第九章:第二次人森戦争・後編-27
感想でも頂いていましたが、クラウンは描写こそしていないだけで作中で描写したスキル以外にも様々なスキルを習得しています。
二部が終わり次第、クラウンのクソ長のステータスを一度書くので、気になる方は今暫くお待ち下さい。
「『オイ貴様ッ!! 貴様が件の──』」
「黙 れ」
「『──ッッ!? ごぉぁぁッッ!!』」
私の目の前には、アールヴの精鋭部隊である近衛兵達が立ちはだかっている。
いや、正確には〝いた〟か……。今こうして私の前で無力にも地に伏しているのだからな。
──私が今居るのは、行政区画から審査門を潜って昇降蜘蛛に乗り込み、貴族区間を少し進んだ先にある皇城区画へと続く幅広い街道、その中腹。
そこには私がここに向かっている事を知った近衛兵達が待ち受けており、今に至るというワケだ。
奴等はエルフ族の兵士の中でもエリート中のエリートであり、その全員が数千年続くアールヴという国を古くから支え続ける武闘派の血を継ぐ戦闘集団。
霊樹トールキンと皇帝の守護を至上命題としており、戦争だろうが何だろうが微動だにせず皇城区画を守護している。
個々の戦闘力は勿論のこと一般兵士などより遥かに精強であり、一人一人が隊長や副隊長クラスの強さと一芸に特化した武器術を有する正に精鋭部隊。
トールキンの庇護下という事もあって当然漏れなく《霊樹の加護》の恩恵にも与り、決して馬鹿に出来ないアールヴきっての切り札である。
──が、幾ら古からの精鋭だろうが個人で強かろうが加護の恩恵にあらうが、私を止めるには些か足りない。
「『ふん。トールキンの引きこもり共が。自己研鑽に明け暮れるのは称賛出来るが、その程度で驕り意識まで閉鎖させていては本末転倒。だから私のような人間一人に手も足も出んのだ』」
「『ぐぅ……。こ、しゃく、なぁぁ……』」
コイツ等は今、私の《重力魔法》の魔術「平伏せし魂の重み」により地に縫い付けられている。
《新秩序》により周囲を理想的な力場に書き換え、スキル構成を魔術特化にシフトした今の私の魔術は、最高位魔導師であった師匠にも並ぶ。
「『例え最強の兵たる近衛兵であろうが、《霊樹の加護》がお前達を強くしようが、魔法魔術先進国である我が国の最高峰の愛弟子たる私に、その程度で敵う筈ないだろう』」
私は近衛兵達に手を翳し、魔力を流し込んで掛けている重力をじわじわと大きくしていく。
「『や゛ぁ……め゛ぇ……』」
「『トールキンが大好きなんだろう? ならその血肉の一滴一片に至るまで潰れて肥料になれるなら本望だろう。喜べ』」
「『ごぉぁ……が』」
言葉にならぬ呻き声が口から漏れ出る血を泡立てながら、近衛兵達が僅か数センチの厚さとなり、果てる。
城への道は一部、真横に一本の線を引くように赤く染まった。
「はぁ……。外の門番や警備総隊長、リンドンや近衛兵共……。こんな状態でなければ《収縮結晶化》やら脅してからの《完全継承》でスキルを手に入れられたというのに、本当に勿体無い」
多種多様なスキル達が露と消えていく……。想定外の支障だったとはいえ、事前に可能性を見出していれば事前に対策出来たかもしれん。口惜しい事だ。
それにこのトールキン内では奴等エルフ族の魂も回収出来んらしい。スキルの力よりも霊樹トールキンのエルフ族の魂を昇華する作用の方が強いのだろう。
