第九章:第二次人森戦争・後編-24
「ぐぅっ!?」
「そらどしたァァっ!! 腰が入ってねェぞ腰がァァっ!!」
僕は今、大盾を全身で支えながら重たい攻撃を耐えている。
と言ってももちろん敵と戦っているわけじゃない。
今から三日前──主治医のダミアン先生の伝手を頼って紹介してもらった元前衛部隊の隊長であるフューリー卿の師事の元、大盾の扱いを学んでいるのだ。
「そらもう一発行くぞォっ!? 体の芯を意識しろ芯をっ!!」
「は、はいっ!!」
──まあ、学んでいるって言うと聞こえは良いかもしれない……。実際は殆どがこうして体に直接叩き込む形のスパルタな荒業だ。
一応紹介してもらった時には僕が数ヶ月に及ぶ病床期間からの病み上がりというのは説明しているし、ダミアン先生が直接「無茶は絶対にさせるな」と釘を刺してもらっていたはずなんだけどな……。
……いやっ! 弱音なんか吐いていられないっ!
そもそも僕が頼んだんじゃないかっ! 「一週間で出来るだけ腕を上げたい」ってっ!! そりゃこれだけ厳しくもなるってっ!!
──って自己暗示を、僕は何回繰り返しただろうか?
「あ゛ぁ? 集中しろってんだバカヤロウがッ!!」
「がぁっ!?」
余計なことを散々考えていたせいか、僕はフューリー卿による強烈な槌矛の一撃に耐え切れずバランスを崩し、その場で倒れ込んでしまう。
が、僕も伊達に訓練させてもらってないっ!
「……ほう。防御姿勢への移行が昨日よりスムーズじゃねぇか。何も身に付いてねぇわけじゃねぇらしい」
僕が咄嗟に取った防御姿勢というのは、万が一防御が崩されて倒れてしまった場合、大盾を宛ら亀の甲羅のようにして自身の身体に覆い被せるもので、こうする事で倒れながらでも敵からの追撃を防ぐ事が出来る。
大盾と地面に挟まれる形になるからあらゆる方向からの攻撃を防御出来る。防御力の面だけでいえばかなりのものだけど……。
「だが浅はかっ!! 敵が素直に防御されるワケではないぞっ!!」
そう言ってフューリー卿は《地魔法》の魔術を発動し──
「ってちょっ!?」
その瞬間、うつ伏せになっている僕の真下の地面が突如として隆起し、大盾を背負ったまま今度は仰向けになってしまう。
マズイっ! 反応が遅れたせいで背中の大盾を構えられなかったっ! このままじゃ間に合──
「せいっ!!」
「──っ!?」
……フューリー卿の槌矛が、僕の目の前まで迫り、触れるか触れないかの瀬戸際で止まる。
「……ふんっ」
鼻を鳴らした彼が槌矛を僕の眼前から引き上げると、それと同時に僕の全身から一気に冷や汗が滲み出し、遅れて心臓の鼓動が爆音爆速で脈打つ。
血の気が引くってこういう事を言うんだなって、冷や汗と鼓動に反して妙に冷静な頭でそんな事を考える。
「基礎は出来てきたが応用がなってねェ。まあ、短期間でここまで出来んなら、才能が無ェわけでもねェらしい」
フューリー卿はそんな事を口にしながら徐に訓練場の端に歩き出すと、そこに設置されているベンチに座りタバコという嗜好品を口に咥え、先端に火を着ける。
「ふぅーー……。ハァーー……」
「……それ、何が良いんですか?」
「あぁ?」
「いえ……。そんな健康に悪い煙なんか吸って何が良いのかなって……」
葉巻や煙管は口の中で煙を楽しむ口腔喫煙ってものらしいからまだ理解も出来るけど、フューリー卿が咥えてる紙巻きタバコは最近獣人族の国であるシュターデル複獣合衆国で開発されたっていう肺に煙を吸い込む肺喫煙って物だと坊ちゃんから聞いた。
どちらにしろ煙からの悪影響はあるらしいけど、もちろん肺喫煙の紙巻きタバコの方が健康には悪い。値段もまだ開発されたばかりだから葉巻とそんなに変わらないし。何でわざわざ健康に悪い方を選ぶんだろう?
