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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第一部:元老人は蒐集欲を抑えない
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第六章:貴族潰し-6

 空は茜色。夕方である。


 昼時には賑わっていた商店街も次第に落ち着いて行き、今では人もまばらだ。


 そんな中私は少ない荷物を背負い宿屋への帰路についている途中、改めて買った物を確認するべく、噴水広場近くのベンチに腰掛けていた。


 当初の予定通りいくつか体力回復のポーションを買い込んだ。侵入作戦の邪魔にならないよう一番小さな小瓶にいくつか詰めてもらい、合計八つほど専用のベルトに装着させている。値段も格安にしてもらった。どうやら店主は私をお使いか何かだと思ったらしくオマケしてもらったのだ。


 まるで子供料金で電車に乗るようなノリだが、貰えるオマケは遠慮なく貰っておく。実際私は五歳児だしな。


 それとは別に予想外の物も見つけた。魔力を回復してくれるポーションである。何やら特殊な技術が必要なのか、個数と値段に通常のポーションよりも隔たりがあるが、私は迷い無く購入した。


 ただでさえ五枚ものスクロールでスキルを習得して魔力を使ってしまっている上、何枚かは一度失敗し追加で魔力を注ぐハメになってしまった現状、この魔力回復ポーションは大変に有り難い。取り敢えず三つほど買い、同じく専用のベルトに装着してある。


 しかしポーションなんて物が現実にあるとは正直驚きである。ゲームなんかじゃ自身のHPを回復させたりするアイテムの定番ではあるが、こと現実において何をもって「体力回復」とするのか、かなり曖昧だ。


 ではこの腰にぶら下がるポーションというのは具体的に、現実的にどんな代物なのか…………。これは興味が唆られる。最低一つずつは原材料やその製法を学ぶ為の試験薬となってもらおう。


 そういえば確かリリーは薬売りの様な事をしているんだったか? 今度会って詳しく聞いてみるか…………。


 それとナイフを一本新調した。実は先日、ハーボンが屋敷に侵入し、それを迎撃した際に投げたナイフが刃こぼれをしてしまっていたのだ。予備に一本追加で持っていたのだが、どうせならと刃こぼれしたのと無傷なのを両方質に入れ、その金で多様性に富んだサバイバルナイフの様な物を買った。


 因みに二本のナイフを一体どこから調達したのかというと、実はコッソリ屋敷内にある倉庫を漁った際に見つけた物だったりする。だがそのままでは錆びていて使えなかった為調理場から砥石を拝借し、夜に少しずつ研いだ。まあ、苦労して研いだ物をあの一回で駄目にしてしまったのは痛かったが、結果オーライだろう。


 後は安眠効果があると宣伝されていたキャンドルと地味に欲しかった魔法とスキルに関する本を数冊。腹ごしらえに露店で売られていた肉の串焼きでいい感じに皮袋の中はカラになった。


 一応スクロール屋もチラッと見て回ったのだが、やはり皆どれも高額でとても手が出せなかった。


 一番安くて銀貨五枚って…………。まあ、世間一般じゃこれが普通なのだろう。なんせ技術や異能を金で買えるのだ。習得率の低さを鑑みてもこの値段は寧ろ安い部類なのやもしれない。きっと私がメルラからスクロールを貰い過ぎて感覚がおかしくなっているのだ。


 そう考えると、メルラには感謝してもしきれないな。今後は苦手な性格だからと邪険にするのは止めよう。


 さあ、それじゃあ買い物の確認も済んだ事だし、いい加減暗くならない内に宿に戻らなければ。


 そう思い私はベンチから腰を上げ、一つ背伸びをする。するとなんだが広場の端の方に人集りが出来ているのに気が付いた。人数もそこそこ、年齢層はバラバラだ。


 一体何事かと覗き込もうとするが五歳児の身長では大人の人集りを見上げることしか出来ない。仕方ないので少し離れベンチに乗っかって再び覗き込む。


 すると人集りの中心には高台で演説でもしている様に身振り手振りで人々に語り掛ける少女がいた。


 少女は金とピンクの細かな装飾が所々に施された神官服を着用しており、発色の良い金髪をたなびかせ、その大きな碧眼は真剣味を帯びている。


 流石に離れ過ぎていて話している内容は判然としないが、その声音は驚く程透き通っており、近くで聴いている人々はそれだけで彼女に魅了されるだろう。


 一体何を話しているのだろう? 神官服を見るに恐らく彼女はどこかの教会にでも所属している感じだ。と、すると…………布教?


 母上から聞いた事があるのはこの世界で正に世界規模で信仰を集めているという「幸神教」だが、それだろうか?


 まあ、何にせよ私には関係無いな。前世では無神論者だったから宗教には余り強くないし、なんなら死後に実在する神様とご対面している。ヒドく人間臭いという印象があって寧ろ好感が持てたが、だからといって崇めようとは思わない。


 少し時間を無駄にしたかな…………。と、立っていたベンチから降りる直前、高台から演説をしていたその神官服を着た少女が私を見付けた。


 瞬間、私の中で何かがザワついた。


 全身の産毛が立ち上がり、鳥肌が粟立つ。


 冷や汗が背中を濡らし、心が強く叫ぶ。


 アレは敵だと、(たお)さねばならぬ敵だと。

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