やれる事と言えば死体を回収しスキル化させる事だが、それもやり過ぎれば後々の死体の所在を不審がられ面倒事に繋がりかねん。
いらん面倒事で私の戦果や褒章にキズが付けば、最悪の場合に目的や目標に届かん可能性もある。
はぁ……。まったく──
「ままならんな……」
無意識に頭を掻きながら目の前の皇城を見遣り、仰ぐ。
その姿を評するならば「木造建築の最高到達点」。
前世のサンクチュアリー・オブ・トゥルースを彷彿とさせる荘厳で緻密な装飾が全面に散りばめられ、至る所に民族的な衣装を身に纏ったエルフ族の彫刻やアールヴを象徴する蜘蛛の肖像、そしてトールキンと思われる巨木を形取った柱や紋様に溢れている。圧巻の情報量だ。
反面、色彩に関しては木材本来のナチュラルなもの。様々な種の材木を組み合わせる事で複雑で幾何学的な濃淡の配色を実現し、要所要所の塗装も全て果実や草木を煮出して作られた優しく淡いものが使用されている。
生まれ変わる前は様々な国を訪れ、目ぼしい世界遺産や興味深い歴史の建築物を度々目にして来たが、このアールヴの皇城「アマン城」を超える木造建築は恐らくない。
私自身何度かこの城を目にしているが、未だにこうして仰ぎ見ずにはいられない。そんな神々しさと神聖さ、美麗さが共存する素晴らしい城だ。
「……叶うならば、壊したくはないものだな」
ユーリが城に居る限り、城内での戦闘は避けられない。
当然城内にも蔓延っている近衛兵の残党や非戦闘員ならば難なく制せるだろうが、ユーリ相手にはそうもいくまい。
何故ならば、私は奴の能力を万全には把握していないからだ。
──あらゆる手を尽くし、ユーリが一体どうやってダークエルフというエルフ族の汚点であるにも関わらず皇帝の座に就き、大臣達や反ダークエルフの臣下達に自身の存在を飲み込ませたのかを調べたが、ついぞ真相は分からなかった。
十中八九奴自身が徹底して全てを消し去ったのだろう。
そのせいで奴の能力に繋がるような僅かな情報すら手に入れられず、対策や作戦がこの上なく不安定なものしか用意出来ていない。
強いて情報を上げるならば、私の《解析鑑定》が通じぬ程に能力を隠す事に長け、自分自身を全くの他人に見せ掛けられる術を有し、暗殺術に秀でている。
そして何らかの能力で対象のスキルや記憶等を〝消去〟する事が可能……。この程度だ。
もしユーリの実力がこれらだけであれば今の私でも完封は可能だろうが、そんな希望的観測を鵜呑みにする程めでたい頭はしていない。必ず私に手を掛けられる術を持っている。
そうなればどれほど激しい戦闘になるか分かったものではない。きっとこの美しい城に大なり小なり傷がつく事になり、下手をすれば倒壊なんて有り得る。
この美術的、歴史的価値が計り知れないアマン城が失われてしまう……。幾ら敵国とはいえそれは大変に忍びない。なるべくならば傷付ける事なく片付けたいが……。
……まあ、流石にそうも言ってられんか。いざという時にいらん事で躊躇など余りに笑えん。
もし壊れたならばまた作り直せば良い。なんなら私自らが資金提供やその幇助を買って出るのも悪くはない。
そうなればエルフ族の人族に対するイメージ改善の一助にもなるかもしれんな。上手くいけば、だが。──む?
