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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第三部:強欲青年は嗤って戦地を闊歩する
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第九章:第二次人森戦争・後編-22

Twitterにて報告していましたが、一旦全没にした為に遅くなってしまいました。申し訳ありません。


まあ、アレです。やりたい事と書くべき事が行方不明になった結果、描写しなくていい場面を描いていたっていうバカをやったワケですね。私が全没にする時は、いつも大体そんな理由です。


やりたい事だけ書いてきてますけど、それだけじゃやっぱり面白くなりませんからね。たまには見つめ直して振り返る事も必要ですね、はい。

 


「……」


 僕は今、二つの事に驚いている。


 一つはやはり坊ちゃんが僕に贈って下さった手帳について。


 初見で内容をザッと流し読みした段階でもすんなり頭に入って来ると感じたけど、改めてじっくりと目を通すとそれを強く実感した。


 僕が目覚めて一週間が経ったけれど、もう既にあの手帳の内容が全て頭に入っている。最早何ページに何が書かれていたか訊かれても即答出来る自信がある程だ。


 そして勿論、坊ちゃんが言っていたように手帳の内容はスキルの《漂白》を使って白紙にしてる。これで内容を全て把握しているのは坊ちゃんが他の人に見せてないか保管してた主治医が盗み見て無い限り、坊ちゃんと僕だけになっていると思う。


 まあ多分、坊ちゃんならロリーナ様くらいには見せてるかもしれないし、主治医に関しても何かしらの手段で覗かせないようにしてるかもしれないから、僕の心配は杞憂でいいんじゃないかな。……ちょっと暢気かもしれないけど。


 二つ目は僕自身の事。主に身体についてだ。


 数ヶ月という昏睡状態から目覚めたばかりの僕の身体はかなり弱っていて、自力でベッドから起き上がる事すら困難だった。


 あの時はリハビリにどれだけ掛かるのか判らず、例の時期に間に合わないんじゃないかってハラハラしてたけど、全然、そんな心配する必要は無かった。


 何故ならリハビリを始めて二日目には満足に歩行出来るまでに筋力が戻り、一週間が経った今では激しい運動にすら耐えられるくらいに回復していたからだ。


 主治医のダミアン先生も「どういう事だ」とか「有り得ない」とか言って僕と僕のカルテを交互に目移りさせてた。


 ──ダミアン先生の話だと、僕が(かか)った「循環魔力乱走症」って症状は体内の魔力の流れが乱れてしまい、肉体に多大な負担が掛かるものだったらしい。


 しかも僕の身体はどういうわけか常人の三分の一程度の魔力循環力しか無く、日常生活を送る分ならまだしも、多量に魔力を消費し扱う全ての行動が満足に機能しないような欠陥があるって話だった。


 そんな欠陥がある僕が「循環魔力乱走症」なんてピンポイントに相性の悪い症状になったものだから余計に昏睡状態が数ヶ月と長くなってしまったという話。


 しかもこれでもダミアン先生が調合した負担が掛かるけど回復が早まる薬を投薬して貰ってたにも関わらず、だ。どれだけ自分が重症だったのか、その時聞いて始めて実感した。


 まあ、坊ちゃんを守って罹った症状だから後悔は無いけど、流石に数ヶ月だからなぁ……。もう少し乱暴でもいいからもっと早く目覚めたかったんだけど、意思の疎通が取れない僕にそれは出来なかったんだろうな。手段があったなら、の話だけど。


 ──で、そんな最悪と最悪が掛け合わさったような重症患者だった僕の事だから、ダミアン先生としては長期的なリハビリを視野に入れて色々と準備してくれてたらしいんだけど……。


「えーっとアレの申請しないとだからあの書類とアレをぉ……って今戦時中だけど通るかな? まあいい用意出来るだけして後は──」


 ──と、今はリハビリの予定とか全部前倒して、ダンベルで腕力を戻してる僕の後ろで今は精密検査の為の準備を進めてる。


 体質の欠陥と覚醒後の回復力がどうしても辻褄が合わなくて僕の身体を調べたいらしい。


 最終的には坊ちゃんの許可が必要だし費用もそれなりに掛かるらしいけど、ダミアン先生に「幾らか負担するから」と頭を下げられてしまった。


 まあ、坊ちゃんなら多分知りたがるだろうし、僕も僕自身の体の事を知れるなら知りたい。それにしてもあのお願いして来た時のダミアン先生の顔、医者というよりも研究者のそれだったな……。


 因みに精密検査というのは珠玉七貴族の一人であり〝医療〟を司っているエメリーネル公爵家の現当主、サイファー・ソウ・エメリーネル公が自ら検査する診療の事。


 詳細は知られてないけど、どうやらエメリーネル家に受け継がれてる特別なスキルでどんな医師の技術や知識を凌ぐ診療が出来るらしい。多分坊ちゃんとしてはこっちに興味が向くかな?