──因みに坊ちゃんは前世でよく煙管を嗜んでいたらしい。坊ちゃん曰く──
『煙管は便利だぞ? 器具さえ揃えれば葉を買うだけで済むし貫禄も増す。そして何より、いざ外敵からの奇襲暗殺に際して充分に牽制、撃退可能な暗器にもなるからな』
──と、いう事みたいだ。戦争が終わって時間に余裕が出来たらノーマンさんに煙管を作れるか頼むって言ってたけど……。それってもう嗜好品じゃなくて武器としてだよなって心の中で思ったけか。
「……健康に悪いからいいんだよ」
「はい?」
「この……なんてェの? 肺に入った煙が身体にじんわり染みて、全身に満足感が広がんだ。葉巻なんかじゃ味わえねェ代物よう」
「……聞いただけで健康に悪そうです」
「だからそう言ってんだろ。──ってかテメェいつまで寝てんださっさと起きろ」
「は、はい」
タバコを咥え妙に雰囲気が増したフューリー卿に言われるがまま僕は身体を起こし、重たい大盾を背負い直して彼の元に歩み寄る。
「……さっきも言ったが基礎はもう充分だろう。後は臨機応変な対応とその応用。それから単純な筋力の増量が目下の課題だな」
「はい。精進します」
「……にしてもテメェ、その歳でよくもまぁ俺のシゴキに文句や愚痴一つ言わねェで耐えてんな」
フューリー卿が早速一本目のタバコを吸い終え、それを足元に落としてから火を踏み消す。そしてまた懐から一本取り出して手早く火を点し、改めて咥えた。
「最初ダミアン先生に頼まれた時はガキのお守りなんざ御免だって思ってたが、想像より面倒無くて一安心だぜ」
「改めて、僕みたいな子供に時間を割いていただいて、ありがとうございます」
「それはもういいって何回目だ、ったく……。俺はただ命の恩人だったダミアン先生に借りを返してェってのと、テメェの主人とお近づきになりてェって下心があるだけだよ。んな一々畏まんな」
そう言ってフューリー卿は渋く堀の深い表情を少しだけ崩しながら手をひらひらと振る。
……この人、本当に正直な人だな。僕の他人の嘘を見抜くスキル《真実の晴眼》で見てみても一つも嘘を吐いてない。
別にダミアン先生への恩返しの事を疑ってたわけじゃないけど、坊ちゃんと懇意になりたいって理由付けまで本気だとは思ってなかった。
彼はもう兵役を退いてから日が長い。今は当時の同僚の誘いで賭場の警備隊長をしてるって話だけど、そんな人が何で坊ちゃんと知り合いたいんだろう?
よく分からないなぁ……。まあ、坊ちゃんは気に入りそうな人ではあるけど。
「──つーかテメェさっきから何突っ立ってんだ? 休憩だきゅーけー。さっさとそんな大盾置いて身体休めろバカヤロウ」
「え。あ、はい」
フューリー卿に言われ僕もベンチに座る。
そしてベンチ傍に置いていたカバンから、以前坊ちゃんから頂いた《保温》のスキルが封じられた水筒を取り出し、一緒に取り出した木製カップに坊ちゃんから教わっていた手製ドリンクを注いで口を付ける。
坊ちゃん曰くハイポトニック飲料というもので、運動後の水分補給には最適らしい。
長い時間眠っていたからもしかして忘れてるんじゃないかって心配だったけど、ちゃんと覚えてたみたいで良かった。味も口当たりもバッチリだ。
「あ。フューリー卿も飲まれます?」
「……いや。いらねぇ」
彼だって動いていたから喉が渇いていると思って訊いたんだけど……。
「中身アレだろォ? 初日に飲ませてくれた変な味のアレ。タバコに合わねェんだよな味。酒なら大歓迎だけどな?」
と、何やら期待の籠った目で僕を見てくるけど、未成年の従者風情がそんなもの用意出来るわけないって……。
「ありませんよ」
「はは。だよなァ」
うーん。でもアレだよね。
これだけお世話になってるんだから、何かお礼をしたいっていう気持ちはある。
それにこの事を坊ちゃんが知ったら、多分普通にお礼を彼に贈るだろうから──