「『まだ正門前に居るぞォッ!! 討ち取れェッ!!』」
と、のんびり城の行方を案じていたら城から追加の近衛兵共が湧いて来てしまったか。致し方無い、潰しておこう。
「『通らせてもらうぞ──」」
両手に魔力を迸らせ、迎え討つ。
「『この道は私達が通る道だ』」
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「『ぐ、おぉぁぁぁ……』」
「ふぅ。これで最後?」
「うん。僕等の担当はそれで最後だねー」
アールヴの首都である霊樹トールキン──その周囲を囲むように円形に築かれている城下町の南西方面にて、ヘリアーテとグラッドの二人は最後の兵士を斬り倒して息を吐く。
「ま。僕等の感知系スキルを上回る隠密系スキル持ってるヤツいたら分かんないけどさー」
「はぁ。そりゃそうだけど、それ言い出したらキリ無いっての。第一私達、別に皆殺しとか掃討しろなんて言われてないしね。隠れてやり過ごそうが敵前逃亡しようがお好きにって話よ」
二人──厳密にはクラウンに追従して来た彼の部下六名は現在、城下町の制圧を命令されていた。
目的は三つ。
城下町に駐留する兵士がトールキンへ突入したクラウン達の背後を追撃のを防ぐ為と、これから彼等が向かうトールキンの地下──研究区画での作戦の横槍防止。
そしてティリーザラから主戦場となっている平原を抜け、今頃こちらに向かっているであろう丁寧に丁寧に誘導してきた〝とある一団〟の邪魔をさせない為。
特に最後の〝とある一団〟はクラウンが秘密裏に進めている作戦の要であり、彼等がトールキンにまで辿り着かねば全てが水泡に帰す事になりかねない。存外に馬鹿に出来ないものになっていた。
「にしてもボス、手間暇かけるよねー。いつから考えていつから仕込んでたんだろ」
「わっかんないわよ、んな事。戦場丸ごと舌先三寸で思い通りに動かすような奴の頭なんてどうやって分かれっての」
──クラウンはこの戦争が始まって以降、アールヴの大臣達から得た情報を元に自軍の諸将等を〝口先のみ〟で操作して来た。
諸将の性格、人間性に趣味嗜好、果ては財産や家族構成とその関係性に至るまで全てを把握し、彼等がどんな行動、作戦を好むのかを万全に掌握。
それ等を前提に自部隊の配置や戦況の偏りを敵軍の情報に照らし合わせ、軍議にて諸将等にアドバイスや助言、時には精神論や甘言、欺瞞を用いて言葉巧みに自身の都合の良い行動を誘発、誘導してみせた。
結果。兼ねてより悩みの種であった自国の失業者と無能でやる気だけはある下級貴族を適度に間引き、加えてユーリ達の目を誤魔化す目的の戦況の一進一退を演出。
演出を利用し英雄エルダールを討ち取り、それと同時に敵味方両面の目を欺きながら〝とある一団〟が安全且つ円滑に戦場を横断しアールヴへ辿り着く導線を築いていた。
複雑怪奇に絡み合ったそれ等無数の目的の糸は、しかし絡まっているようでその実裏返して見れば全てがクラウンの思い描いた絵が広がっている。
権謀術数、神算鬼謀……。この戦場は既に、クラウンの手中に握られているのだ。
「でもまあ、後はボスの思い通りでしょ? 多少の誤差は生まれるでしょうけど修正可能らしいし。こっから作戦失敗なんて余程の不測の事態よ」
「あはは。ボスが聞いたら怒るよー? 「君は随分と余裕があるんだな? 何なら代わるか?」ってさー」
「ぐ……。声真似ぜんっぜん似てないクセに解像度高いこと言うじゃないわよ……」
クラウンに笑顔で実際に言われる所を想像し項垂れるヘリアーテ。
二人共──というか部下全員が思っている事ではあるが、自分達のボスであるクラウンの何が最も恐ろしい所なのかと言われたならば、その〝油断の無さ〟にあると口を揃えるだろう。
現在の戦況は圧倒的にティリーザラ王国に傾き、アールヴは士気、兵力共に半減どころの騒ぎではない。