 ──まあ、そんなこんなで現在僕は色々と特殊な状況に居る。


 分からない事だらけだし正直自分の身体に何が起きてるのか不明のままは怖くはあるけど、回復が早い事は本当にありがたい。


 この調子ならエルフ族の国であるアールヴに行った降伏勧告の書状を持った使者が戻る頃──大体今から一週間後までには身体は回復し切り、何だったら〝あの瞬間〟を防ぐ訓練も出来るかもしれない。


「……ねぇ、マルガレン君?」


「……? はい、何ですか?」


 色々考えながらリハビリしていた僕に、トレーナーとして付いていてくれている看護師さんが少し心配そうに声を掛けて来た。


 昨日も少しオーバーワークになっちゃったからまたそれかな? と思って時計をチラ見するも、時間としてはそうでもない。


 じゃあ一体なんだろうか?


「本当にいいの? ご主人に君が起きた事を連絡しないで……」


 ああ、その事か。


 確かに僕としても真っ先に報告したい所だけど──


「前にも言いましたが、坊ちゃんは今最前線で頑張っておられます。坊ちゃんは凄い人ですけど、緊張感と集中力を僕の報告で乱してしまうのは本意じゃありません。坊ちゃんには全力で戦争を制してもらいたいんです」


 坊ちゃんからの手帳には、戦争が始まる直前までの情報しか書かれていなかった。


 だから戦争が始まってからの出来事は僕が接触出来る人から教えて貰う形くらいでしか手に入らないけれど、それでも坊ちゃんやガーベラお嬢様の事、それから僕が眠ってから出来たっていう坊ちゃんの部下達の噂話は色々と知る事が出来た。


 流石に学院の診療所であるここに流れて来る話は全然最新なんかじゃないし、内容によってはどう考えても眉唾物なものだってある。


 なんだよ「キャッツ家の子が敵を二万人討ち取った」って……。そりゃ坊ちゃんは強いけど、いくらなんでも二万人は盛り過ぎじゃないかな。


 流石に坊ちゃんでもそんな人数は無理だって。……無理だよね?


