ん……」
「どうした?」
「ん〜……だっこ、してください……」
「……ああ良いぞ。その代わり」
「かわりぃ……?」
「気が済んだらそのまま寝てくれると嬉しい」
「えぇ〜……」
「私の膝枕でだ。どうだ?」
「むぅ〜……わかり、ましたぁ……」
「そうかそうか。そうしたら──」
私はロリーナの隣に腰掛け、少し不思議そうに可愛らしく小首を傾げるロリーナに向き直る。
「ほら、おいで」
両手を広げ、そのまま彼女の両肩を優しく掴んでからゆっくり抱き寄せ、私の膝上へと運ぶ。
ロリーナも途中から私のしようとしている事を察したのか私の背中へと両手を回し、先程のように満足そうに胸板に顔を埋めた。
「むぅ〜……クラウンさぁん……」
「ふふふ……。本当に甘えただな」
優しく頭を撫でてやる。折角時間を掛けて整えた髪なのだろうが、今は良いだろう。現に嬉しそうだ。
「うぅ〜……わたしぃ……」
「ん? どうした?」
「クラウンさんをぉ〜……はじめて、好きだなって、思ったのぉ……あの時なんですよぉ〜……」
おお。何やら昨夜にすら話に出て来なかった事実を話してくれるらしい。
正直気になっていたんだ。私は明確にロリーナを初めて目にした時からの一目惚れであったが、彼女は一体どんなタイミングで私に惚れてくれたのだろう、と。
しかしあの時、か……。心当たりがないな。
予想では四六時中と言っても過言ではない時間を共に過ごしていく中で、私からの猛アプローチに晒された結果いつの間にか……といった具合なのではと考えていたのだが……。
この様子だとそうでもない、のか?
「まえにぃ……つまえたエルフと話すって、わたしとぉ、アーリシアちゃんを少しだけ、待たせたじゃないですかぁ〜……」
ふぅむ。確かに、そんな時もあったな。
あの時はやらねばならない事が立て込んでいて、色々と消化しながらでの行動が日常茶飯事だった。
それに二人を巻き込んでしまった形だが、その時に何か──いや、そういえばあの時、戻ってくるとロリーナの様子が少しおかしかったような……。
「わたしぃ……アーリシアちゃんに言われたん、でぇす……。あなたがクラウンさまにいだいてるのはぁ〜、恋だよぉって……」
「それは……」
「さいしょはぁ〜……。よく、わからなかったんですけどぉ〜。その後もぉ、色々と言われてぇ〜……。色々と、心当たりがあってぇ〜……」
「な、成る程」
「それでぇ〜……。クラウンさんが、帰ってきてぇ〜……。クラウンさんの顔とか見たらぁ〜……。こう、ポワァぁ……ってなって……」
「ああ」
「そっかぁ、これが恋なんだなぁ〜って、好き、なんだなぁ〜って……。わたし、クラウンさん、すきなんだなって……」
私の努力が、そこで結実したわけだ。
アーリシアからの鋭いパスがあったおかげではあるが、こうして胸に抱いている彼女を現実として実感すると、感動で万感交到る。
──因みに、アーリシアはこの祝宴には来ていない。
いつもならこういう場で遠慮などしない彼女だが、昨夜の祝勝会でわざわざ見せ付けるようにロリーナと仲睦まじくしたのが、効いたのだろう。
私はもう、ロリーナと明確に恋人関係で、そう遠くない内に婚姻だって結ぶつもりだ。
他に妾や愛人、側室を作る予定もつもりもない。アーリシアの直向きな愛情に応える事は無い。
故に昨夜は、少々心苦しかったが見せ付けたのだ。
もうお前の入る余地はない、だから諦めてくれと……。
随分酷い仕打ちをしてしまったが、私如きでは、アレが思い付く限界だった。
私が悪人になって諦めてくれるなら、アーリシアの為にも──
「クラウンさん……」
「ん?」
「キス、してください……」
……どうやら少し、この場に相応しくない事を考え過ぎてしまったようだ。
今はロリーナに全身全霊でなくてはな。
「喜んで」
ロリーナが私の胸から顔を上げ、潤んだ上目遣いで私の顔を真っ直ぐ見据えながら顔を近付け、唇を重ねる。