「でも僕から坊ちゃんに言って、何か用意してもらいますよ」
「お。そいつァ、マジか?」
「はい。まあ僕が何か言わなくても用意して下さるでしょうけどね。あの方は借りはなるべく早く返す人ですから」
なんなら坊ちゃん、この人をいつか興すギルドに登用したいとか言いそうだし。それが無いにしても、僕なりに人脈広げるのは悪い事じゃないかもだしね。
「ははっ! そいつァ良い事聞いたなァ。約束しろよォ?」
「はい。約束します。あ、一応何か希望があるなら考えておいて下さい。無理のない範囲でなら、僕から伝えるので」
「おう。──っし。ヤル気出てきた事だし、そろそろ再開すっぞ。ほら立て立てっ!!」
二本目のタバコを吸い終えたフューリー卿は、その吸い殻を再び地面に落としてから立ち上がって踏み消し、気合い十分に槌矛を軽く素振りする。
彼もいつも以上にヤル気になってくれたようだし、僕も気合いを入れ直そう。最低限フューリー卿の一撃を耐え抜けるだけの技術は身に付けないとな。
「っと、そうだそうだ……」
水筒やカップをしまい、大盾を持とうとしたタイミングで運良く思い出した僕はフューリー卿が捨てっぱなしのタバコの吸い殻二つを回収し、カバンのゴミ用の小袋に放る。
別に放っておいても用務員の人が掃除してくれるだろうけど、知ってて放置するのは気持ち悪いしね。それに──
『嗜好品は後々手広くやるにあたり研究したい。手に入れられる機会があるなら見逃すなよ?』
ちょっと貧乏臭いけど、坊ちゃんなら許して下さるでしょう。一石二鳥だね。
「おぉい。何やってんだ早く来いっ!!」
「はいっ! すみませんっ!!」
僕はゴミ用カバンを仕舞い慌ててフューリー卿の元へ向かう。
待ってて下さい坊ちゃん。次会う時の僕は、眠った前より何倍も役に立つ側付きになってみせますからっ!!
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私達は今、トールキン内に複数設置されている昇降蜘蛛の一つに乗っている。
トールキンは広大だ。街が丸々一つ入ってしまう程に広く、そしてそれが何階層かに分かれた構造になっている。
故に先程私達が居た第一居住区から一つ上の第一商業区に行く為にはこのトールキンを登る必要が出てくる。
しかし軍に配備されるような上級兵士ならば兎も角、一兵卒程度の実力者や一般市民に一階層だけで何十メートルもある区画を自力で登るのは不可能に近い。
階段も存在するにはするが、こっちは常用というより非常階段の傾向が強い。何せ一階層昇降するのに数百段。買い物一つする為にその数百段を往復しようなんていうのはとてもではないが現実的ではない。
そこで何十メートルの昇降を簡易的で短時間に、且つ複数人をまとめて行う事が出来る手段が発明された。それが大型蜘蛛魔物──「メガロスパイダー」を用いた昇降機である。
本来魔物を使役するには、その魔物と〝魂の契約〟を交わし、魂での繋がりを結んで主従関係を築き使い魔とする必要がある。
だがこの昇降蜘蛛として使われているメガロスパイダーは誰かと契約を結んでいるわけではない。
アールヴ国内に存在する全ての蜘蛛型の魔物は、トールキンの守護者にしてアールヴの守り神でもある聖獣・シェロブの眷属として帰化しており、魔物でありながらエルフ族に対し家畜並みの従順さをみせている。
それ故に蜘蛛達はアールヴの様々な場面でエルフ族の助けになっており、移動用の蜘蛛車や戦時に活躍する騎乗蜘蛛。果てには郵便や配達、中には愛玩用の蜘蛛まで多岐にわたっているのだ。
このトールキンの昇降用として活用されているメガロスパイダーもそんな従順な蜘蛛型魔物の一種。
自身の身体に取り付けられた昇降台の上から特定の波長を発する鈴を鳴らす事で蜘蛛が反応。波長に応じたし階層間を昇降する事が可能となっている。