 ま、まぁそれはともかく、そんな噂話から自分なりに事実だと思うものを選別して、今は割と戦争の事もある程度理解出来ている。


 ティリーザラ王国はアールヴを侵略や支配ではなく、あくまで和平を目的として戦争に勝利しようとしている事。


 現状はティリーザラ王国がかなり優勢で、余程の事が無い限り王国の勝利に揺るぎはない事。


 坊ちゃんとガーベラお嬢様の活躍によりその優勢が築かれ、坊ちゃんに至ってはアールヴの英雄をすら討伐した事。


 今、そんな圧倒的不利のアールヴに対して降伏勧告の書状を使者が届けている事……。


 普通ならそんな市井(しせい)にすら伝わる戦況差で勧告を反故にする王なんていない。そんな事、坊ちゃんの下で日々学んでた子供でしかない僕でも分かる。


 でも、僕は知ってる。


 坊ちゃんからの手帳に書かれた女皇帝ユーリなら降伏勧告を一蹴して継戦を望み、復讐で国を私物化する事を。


 だからこそ僕は坊ちゃんを邪魔したくないんだ。


 投げやりで、捨て身で、何一つ顧みずにただ復讐の為だけに国を使い潰そうとしてる女皇帝ユーリは油断出来ない。


 きっと女皇帝って立場じゃ出来なかった非情で非道な行為も平気でやってくる。()わばユーリのある種の本領発揮だ。


 多分坊ちゃんとしては二回目の大敵戦になる。そんな大事な戦いの直前に僕の目が覚めた云々はノイズになりかねない。


 もしかしたら安心が優って逆に良い結果になるかもしれないけど、万が一を考えるとやっぱり黙ったままの方が良いと思う。


 なら僕は坊ちゃんに黙ったまま、坊ちゃんとロリーナ様が辿るかもしれないあの未来を潰す。


 僕が……僕にしか出来ない事だ。


「そんな事より看護師さん。リハビリはもう大丈夫だと思うんですけど、どうですか?」


「え。え、えぇそうね……。信じられない早さだけど、多分もう日常生活を送るだけなら寧ろ健康体って感じだし……」


「なら僕、体を鍛えたいです」


「は、え?」


「誰か紹介して下さいませんか? 出来ればそう……。大盾の扱いが上手い人が良いです」


「きゅ、急にそんな事言われても……。私別に顔が広いわけじゃないし……。あ、でもダミアン先生なら……」


「せ、先生ですかっ!? 今もそこで精密検査の費用をどうするか頭抱えてる、ダミアン先生?」


「う、うん……。あの人、確か前の戦争の時に衛生兵してたって話だから……。大盾なんて怪我しやすい前衛職だし、もしかしたら一人くらい知り合いになってるかも」


 な、なるほど……。ちょっと頼りない感じだけど、今は贅沢な事は言ってられないしな。


 仮に知らなくても、ダミアン先生なら兵役していた人くらいは知ってるかもしれないし、その人から大盾の使い手に辿れるかもしれない。


 付け焼き刃になるかもしれないし、多分気休め程度にしかならないけど、それでもギリギリまで力と技術を磨こう。


 僕が絶対、あんな未来に辿り着かせたりしない。


 絶対にだ。


 __

 ____

 ______


 目の前に新たな防壁が迫る。


 霊樹トールキンと、その周囲に築かれた所謂(いわゆる)城下町を取り囲むようにして(そび)えるそれは、西側広域砦の防壁程でないにしろ中々の頑強さを誇っていた。


 だがしかし、西側広域砦とは大きな違いが存在する。


 それは──


「『な、なんだッ!?』」


「『止まれェェッ!! 止まらなければ──』」


 それは出入りの為の、大きな門扉がある事だ。


「『死にたくなければ必死で避けるんだな』」


 そう門扉の両脇に立つ門番に一応の忠告をしながら騎槍(ランス)を構え、竣驪(しゅんれい)に聖鞭・シンゴルを振るって更なる強化を図る。


 そして極限まで突進力を増した私達はそのままノンストップで門扉へ突撃。


 突撃した衝撃により金属と木材が使われた門扉はいとも容易く砕け散り、忠告をした門番二人もそれに巻き込まれる形で吹き飛んでいく。


 門扉の破壊と城下町への進入に成功した私達はそこで一度速度を落とし、門扉が爆散した音によって家々からエルフ族が顔を出し衆人環視が集まる中、部下達へと振り返る。


「諸君っ! 各自作戦を実行っ! 城下町を制圧、無力化しなさいっ!」


「「「「了解っ!!」」」」


 部下達の返事を聞き、三匹の騎乗蜘蛛がそれぞれ散開。城下町に駐留する軍隊や衛兵達の制圧に向かう。


 圧倒的な実力差を示す事で可能な限りの非殺傷を心掛けさせているが、場合によっては容赦無く手を下すよう言い渡している。


 散々私の教育を受けているのだ。愚かな選択はせんだろう。


