終章:忌じき欲望の末-25
人によっては苦手な話になるかな……。
今まであまりセンシティブに寄った内容にしてこなかったので、作者としては読者方にそういった免疫があるか判然とせんのです……。
ただ、こういう話は〝欲望〟を主題とする我が作品としては避けられぬのです。
性欲や情欲、愛欲も立派な欲望ですからね。
それにいずれは《色欲》が出て来るわけですし、苦手な方はどうかそこのところ、無理のない範囲でご了承下さい!!
ロリーナにとって、クラウンという存在は〝男〟の代表のような存在だ。
勿論、彼と出会う以前からリリーの薬師業での接客で男性客とは接点はあった。中には彼女を目当てに来店する者もいたという。
だが男性──異性としてハッキリ意識したのは間違いなくクラウンが初めてであり、女性が男性に覚える一通りの好感情は全て彼から齎されている。
尊敬も、憧憬も、信頼も、献身も、願望も、恋慕も、愛情も。
そして──
「え……え、え、ぇっ……」
「アンタ、まさかそういう性的な知識が全くないわけじゃないでしょ?」
「え……いや、う、ぅぅ……」
「……その反応を見るに、あるっちゃあるって感じ? まあ、私達も年齢的には一応成人してるわけだし、あるのが普通なんだけどさ」
ロリーナの性知識は、当然の如く育ての親であるリリーにより教えられている。
しかしそれは割と最近──ここ一月前の事であった。
ロリーナとクラウンの仲が睦まじいと察したリリーが決して恥をかかぬようにと、基本的なところから応用をきかせたところまで、しっかりと叩き込んでいる。
故に、彼女は別に無知ではない。
そしてそれ故に、ロリーナはなるべく考えないようにしていた。
あの、クラウンの言葉を受けたからだ。
『だが君の勇気に……覚悟に今頷いてあげる事は、出来ない。流石に今の私達の年齢と立場で子を持つのは、現実的とは言えないよ』
「……」
「……? なに? どうしたの急に俯いて……」
「……私」
「ん?」
「クラウンさんに、子供を作ろうって、提案した……の……」
「──ッッッ!?!?」
一同は、思わずその場から立ち上がる。
──皆のロリーナへの評価を一言で表すならば「クールビューティー」だ。
物事の本質を冷静に見定め、例え突発的な出来事に遭遇しようと瀟洒を保ち、常に表情を崩さない……。
勿論、皆は彼女がクラウンの前でだけは一人の恋する乙女になる事は理解しているが、それでも、ロリーナに対する印象は「清廉潔白」を彷彿とさせて来た。
このお茶会が開催され、また一同が出席したのは、そんな彼女の普段は表に出されない赤裸々な恋愛事情や真意といったものを知りたいという裏の事情もある。
予想はしていた。そう深い話は出てこないと。
互いに懸想し合う者同士の甘酸っぱい恋バナが聴けると、あわよくば今後の参考にしようと、密かに胸中に抱いていた。
だがしかし、主催者であるヘリアーテは自分達が思っていたよりも切り込んだ。
そして想像だにしない回答が飛び出した。
「こ、こど……はぁっ!?」
ヘリアーテは瞠目し、少し声音が上擦る。
「ど、どういう経緯でッ!? てか、さっきシてないって……」
「え、えぇっと……」
「そ、それ、話して、大丈夫な、やつ?」
固唾を飲んだロセッティが心配そうにそう問い掛ける。
先程からセンシティブな内容ではあったものの、ここから先は恐らく迂闊に他人が入り込んで良い領域ではない。
何よりクラウンとの会話内容であるならば、それを部下である自分達が耳に入れて良いものなのか……。
ロセッティに言われ、周囲もその可能性に気が付き、揃って口を噤む。
しかし、当のロリーナは逆に、言いにくそうにだがその口をゆっくりと開いた。
「…………クラウンさんは、戦争で、元々は私を参加させないつもり、だったの」
「あ、うん……」
「でも、私、それがイヤで……。私を置いていくなら……って……」
「あ、あぁ……」
「なる、ほど……」