「ではこの昇降蜘蛛で一気に最上階層の皇城区画へ?」
「いや。皇城区画は特別でな。この昇降蜘蛛で行ける最上階層の行政区画から審査関門を抜けそこの昇降蜘蛛に乗り、一つ上の貴族区画で更にもう一つ審査関門を抜けてまた昇降蜘蛛に乗って漸く辿り着ける」
「……中々に厳重ですね。当然ではありますが」
「確かに厳重ではあるが私達には関係無い。手続き審査など全て力業で突破してしまえばいい。これは戦争だからな」
まあ、その力業も順調に通じるかは怪しいがな。
私が全てのスキルを十全に使えるならばこんな順路、本来なら五分と掛からないだろう。何なら先程の門番や警備部門だってあんな手間を掛けて倒す必要は無かった。
西側広域砦沿いの二十箇所以上あった拠点を殲滅したように、トールキンを蹂躙しユーリの元まで辿り着く事が出来たかもしれない。
しかし今の私があんなマネをすれば魂が耐えられず、自滅する。
あの時それが出来たのは、エルダールから私にスキルが流入した際に彼から漏れ出た魔力の残滓があった故……。英雄という竜をも屠れる実力者の濃密で膨大な魔力の一部が、一時的にとはいえ魔力的に繋がった私にスキル通して流れ込み、その上澄みを利用する事で短時間、魂を刺激する事無くスキルを行使出来た。
だがその魔力の残滓や上澄みも、既に私に溶け込み馴染んでしまっている。あの時のような変則的な使い方はもう出来ない。
魂の限界を見極めつつ、臨機応変にスキル構成を変えるという何とも情け無い戦法で地道にトールキンを登るしかないのだ。
……まあ、ロリーナとこうして二人で戦えるといのも悪い状況ではないがな。
「……所でクラウンさん」
「む? 何だ?」
「先程から食べている、それは?」
「これか? サンドイッチだ」
「……随分と変わった形ですね」
うむ。彼女にはサンドイッチと言ったが、私が食べているのは前世で俗に言うハンバーガーである。
厳密には一応ハンバーガーもサンドイッチの一種ではあるから嘘ではない。が、この世界ではどうもハンバーガーに類似するものは普及して居ないらしく、ハンバーガーと言っても通じはしない。
その内機会を設けて存在を世間に広め、レシピの利権で小銭を稼ぐ料理候補の一つではあるがな。
今は画策しているのは、戦勝後の凱旋の祭りにでも幾つか屋台を設営し知名度を上げられればと思っている。勿論、ハンバーガー以外の中毒性のある料理も含めて、だ。
このハンバーガーはその試作の一つ。サンドイッチの親戚なだけあり材料を揃えやすくて調理にも手間暇が掛からず、且つ片手で食べられる為にこうして戦時中の食事にも適している……。
やはり作って正解だったな。
「凄いですね。私では今そのボリュームの食事は厳しいです」
「ふふ。この量はあくまで私用だよ。気を抜くと《暴食》が訴えてくるのでな。これくらいしっかり間食していないと満足せんのだ」
「なるほど……」
「ほら。君も食べないまでも今の内に補給はしなさい。この昇降蜘蛛での最上階層である行政区画まではもう暫く掛かるからな」
「はい。分かりました」
私はポケットディメンションを開き、そこから一つの水筒を取り出してロリーナに渡す。中身は手製のハイポトニック飲料で、砂糖と塩とレモン果汁で作れる簡単なもの。
これもその内レシピの利権で、と考えている。
味が特別良いわけではないからハンバーガーのように最初は期待出来るものにはならないだろうが、徐々に兵士や剣術団、冒険者や大工などの屋内外で肉体を酷使し、炎天下での行動を主にしている人々に浸透するだろう。
そうなればこれも中々に稼いでくれると踏んでいる。
私がギルドを立ち上げた後もカネは湯水の如く使い込む予定だからな。儲ける手段は一切自重しない。
「あの、クラウンさん」
「む?」