 制圧完了後は後方からの部隊に城下町を任せ私達と同じくトールキンに突入し、居住区や商業区等の各区の制圧と〝例の作戦〟の下準備だ。


「ではロリーナ、征くぞ」


「はい」


 私は再び竣驪(しゅんれい)を走らせ、そのまま真っ直ぐトールキンを目指す。


 途中、警備兵等が通報を受けたのか私達の前に立ちはだかろうとしたが、たかが一兵卒程度の実力しかない兵など武器を構える必要も無し。


 竣驪(しゅんれい)の突破力を前に、皆(ことごと)くが枯葉が如く路端へと吹き飛んでいく。


 中には魔術を飛ばして来るものや弓矢を放つ者達も居たが、魔術も弓矢も、全て私が片手間に対処出来る程度。竣驪(しゅんれい)のスピードが落ちる要因にはなり得ない。


 そして数分後。霊樹トールキンの出入り口である霊樹門へと辿り着く。


 ここから先はエルフ族の約六割強が住まうアールヴの要所。戦場や城下町とは比較にならない戦力が(ひし)めいている。


 気を改めて引き締めねば最悪私ですら足元を掬われるだろう。


「『……城下町の騒ぎ、貴様等か。野蛮なる人族』」


「『見るに霊樹への進入を望んでいると見える』」


「『至極不遜なり』」


「『自らの血を地に吸わせたくなくば早々に去ね』」


 ……当然の話だが、霊樹門にも門番は存在する。


 しかも城下町の門番とは比ぶべくもない実力の持ち主。能力でいえば軍団長達にも引けを取らない戦力を有しているという。


 二人の門番は二人共に巨躯であり、その体格に見合うだけの大盾。そしてそれぞれに槌矛(メイス)と大斧を携えていた。


 だが、まあ──


「丁度良い」


「クラウンさん?」


「スキルの調整具合を確かめたかったんだ。一応ヘリアーテ達相手に軽いものは済ませているが、殺傷を伴うものは試せていなかったからな」


「お一人で相手を?」


「君は余計なチャチャが入らないよう竣驪(しゅんれい)と共に見張っていてくれ。何、そう時間は要さん」


 そう言って私とロリーナは竣驪(しゅんれい)の背から降り、二人が私から離れるのと同時に私一人、二人の門番へと歩み寄る。


「『……厳格で忠実』」


「『む?』」


「『何ぞ?』」


「『霊樹トールキンを守りし守護者であり、何百年と不審な輩を退き続けて来た「霊樹の番人」……。蟻一匹とて侵入を拒む歴戦の猛者……。素晴らしい限りだ』」


「『……何が言いたい』」


「『戯言もそこまで──』」


「『だが私は知っている』」


「『──ッ!?』」

「『──ッ!?』」


 両手を広げ《蒐集家の万物博物館(ワールドミュージアム)》を発動。


 私の両手に熱冷属性を司りし鉤爪──摂華列(せっかれつ)が装着される。


「『霊樹トールキンの居住区の広さ、商業区の豊かさ、地下に根ざす研究区の叡智、そして皇城の荘厳さと堅牢さを、私は知っているぞ』」


「『な、何を世迷言をっ!!』」


「『我等パクンルン家、アールヴ建国以前より代々霊樹トールキンの守護者也ッ!! 貴様如き薄汚き侵入を許した覚えなどないわッ!!』」


「『そう信じたければ信じていなさい。事実は変わらず、私という存在がそれを証明する。人族如きの進入を知らずに許していた、哀れで無能な門番が居るという、その事実と現実を』」


 摂華列(せっかれつ)を振るい、左右の爪からそれぞれ低密度の熱気と高密度の冷気を放出。辺り大気はそれによる寒暖差に晒され、その境界によって光が屈折していく。


 局所的で高密度の蜃気楼……。最早容易に私を捉える事は叶わない。


「『なっ!?』」


「『どうなっているっ!?』」


 二人には今頃、目の前の私が四方上下滅茶苦茶な姿や位置に置き換わって見えている事だろう。


 槌矛(メイス)を持った番人があらぬ方向に向かって跳び、居もしない私に向かって猛撃を振るっている。


「『あ、兄者落ち着けッ!! 無闇に動いては奴の思う壺──』」


「『お前は動かな過ぎだ。小心者め』」


 慌てふためく大斧の門番の背後に悠々と回った私は、奴が身に付ける重鎧の隙間に摂華列(せっかれつ)の爪を深く刺し入れる。


「『がはぁッ!?』」


「『むッ!? どうしたッ!! 何があったッ!!』」


 今更振り向いたとて遅い。最早奴の目には私どころか弟の姿すら──む?


「『ぐ、うごォォォァァァァッ!!』」


 身体の中を深く爪が貫いている筈の大斧の門番が何やら怒号のような雄叫びを上げると、大盾を投げ捨てながら摂華列(せっかれつ)を突き刺している私の腕を掴み、門番が冷や汗を流しながら口角を上げる。