既に本戦場である平原のアールヴ軍は壊滅、壊乱し、その殆どが逃げ隠れるか投降、もしくは捕虜として捕縛されている。
アールヴへ侵攻した軍も現在は約半数が町村を制圧し終え、敵軍の命令系統や補給線等は崩壊。最早アールヴの勝ち目は無に等しい状態である。
しかし。それでもクラウンは一縷の油断もしてはいない。
万が一の対策により実姉ガーベラの使い魔である竜──プルトンと話をつけ合図次第で彼の竜が動き出す手筈になっており、ヘリアーテ達の部下である十二名の生徒達もまた要所要所に配置され目を光らせている。
戦況の優位さに酔いしれ、不測の行動を起こす可能性がある無能貴族が勝手に動き出さぬよう、遠回しにコランダーム公やエメラルダス侯に助力を願い監視させてもいた。
そしてそれらを全てムスカによる《眷族召喚》の蝿の監視を徹底させ、何が起こっても即座に対応し対処する事が出来る。
全方面に隙を作らず、あらゆる可能性を可能な限り潰す……。徹底しているなんて生優しいものではない。最早病的な程に油断なく、全てに備えているのだ。
「アハハっ! まー、僕らもさ? ボスほどでないにしろ油断はやっぱ禁物だよ。ボスだって僕らを信用して背後と地下を任してくれたわけだしね」
「わ、わかってるわよ……。えーっと、ムスカ?」
気を取り直すようにして背筋を伸ばしたヘリアーテは、手を耳に当て《遠話》を発動しながら虚空に視線を向けムスカの名を呼ぶ。
すると鋭く細かい振動音と共に尋常ならざる速度で二人の元にムスカが飛来。
凶悪で刺々しい外見の大型犬サイズの巨大な蝿が二人に恭しく頭を下げる。
「お疲れ様です御二方。何か御用ですか?」
「ええ。他の二箇所の進捗はどう?」
「はい。ディズレー様、ユウナ様のペアが担当される南東は既に制圧完了に御座います。ディズレー様の《精神魔法》の魔術を用いた兵士達への説得とユウナ様の幸運が合わさり無血にて制されました」
「マジで? 確かに士気落ちてたろーけど、そんな上手くいく? ヤッバ」
「ロセッティ様、ティール様のペアが担当される北は未だ戦闘が続いております。しかしロセッティ様の《氷雪魔法》《病毒魔法》両面とティール様の《色彩魔法》による精神攻撃によりもう間も無く制圧完了になる見込みです」
「え。じゃあ何? こんな血みどろになって敵兵と戦ってんの私達だけっ!?」
ディズレーとユウナ、そしてロセッティとティールの四人は幅広い攻撃手段によって血を流さずとも敵の制圧が可能。
しかしヘリアーテとグラッドの二人は性質自体は真逆であるものの、どちらも直接攻撃に偏った能力であり四人のような精神的な攻めは不得手であった。
特にヘリアーテの戦法は攻撃一辺倒。攻撃方法にバリエーションはあれど、他の四人のように血を流さずに物事を解決する術は無い。
「ヘリアーテ不器用だからねー? 力加減も苦手だしー? ま。仕方ないんじゃなーい?」
「あ、ん、た他人事みたいにぃ……。散々私とおんなじようにやっといてよく言えるわねぇっ!?」
「いやいやっ! 僕はホラ、やろうと思えば別に出来るし? 背後から殴って昏倒させるとか毒で身体マヒらせるとかね。でもヘリアーテは──」
「あ゛ぁぁもう分かったわよっ!! すいませんねぇ不器用な女でねぇえっ!? 悪ぅございますねぇぇえっ!?」
ズイっとグラッドに笑顔でヘリアーテが詰め寄り、グラッドが「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ……」と冷や汗を薄く浮かべながら宥める。
「と、取りあえずさっ! 僕等とディズレー達は先にトールキンの霊樹門前に集合しよーよっ! ムスカにはその事を四人に連絡して、城下町の監視には手筈通りムスカの眷族づてでガーベラ様に来てもらおうっ! うんっ!!」
「……」
「いやーあはは。じ、ジト目も可愛いねーヘリアーテはー。あはは、はは」