すぐそこの会場ではまだ家族や部下達が居るわけだが、こんな顔で素直で魅力的に催促されては受けないわけにはいくまいよ。
例えこの場面を誰かに見られたとしても──
「失礼致しますお二方。ロリーナ様のお加減はいかほど──」
ノックの返事を待たずして客間のドアが開かれる。そこにはトレイに置かれたコップと水差しを運ぶ、先程父上を介抱しに行った新メイド長、ネフラの姿があった。
彼女は私達がキスをしている場面を視界に入れた瞬間に固まり、顔を真っ青にしている。
きっと見てはならんところを見たと思っているのだろうな。私としては困りはしないが……。
「ん〜……。クラウンさん?」
「……ほら、約束したろ?」
「むぅ〜……もうちょっと……」
「ダメだ。初めての酩酊だ。ちゃんと休んでくれないと私が心配になってしまうよ。それでもいいのかい?」
「……いや、です……」
「ありがとうロリーナ。ほら、膝で寝て良いから」
「はいっ」
ロリーナは名残惜しそうに私の上から退くと体勢を変え、ソファに寝そべるようにして私の膝を枕にする。
そしてそのまま目を閉じると、一分と経たずに寝入ってしまい、寝息を立て始めた。
やはり少し無理をしていたんだろう。多少の気分の悪さをおしてでも私と過ごしたかったと思うと愛らしさが湧いてくる。
「あ、あ、あ、あの……」
状況を上手く把握出来ていないネフラがそこで漸く口を開く。挙動不審に動き回り、実に忙しないな。
「見ての通りだ。気を遣わせてしまってスマンな」
「い、いいえ……。ワタシもロクに返事を待たず開けてしまって……」
「そこは注意してもらわねばな。お前は昔からそそっかしいところがある」
「は、はいっ! 肝に銘じますっ!!」
ネフラは前任であるハンナの次に年期があるメイドであり、あらゆるメイド技能に於いても彼女に次ぐ実力を持っている。
しかし事〝空気を読む〟というものに関しては、何故だかいつまで経っても直らない。最早病気の一種だろう。
ある意味メイドとしては致命的ではあるが、不思議と大事に発展した事はなく、技術と知識が高水準だった事もあり新しいメイド長に内定した経緯がある。
……一応、身元と素性は調査済み。純粋な人族である事は証明されている。
ハンナの二の舞にはならない。
「ところでネフラ。父上の様子は? 随分と酔われていたようだが……」
「あ、は、はい。旦那様も既に寝入られています。坊ちゃん方のご活躍と爵位の復興が余程に嬉しかったのでしょう……。最後は奥様に抱き付きながら泣き笑っておいででした」
「そうか。ではやはり話は無理だな」
「話、でございますか?」
「ああ。お前にも関わる話だ。その内分かる」
「──っ! 承知しました」
彼女も何かを察したのだろう。本当、アレさえなければ誰とも比肩しない完璧なメイドなんだがな……。
──と、そうだそうだ。
「ところでネフラ」
「はい。如何しました?」
「少しの間だけでいいから、ロリーナの枕役を代わっていてくれないか?」
「ロリーナ様の、で御座いますか?」
「ああ。少しだけ用事があってな。彼女を寝かすため已む無くこうする事を提案したが、このままただ私が離れたら起こしてしまいかねん」
「成る程……。ワタシなんかで宜しければ、お任せ下さいっ!」
「そうか。すまんな、お前も忙しいだろうに」
「いえいえそんなっ! 坊ちゃんの御勅命、謹んで御受け致します」
「そんな畏まんでも……。まあいい。ではネフラ。そこの椅子に腰掛けてくれ」
「え。あ、はい」
「よし。で、あれば──」
指を鳴らす。瞬間《空間魔法》の魔術「置換」が発動し、私とネフラの位置が一瞬で入れ替わる。
「ん? えっ!? わっ!?」
「もし起きてしまったら「すぐに戻るから」と伝えてくれ。では」
「あ、はいっ! 御気をつけてっ!」
ロリーナをネフラに任せ、一度会場へと戻る。