「『ぐ、ふふ……。我等を舐めるなよ……卑怯者めが……』」


 ふむ。確かに舐めていたな。常人ならばこれだけ深々と刺さり内臓すら引き裂いている状況ならば気を失い、最悪そのままショック死だろうに。


 流石は門番なだけはあるな。根性も耐久力も普通ではない。それこそ軍団長並みだろう。


「『こ、のままぁ……。貴様の腕を、斬り落としてくれるわァァァァッ!!』」


 叫声と共に大斧を短く持ち替えると分厚い刃を下へ向け、今出せる全力で持って私の腕を切断しようと振り下ろした。


 だが、まあ──


「『なっ、にぃ……』」


 虚しい事に大斧の刃は私の腕の切断は叶わず、刃は夜翡翠(よるひすい)朔翡翠(さくひすい)の二重の防具により容易に阻まれ、伝わるのは僅かばかりの衝撃程度。


 切断どころか擦り傷一つ、私には着いていない。


「『判断が甘い。やはり彼等程ではないか』」


 腕でなく首を狙えば多少は結果が変わったかもしれんのにな。少々期待外れだな。まったく……。


「『焼かれ狂え』」


 摂華列(せっかれつ)に魔力を送り、深々と刺さったままの爪に数百度の高熱を発揮させる。


「『ぐ、ごあァァァァァァァァッ!!』」


 内臓が、脂肪が、筋肉が、骨が次々と焼け焦げていき、大斧の門番は絶叫を上げながらその象徴たる大斧を落とすと徐々に力が抜けて行く。


 そして事切れると同時に巨躯から来る全体重が私の腕に乗り、そのタイミングで摂華列(せっかれつ)を門番から引き抜いた。


「『どうしたっ!? 何があったッ!? 返事をしろ弟よォォォッ!!』」


 槌矛(メイス)の門番は悲鳴のような声で呻きながら自慢の槌矛(メイス)をあらぬ方向へ未だに全力で振るっている。


「……脳筋めが」


 私はゆっくり脳筋へと歩み寄り、奴の間合いのギリギリに立つ。


 目を血走らせ、顔を紅潮させ、額には青筋が浮いている。恐らく《狂暴化(バーサーク)》でも発動しているのだろう。本来ならこの暴走する兄を弟がサポートする形でコンビネーションを発揮するのだろうが……。


「哀れだな──」


 摂華列(せっかれつ)を構え、両爪に魔力を送り込む。


 爪には極低温。濃い冷気の靄が発生する程の低温が辺りに広がり、徐々に発生していた蜃気楼が薄れて行く。


「『ぬっ!? そォォこかァァァァッッ!!』」


 私の姿を漸く見付け、脳筋は槌矛(メイス)を大きく構え、全力で私の脳天目掛け振り下ろす。


 が、遅い。


「冷やすんだな。頭だけでなく、愚かで熱しやすいその全身諸共」


 冷気の両爪が、槌矛(メイス)の門番の胴へと交差する


 その瞬間、門番の重鎧は摂華列(せっかれつ)の冷気により急速に低温化。瞬く間に鎧全体が触れるのも苦痛な程に温度を下げていき、次第に門番の肉体までも波及した。


「『ぐ、が……』」


 侵食されるようにして冷気に侵される身体に抵抗する槌矛(メイス)の門番だが、神経すらその働きを止めては最早意思一つではどうにもならない。


 振り下ろされた槌矛(メイス)は結局私の頭上直前で静止し、目の前には憤怒の形相のまま体表と鎧に霜を下ろすエルフの氷像が出来上がっていた。


「……こんなものか」


 想像以上に呆気ない幕引きだったな。軍団長並みの戦闘力だと聞いていたが、とんだ期待外れだな。


 まあ一応は制限の試運転にはなったが、正直なところもう少し楽しみたかったんだがな。非常に残念だ。


「お疲れ様です。クラウンさん」


 戦闘が一段落し、邪魔が入らぬよう見張っていたロリーナと竣驪(しゅんれい)(おもむろ)に歩み寄って来る。


「まだ門番だ。本番はここからだぞ」


「はい。承知しています」


「結構。──では竣驪(しゅんれい)、君はここで待機。余計な敵兵が近付き次第打ちのめせ。良いな?」


「ヒィィンッ!!」


「宜しい。ではロリーナ、共に」


「はい」


 私は門番の持っていた二枚の大盾と槌矛(メイス)、大斧を回収してからロリーナと霊樹門を正眼に捉える。


 いよいよ始まるのだ。この戦争、その終幕劇が……。

因みに西側広域砦から霊樹トールキンまでの道中の妨害が無かったのか、という話ですが、


先行して各アールヴの町村に転移していった各部隊によってクラウン達に対する妨害が所ではなく、遊撃部隊が来た所で竣驪(しゅんれい)の豪進を妨げられるような実力者なんて居ません。皆が等しく枯れ枝が如く吹き飛んでいきました。

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