その言葉で察する。
話に聞いていただけではあるが、人間は戦場に赴く際、本能で己の子孫を残したくなるという。
無論、全てが全てその本能に従うわけではないが、ロリーナの場合はそれを建前に使ってクラウンを引き留めた。
もし置いて行くつもりなら自分と子供を作り、万が一、億が一の為のせめてもの繋がりが欲しい……。自分とクラウンの愛の結晶を形として欲しい、と……。
だが。
「クラウンさんは、将来のこと、色々と、考えてて……。私のこと、頼りにして、くれてるから、だから今は……って」
「……」
「私それで、納得、して……。腑に、落ちちゃって……。だったら、まだいいか、もう少し先でも……って。ちょっとだけ、ホッと、しちゃったの……」
「……ふぅん」
「覚悟、とか、してたつもりだったの……。でも、いざやらなくてもって、なったら、それで、落ち着いちゃ、って……」
それからロリーナは子供云々の話は勿論、その話題から繋がりそうなセンシティブな物事を実行し辛い雰囲気になってしまった。
クラウンもクラウンで普段の言動こそ変わらぬものの、気まずさもあってかそこから先に進むような手段には移ることはない。
エルダール討伐後に音沙汰が無かった際の心配を利用し、寝食を同じ帷幄で過ごして同衾にまでは持ち込んだものの、それ以上はいかず何も進展しないまま、今に至る。
「……」
「……つまり?」
「え?」
「つまり、どうしたいのよアンタ。今のまま中途半端な感じで良いわけ?」
「それはっ……」
「そんなワケないわよね? じゃなきゃ私の話なんて適当に流しちゃえばいんだから。それをわざわざ広げたのはアンタよ」
「う、うん……」
「……進展させたいんでしょ?」
「…………うん」
少し前までは、このままでも良いと本気で思っていた。
急がなくてもクラウンさんは自分を見捨てない。
ゆっくりでも時間を掛けて、然るべきタイミングで少しずつ仲が深まっていっても問題はない。
そう、思っていた。
だが変わったのは記憶が戻った時。
自身の中にあった《欲の聖母》が目を覚ました時。
自身の出自、自身の境遇、そして自身の正体……。
それらが判明した後、ロリーナの中のクラウンへの感情は一気に燃え上がった。
元々あった恋慕の想いは情愛に溢れ、尊敬と依存は崇拝に似たものに昇華し、希薄だった我欲は困惑するほどに肉欲として膨れ上がったのだ。
見慣れた横顔や目力は今までの数倍魅力的に見え。
耳朶を叩く低い声音は腹の奥底を撫でるように疼かせ。
ふわりと鼻腔に流れ込む彼の微かな男の香りに背筋と脳に電流が走り。
衣服の隙間から覗く男らしい骨格と締まった筋肉を垣間見て震えるような痺れを覚える……。
今まで眠っていたそんな原始的欲求が全力で叩き起こされたかのように、彼から発せられる全てに自身の〝女〟の部分が醒めるような興奮を覚えていた。
ロリーナはそれを努めて押し込めていたが、ここで彼女自身が取り付けた寝食をを共にするという約束が災いし、最近では日々を悶々と過ごす羽目になっている。
……だが──
「なら、我慢しなくて良いんじゃないの?」
「え……でも……」
「迷惑かって? んなワケないでしょっ! 所詮オトコなんてエロい事しか考えてないんだからっ!!」
「く、クラウンさん、も?」
「当っったり前でしょっ!! アイツ器用に誤魔化してるつもりなんだろうけど、たまにアンタの胸とかお尻チラチラ見てたりすんだから」
「──ッッ!!!?」
「まぁあ? アンタスタイル良いしね。目に留まるわよ。特に胸なんか私達の中じゃあ一番大っきいし。その割にアンタ割と無頓着で無防備だから訓練の時とかメッチャクチャ揺れてんのアイツいっつも型を見るって体で凝視してんの。ホント、オトコってバカよねっ!!」
「〜〜〜〜っっ……」
ロリーナは思わず両手で顔を覆い、俯く。
そういう所を見られていた恥ずかしさと、自分をそんな風に見てくれていたという不思議な高揚感に、思考がまとまらずグルグルと周って頭から煙が上がっているような幻覚に襲われた。