「クラウンさんの設立するギルドは、確か珠玉七貴族が手に余ると判断した仕事を請け負う元請けギルド……ですよね?」
「ああそうだな。それがどうかしたか?」
「いえその……。どこまで手を広げるのかな、と」
「どこまで、か……」
「勿論、珠玉七貴族それぞれの業務に対応出来るだけ広げる事は理解しています。その為に数多の人材も欲している事も……。ですがそれは例えクラウンさんでも相当の歳月を要する筈です。違いますか?」
ふむ。確かに彼女の言う通りだ。
幾ら私や部下達の能力が優れていようと、手を回せる業務には限界がある。
だからこそ、私が集める人材は専門性に特化した才能溢れる者達で固め、珠玉七貴族の多様な業務を十全に熟せるようなギルド編成にしたいのだ。
だが私が求める水準の才気ある者達がそう簡単に見つかるなどと思ってはいない。世界中を十数年単位で探し回る必要が出て来るだろうな。
「……いや。違わん。私が妥協せん限り、何年と時間を要するだろう。暫くはゆっくりする暇も無いだろうな」
「やはり、そう、ですよね……」
そう呟いてロリーナから何処となく活気が無くなり、僅かに表情に影が差す。
いや、何故ここでそんな露骨に落ち込む?
私はロリーナとの間で認識の差異が起こらないよう、彼女にギルド関連の計画は詳らかにしている。
彼女に嘘や隠し事などは一つも吐いていないし、この話をした際、彼女もこの事は承知していた筈……。一体どうしたのだ?
……。
……まさか──
「もしや君」
「──っ!」
「気にして、くれているのか? 私達二人の時間が、確保出来るのかどうかを……」
「……」
「……ロリーナ」
私は食べ掛けのハンバーガーを仕舞い、軽く手を拭いてから彼女の肩に触れ、優しく引き寄せる。
「──っ」
「ハッキリ言っておくがな。私は何より君との事を優先する。君以上に優先する事などありはしない」
「で、ですがそれではクラウンさんの目指すものから遠ざかって……」
「何を言う。私だぞ? その程度何の障害にもならん」
「で、ですが……」
「寧ろ君との触れ合いが無くなれば、私の気力も半減以下だ。そっちの方がかえって他の業務に支障をきたしてしまう」
「クラ、ウンさん……」
……この際、今の内に約束してしまうか。
これは今後の予定を詰め込み過ぎて不安にさせてしまった私の配慮不足だ。
この世界の常識から見て、私達の年齢ならば既に婚約者ないしその候補者探しに奔走する。私達のように既に好き合っている関係ならば尚更だろう。
にも関わらず私は数年先まで予定を詰め込み、私達の関係性の進展に関しては明確にしていなかった節がある……。不安になって当然だ。
まったく……。まともな純愛などした事がないからと現状に甘えてはいかんな。
「ロリーナ」
「は、はいっ」
「この戦争が終わったら話がある」
「は、なし……ですか?」
「ああ。私達二人の今後に関する大事な話だ。タイミングを見計らって私から誘うから、どうか心の準備をしていて欲しい」
「……はい」
はぁ。最早プロポーズに近い気がするが、今更か……む?
気が付くと、乗り込んでいた昇降蜘蛛の僅かな振動がゆったりと消えていき、間も無くして完全に制止する。
それと同時に何らかのカラクリが連鎖起動し、私達の前のドアが一人でに開いた。
ドアの先には中央に噴水が設置された広場。今までの木造中心の街並みとは異なり、まるで石造りのように徹底的に磨かれ加工された木材の建造物が散見される。
そしてそんな広場……。噴水の手前に設置された高さ一メートル程の台の上には、一人の艶かしい衣装を身に纏う踊り子の姿があった。
「『はんっ! 何よ。下の兵士から必死な声で連絡来たからどんな奴が来たのかと思えば……。敵地でイチャイチャかます大馬鹿なガキじゃないのよっ!!』」
……反論の余地もないな。