「…………はぁ。もういいわよ。──んじゃムスカ。さっきコイツが言った通り四人に集合と、ガーベラ様にコチラに来て頂く旨をお伝えして」
呆れ顔でグラッドから視線を離したヘリアーテはムスカに向き直り、グラッドが口にしたものをそのまま伝える。
それをムスカが「畏まりました」と短く了承しながら再び頭を下げ、来た際と同じ爆音と速度でその場から飛び去った。
「あはは。相変わらずキミはガーベラ様に対しては謙るよねー」
「……アンタいい加減にしないとマジではっ倒すわよ?」
「あ。ごめんなさい」
声音に本物の怒気を感じ取りグラッドが素直に謝り、こういう本気のスレスレを見極めるのだけは上手いとヘリアーテが忌々し気に流し目に彼を睥睨して二度目の嘆息を吐く。
「はぁ……。次言ったらボスとアンタの部下のキャサリンにチクるかんね?」
「は、はいー……」
「じゃあ血で汚れて気持ち悪いから《水魔法》で水、出して。そしたら許したげる」
「え」
「ほら早く。みんな待たせちゃうわよ」
「あ。はい……」
そそくさと低姿勢でグラッドが魔法で水を出し、それを使って手や顔に付いた血を拭う。
そして遠目に見えるトールキンを見遣り、その黄金に輝く樹葉を眺める。
今頃はその見詰める先──トールキンの皇城区画にクラウンが到着している頃合いだろう。
アールヴの女皇帝であり終戦の要であるユーリの強さ、能力は未知数。
流石に全力のクラウンを相手になど出来はしない事はヘリアーテとて半ば確信してはいる。如何一国の主といえど、必ずしも強いわけではないし、今のクラウンの実力は国どころか世界屈指の強者にまで成長していた。
が、それを誰よりも理解している筈の当のクラウン本人が一縷の油断も無く警戒している……。
その一点にのみ、彼女は不安を覚えていた。
(……まさか負けたりしないわよね? あんだけ散々暗躍して、こんだけ色々備えてんのにアンタが負けたら意味無いんだからね)
そう内心で呟きながら思わず眉間にシワが寄る。
漠然とした不安を募らせながら……。
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……どれだけの近衛兵を屠っただろう。
百は越えたか? 私が知る限り、もうそろそろ底を尽く筈だ。
下手な邪魔をされぬよう丁寧に丁寧に潰してはいたが、正直なところ、これ以上の消耗はなるべく避けたい。
体力や魔力は問題無い。スキルで強化可能であるし、ポーション類も潤沢に用意している。だが、精神的な疲労……。コレばかりは今の私ではかなり難しい。
《疲労耐性》のスキルはあくまでも肉体的な疲労の耐性にのみ権能が働く。精神的な疲労の耐性となると《苦痛耐性》……。何の因果か、これだけスキルを集めているにも関わらず《苦痛耐性・小》しか手に入れていない。これでは耐えられるのは簡単なストレス程度……。これでは今の魂の負担までは効果が及ばない。
《精神魔法》で自身の精神に干渉しなんとか誤魔化してはいるが、こんな落ち着かん場では付け焼き刃がいい所だ。その場凌ぎでしかない。
スキル構成の切り替え……。まさかここまで負担が来るとは想定外だ。
これは早急にユーリから〝進化の元〟を奪い、我が身を新たな領域に改良せねば……。最悪の場合、精神と魂の両面から瓦解しかねん。
最後の大詰めなのだ。しくじるわけにはいかん。
──皇城内を練り歩き、最後に訪れたのは勿論、謁見の間。
この先に、奴は居るだろう。
巨大な両開きの扉に手を掛け、押し開ける。
大きさの割に軽量の扉は軽快に動き、物音一つ立てずに開け放たれた。
「な……」
謁見の間、その最奥。
そこに在る玉座には、本来座っている筈のユーリではなく、一人の見知ったエルフの女性が項垂れた様子で鎮座していた。それは──
「……ハンナ」
私の人生の大半を影ながら支え、我がキャッツ家の元メイド長にしてユーリが送り込んだ工作員、その副隊長を務めた女性エルフ──ハンナであった。