「まあそれで手ぇ出してないんだから見上げた根性ではあるんだろうけど、強欲なアイツがそんな長々と我慢なんて出来ないだろうし。今夜か明日にでも襲われんじゃない? アンタ」
「い、いや……それは流石に言い過ぎじゃあ……」
余りの偏見に思わず口を挟んだロセッティだが、ヘリアーテは眉を顰めて鼻を鳴らす。
「ふんっ! オトコなんて皆んなオオカミなのよっ! 油断したらロセッティだって分かんないわよ」
「えっ。わ、わたしっ?」
「そうよっ! あ。でもアンタの場合は逆かしら? アンタの方が我慢出来なくなったりしてね。ウジウジしてそうで意外とがっつきそうだし?」
「な、ななな、なんのハナシっ!?」
「さぁ? なんの話かしらねー?」
「もうっ! ヘーテちゃんはっ!」
ニヒルに揶揄い笑うヘリアーテにムクれるロセッティ。そしてそれを周囲で見守りながら自分は、とやいのやいの騒ぎ出した部下の数名……。
しかしそんな景色と喧騒は、今のロリーナには一切入って来ない。
ヘリアーテに言われ、自身の気持ちや欲望は理解した。
それは決して悪いものではないし、今の微妙な立ち位置や関係性もグッと近付く。
今よりも深く、密に、溶け合うような……。そんな関係になれるだろう。
それがロリーナ自身嫌ではないし、寧ろそうなった時のより身近になった自分達を想像して気恥ずかしさと喜びに身悶えしそうだ。
そんな自分をクラウンは喜色満面で受け入れ、今まで以上の愛を求めてくれるのは必至。
きっと大切にされるだけではない。時には独占欲に満ち溢れた荒々しい剥き出しの欲望をぶつけてくるだろう。それこそ、大好物を眼前にした餓死寸前の獣のように……。
頼られる以上の存在──求められる存在へと進展し、爛れるように……貪るように……。
「…………」
そしてそれが、ロリーナは嫌ではなかった。
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「…………ふぅ……」
窓際。豪雨が壁を乱打し、湿った空気の匂いと質感が部屋に充満する。
サイドテーブルには最初の一口以降、一切口を付けていないワインの入ったグラス。
視界を覆うのは中ほどで開かれたまま一度も捲られず、ただただ己の顔を無意識に隠す一冊の本。
椅子には浅く座った状態で背もたれに全体重を預け、本を乗せたまま天を仰いでいる……。
「……私は、何をしているんだろうな……」
口に出すつもりは無かったが、思わず漏れてしまった。
意味は様々だ。
折角用意したワインは飲む気になれないし。
開いた本は一文とて頭に入ってこない。
普段絶対にしない盗み聞きなんてものにスキルを使ってまで傾聴し。
ロリーナの気持ちを聞いて今までの自分の独り善がりな節制に呆れ果てて……。
私は本当に、何をしているのだろうか?
──私は彼女を何処か、他の女性とは違う特別な存在のように感じていたのかもしれない。
無論、私にとってロリーナは特別だ。
何にも替えられぬ尊く愛おしい存在であるし、気が付けば私の心の真ん中に居た掛け替えのない存在だ。
だが、しかしだ。
ロリーナは他の子達と変わらぬ、十五歳の少女だ。
落ち着いていて、健気で、瀟洒で、静謐で……。
周りの人間全員と比較しても大人びていて、あらゆる面で私を支えられるような才色兼備の……懸想と情欲に疎かった普通の少女なのだ。
私を支えてくれて、私を好きになってくれて、私を心配してくれて。
私に執着してくれて、私に依存してくれて、私に……欲情、して、くれて……。
……。
…………。
………………。
「…………はぁぁぁ……」
無意識に、溜め息が漏れる。
気持ち悪い。なんて私は気持ち悪いんだ。
我ながらに気色悪くて嫌になる。
いい大人が──今世も含めて九十年も生きて来たクソジジイが、何を改めてそんな恋愛や性欲に振り回されているんだ?