すると会場内ではいつの間にか幾つかの男女の輪が出来ており、何やら輪の内側にはいつもと違う雰囲気が漂っている。
ロセッティとティール、ヘリアーテの輪。
グラッドと部下のキャサリンの輪。
ディズレーと部下のヴィヴィアン、ポパニラ、コンタリーニの輪。
他の部下達の輪……。
何というか……色で例えるなら桃色の雰囲気だ。
恐らく先程の私とロリーナに感化され、酒の効果が助けとなって皆の中の枷が緩くなっているのだろう。
部下達の色恋沙汰に首を突っ込むのもなんだ。相談でも持ち込まれん限り、私がわざわざ干渉する事もあるまい。
私は私でやる事をやらねばな。
そう思い、テーブルに並べられた料理を幾つか手に取り、それをポケットディメンションに格納していく。
取っていく量は多いに越した事はなかろう。皆も既に腹が膨れているのか料理に手を伸ばしていないからな。会場の料理が不足する事はあるまい。
「あらクラウン。戻ったと思ったらどうしたの? 料理なんかそんなに……」
「母上……」
声に振り返ると、そこには不思議そうな顔をしている母上の姿があった。
ネフラが戻っているという事は、同じく父上の介抱をしていた母上も自由になったという事だろうから、居るのは当然か。
少々言い訳が面倒だが……。まあ、大丈夫だろう。
「ええ。実は野良猫に、少しお裾分けをしようかと思いまして……」
「野良、猫?」
「はい。三匹ほど、腹を空かせている筈ですので」
「……野良猫、ねぇ」
母上は首を傾げる。年齢を考えれば少しあざと過ぎる仕草ではあるが、実年齢に反してかなり若々しいせいか怖いほど違和感がない。
前世で言う美魔女というのだろうか……。こっちでは別の意味になってしまいそうだな。
「うーん……」
「……」
「……分かったわ。我が家の守り神である猫がお腹を空かせているんだものね。それじゃあ仕方がないわ」
「ええ。仕方がありません」
「じゃあ、沢山ごちそうしてあげなさい。それと……」
「はい?」
「助けたからには、ちゃんと責任は取るのよ?」
「……承知していますよ。重々」
「うふふ。そうね。貴方なら、当然よね」
「はい」
母上に見送られ、その場でテレポーテーションを発動して転移する。行き先は──
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──暮夜。
冷えた夜風と、鳴りを潜め始めた虫達の微かな鳴き声が響く……。そんな静謐な夜。
そんな静かな夜が支配する、一つの廃村がある。
かつては盗賊団がアジトとして使用し、戦時中にはティリーザラ王国軍の拠点の一つとしても利用された、そんな場所だ。
そんな廃村からは既に兵士達は撤退している状況だったのだが……。
「『──っ!?』」
「『──っ!?』」
キィィ、と、軋んだ扉が開かれる。
夜月に照らされ浮かび上がったのは、一人の青髪の少年であった。
「『すまない。遅くなった』」
「『はぁ……。なんだ、アンタか……』」
「『びっくりしたよ。いきなり開けるんだもん』」
「『ああすまないっ! 合言葉を忘れてたよ……』」
少年は二匹の死んだ野うさぎと膨れた革袋を背中に担いで申し訳なさそうに頭を掻く。
謝っているのは、顔の良く似た二人のエルフ族の双子だ。
「『にしても遅かったわね。こんな時間掛かるなんて初めてじゃない』」
少女エルフが青年に問い掛ける。口調は少々憎たらしいが、表情には疲労と空腹、そして申し訳なさが滲んでいる。
「『ああ。ちょっと狩りに挑戦してみたんだけど、思いの外難しくてね……。野うさぎ二匹狩るのに夕方まで掛かっちゃったよ』」
「『うさぎって……。僕達は肉、食べられないよ?』」
少年エルフが困惑したように言う。
基本的にエルフの食性は草食で、野菜やきのみ、果物を摂取していれさえいれば後は日光による光合成で十分な栄養を確保出来る。
一応、肉も食べられないことはないが、消化不良や食あたりを発す可能性があるために、余程の美食家や偏食家でない限り食すエルフ族はいない。