初めてじゃないだろうに、何をぐだぐだうだうだと……。
…………いや、これがもしかしたら普通、なのか?
好きな女性を……愛する人を……ロリーナを……。
その気持ちに不躾に聞き耳を立てて、気にして、考えて、妄想して……。それに興奮を覚えて……。
私の魂は、最早あの頃の枯れ果てた腐りかけのものではなく、たった齢十五の若造として在るというのか?
だからこんなにも、青臭くて生温い事を……?
…………。
前妻の──夢の時には、そんな気持ちは湧かなかった。
結婚して、妻に迎えて、愛した。それは間違いない。今だって鮮明に、思い出せる。
だがその先は……望まなかった。
第一に彼女の身体の事がある。虚弱な彼女の身体では、耐えられないだろうと。
だが、アレはもしかしたら言い訳だったのかもしれない。
やろうとすれば幾らでも、やり方はあったのかもしれない。
しかしそれでも……やはり望んでいなかったのだ。
別にあの時は既に童貞だったというわけではないのだがな。
愛が介在する捨て方ではなかったし、あの時分は生き急いでいてなりふり構わずで、裏社会の掌握を目指して手段を選ばなかったからな。
好きでもない人を抱いて利用して、時には愛を騙って、なるべく悔恨も禍根も残らないように自然を装って私から捨てた。
それに後悔は無い。最低最悪と謗られようと、必要な事だったと一縷だって悔やんではいない。
だからだろうか……。かつての夢に対して──いやロリーナにも、きっと私は何処か避けていたのだろうな。
打算でしか使っていなかったモノを、果たして本当に彼女達に使って良いのだろうか、と……。
その行為に、本当に計算は無いのか? その欲望は、本当に脳みその上辺だけで形作ったものではないのか? と……。
その為だけに使ってきたものは、本物になれるのか? と……。
夢の時にはついぞ分からず、悩んだまま──言い訳したまま何もせず、彼女は死んだ。
だが、ロリーナはどうだ?
まだまだ彼女と過ごした年月は短い。もうすぐ四年になるが、急速に動き出したのは今年からの数ヶ月だ。
夢との十数年に比べれば短いし、悩んだ月日も比べれものにならない。
愛情は……比べるものではないな。そもそも方向性や質が違う気がする。具体には、私にも判然としないが、別種なのは間違いない。
その中で、私は夢には抱かなかったものを──欲望をロリーナに抱いている。
前世の汚濁の記憶や経験を一蹴してでもロリーナを愛したい。深く、隅々まで、余す事なく、愛したいと思っている。
ロリーナの淫らな姿を。
ロリーナの嬌声を。
ロリーナの肉体を。
ロリーナの甘い香りを。
ロリーナの熱を。
ロリーナの愛欲を。
手に、目に、舌に、唇に、肌に、脳に、心に。
感じて、感じて、感じて、感じたい。
それが、最近では、止まらない。
「…………」
──私は手に待つ本をサイドテーブルに置き、ポケットディメンションを開いてそこからスクロールを取り出し、広げる。
そこに刻まれているのはスキル。
封印されているのは《避妊》。
発動中、女性ならば卵子の、男性ならば精子の基本機能──受精機能をオミットした擬似卵子・精子へと置換する、文字通りの権能を有したスキルである。
以前砦内に設置されたメルラの臨時スクロール屋で見付けて購入し、堪え切れなくなった際に、と用意していたもの。
結果的には自身で処理する事でなんとか使わずに堪え続けて来たが……。
「…………」
ロリーナが望んでいるか分からない。
ロリーナはそんな関係を望んでいないのかもしれない。
子供云々の時は本当に私を引き留める為に振り絞った選択であり、本心では必要がなければやりたくないと思っていたかもしれない。
そんな可能性が顔を覗かせていたせいで我慢を重ねた。