勿論、この双子も例に漏れず草食である。肉は食わない。
「『いやいや、分かってるよ。コレは僕の分だ。日干しして保存食にしようかなって』」
「『保存食?』」
「『うん。……いつまでも、ここには居られないだろうからさ』」
「『……』」
「『……』」
──少年達は見て分かる通り、不法にこの廃村に滞在している。
この廃村は、アジトや拠点として利用されたおかげで廃村とはいえ設備は簡単ながら整えられており、居住空間として使う分には何ら不足ない状態であった。
故に逃げて来た彼等にとっては隠れ蓑にするに大変に都合が良く、兵士達が退居した隙を見計らって彼等が住み着いたわけである。
しかしそれは逆を言えば〝人が十分に暮らせる〟という事に他ならない。
国もそれは当然承知しており、アールヴとの和平が締結された今、国家間に広がるこの広大な草原はエルフ族との新たなる交易路を敷くに申し分ない白いキャンパスだ。
そんな草原に存在する、ある程度整備された廃村……。後々のアールヴとの交易を実現するにあたりこれ以上ない貿易の拠点と言っても差し支えないだろう。
なんなら草原も開墾し、アールヴでしか栽培されていないような野菜や穀物類、薬草や果樹の栽培だって盛んに発展する。
そんな草原や廃村に、いつまでも仮住まいするわけにはいかない。この場所はいつか必ず、そう遠くない内に再開発を担った者達が訪れるだろう。
逃走中の彼等は、誰にも見付かるわけにはいかないのだ。
「『早くても五日……。遅くても一週間のうちにここを離れよう。それまでに干し肉とかの保存食を作れるだけ作って──』」
「『どこに行くってのよ』」
「『……』」
少女の言葉に、青髪の青年は思わず黙る。
「『ここにもう暫く……って言うんだったらまだ良いわ。住み心地、悪くないもの。でもここから出てって、どこか行く宛てあんの? アンタ……』」
「『それ、は……』」
少年に、寄る辺などない。
いや、厳密にはあるだろう。
自分を養子に取り、ここまで育ててくれた大恩人だ。
厳しくもどこか甘く、多少の無茶なら頭だって下げてくれる、そんな人だ。
今回の事だって、もしかしたら正直に話せば何とかしてくれるかもしれない。
その素晴らしい権力であらゆるものを揉み消して、なんならこの二人のエルフ族だって匿ってくれるかもしれない。
義父はそれだけ、少年に甘かった。本人は隠しているつもりではあるが、過分に甘かった。
だが──
「『そう、だね……。罪を犯した僕に、行く宛てなんて……』」
「『あ』」
「『ちょ、姉さんまた……』」
「『いやでもだって……』」
少年は罪を犯した。取り返しのつかない罪だ。
命を守るために犯した罪ではあるが、目的など関係無い。犯した罪の重さに違いなどない。
それを実行した時、彼は半狂乱のような状態であったし、頭の中では絶えず〝正義〟の執行を呼び掛けられはしたが、そんなものは関係無い。
そんな罪人の自分が、果たして義父を頼って良い筈が──
「『まったく。部屋も暗ければ雰囲気まで暗いな。こっちが滅入ってしまいそうだ』」
「『──ッ!?』」
「『──ッ!?』」
「『──ッ!?』」
部屋に突如、知らぬ声が鳴り響き、三人は一斉に振り返る。
いや、厳密には知らない声ではない。
だが、この場に於いては、ある意味で最も聞きたくなかった声であろう。
もっとも、そんな些事など声の主の知った事ではないのだが。
「な、なんで……」
「ふふふ。久しぶりだな。ディーネル、ダムス。それに──」
黒ベースに赤斑らの髪を揺らし、男は笑う。
不気味に、可笑しく。嗤う。
「ヴァイス……」
「クラウン……なんで……」
「どうだ? 今夜は少しお喋りでも興じようじゃないか?」
そう言ってクラウンは、ポケットディメンションからグラスとワインを取り出した。
ヴァイスのターニングポイント、今ここに。