自身の汚い過去の所業の醜悪さに巻き込んでしまうかもしれないと、気にしないようにしていた。
それが払拭され、踏み倒せてしまった今、私は……。
「…………私は、責任が取りたい」
スクロールに魔力を送り込み、同時に《強欲》を発動する。
内在していたスキルは私と魔力的な繋がりを持つと流れ込むようにして私の中へと滑り落ち、脳内にアナウンスが響いた。
『確認しました。補助系スキル《避妊》を獲得しました』
「……」
空となったスクロールをポケットディメンションに仕舞い直し、上体を起こす。
そしてサイドテーブルのワインを掴み取り、それを一気に呷った。
一口目では感じなかった芳醇な香りと適度な酸味が、豪雨の湿度と相まってじんわりと鼻腔と食道を抜け、旨味という幸福感が胸から広がっていく。
「……」
だが、渇きは癒えない。満たされない。
今の私に必要なのは、これではない。
「……」
逸る気持ちを抑え、考える。
後悔しない瞬間を、後悔させない場所を。
可能な限り最高に、可能な限り鮮明に。
二人で後悔しないように、二人が幸せな気持ちで迎えられるように。
そして貪るのだ。
互いに、互いを……。
「さて。まずは雰囲気を作れる場所はどうするか……」
「む」
「──っ!」
暫くして、そろそろ夕食の準備をせねばと自室を出ると、丁度お茶会を終わらせたらしいロリーナとばったり鉢合わせた。
彼女は私の顔を見上げると、今までにないくらいの勢いで顔を赤らめ、露骨に視線を外す。
本来なら理由が分からずアレコレと思案するところだが、今回に限ってはそれも把握している。
……まあ、お世辞にも褒められる事ではないのだがな。女性の秘密の団欒を盗み聞きなど、普段の私なら眉を顰める所業だ。
今後は意識し、努めてそんな面映いマネはせん。
──と、黙ったままではいかんな。
「やぁロリーナ。君も夕食の準備を?」
「えっ!? は、はい……」
「そうか。なら付き合ってくれないか? 今日は少しだけ凝ったものを作ろうかと思ってな。君には色々と意見を聞きたい」
「そう、ですか……」
「ダメか?」
私がロリーナに一歩歩み寄り手を取りながら顔を覗き込むと、彼女はいつもの無表情からは想像も出来ないほどに口元をゆるゆるに緩め、目は右往左往と泳ぐ。可愛い。
「だ、だ、め、では、ないで、す……」
「うむ。では一緒に行こうか」
そのまま取っていた手を握り直し、歩き出す。
「く、クラウンさんっ!? あの……手……」
「む? いやだったか? 私は君になるべく触れていたいんだがな……。君が言うならば仕方が──」
「イヤじゃっ! ない、です……」
そうロリーナは言って、少しだけ甘かった握りを整えるように強く握り返し、上目遣いで私を見上げる。可愛い。
もう正直今すぐにでも抱き抱えてベッドに連れ込んでしまいたいが……機を逸してはいけない。
「……ありがとうロリーナ。では行こうか」
「……はい」
ロリーナはいつもよりも狭い歩幅で歩き出し、私もそれに合わせてゆっくりと歩を進める。
厨房までの距離は然程無いが、このペースなら比較的長めに手を繋いでいられるだろう。
それでも足りないなら、また別の事を、別の機会に堪能しよう。
なんならこの後の調理で、ロリーナとの時間を堪能しよう。
少しずつ少しずつ満たして。
少しずつ少しずつ味わい。
少しずつ少しずつ……深まろう。
決して彼女に、後悔が残る思いをさせないように……。
──そして後日。
ティリーザラ王国にて、ティリーザラ王国とアールヴ森精皇国両国による、和平締結の調停式が執り行われた。
女子会の会話内容に自信がありません。
というか女性の会話なんて分かりません。気持ちも当然わかりません。
不安です……。




