第九章:第二次人森戦争・後編-17
気付いたら500話突破……。
多分、1000話越えますね。完結までに……。
とはいえめでたい記念すべき話数ではあるので、何かやりたいですね。まあ何も決めていませんが……。
──メラスフェルラ・プリケット。それが彼女の本名らしい。
そして珠玉七貴族が〝翡翠〟傘下ギルドの一つ。罪人の処刑とその罪人から抽出したスキルをスクロールに封印する事を生業とするギルド「暗月の大蛇」のギルドマスターだと言う。
正直なところ処刑やらスキルの抽出やらが我が家の〝公安〟の業務からかけ離れている感じはするが、他に兼任出来る七貴族が居なかったのだろう。
処刑という点やそのギルドのギルドマスターがメルラであった点に関しても衝撃的な話ではあったが、まあ、裏稼業を担う家系の血縁者だからな。
国の最も血腥い仕事を熟すとなれば妥当なところだろう。信用や信頼という面でも、私個人としては納得がいく。
しかし成る程成る程……。幼少期に《解析鑑定》のスクロールを探した際、父上がかなり渋ったワケだ。
義姉であるメルラが苦手なのも本音だったのだろうが、本心ではまだ幼い私を裏稼業で最も血塗られた仕事を生業にしているギルドの長に、私を引き合わせたくなかったのだろう。父上はお人好しだからな。
ふふふ。どうりで私の《解析鑑定》が妨害されたわけだ。想像していたより、かなりの実力者だったようだ。世の中、中々どうして侮れん。
……いや、それにしてもだ。これでも私、身の回りの探れる情報は粗方収集した自負があったのだがな。
いやまあ、確かに。五つある〝翡翠〟傘下ギルドの内、後一つは何処をどう探しても見つからなかった。王都にあるキャッツ家の支部の秘匿記録室の中にも発見出来なかった為、一体どういう情報統制を敷いているんだと甚だ疑問ではあった。
しかし当時の私は他にもやらねばならない事が山積みであり、緊急性の低い事案にそこまで時間を割く事は出来ず、結果は先送り。
それに後々に裏稼業を引き継ぐ際、必ず五つの傘下ギルドのギルドマスターと対面する事になる。そう焦らなくとも、いずれ必ず知る事が出来るだろう。そう考えての事だ。
だがここに来て、まさかそんな正体不明の最後の傘下ギルドのギルドマスターが、あのメルラだったとは……。
が、いざその事実を理解すると納得出来る部分もある。
「成る程。だからメルラさんのお店には、あんな量のスクロールがあったのですね? それに珍しいスキルのスクロールも……」
メルラの営むスクロール屋のスクロールの量は、貿易都市であるカーネリアをはじめ、鉱山都市パージンや王都セルブのスクロール屋と比べても圧倒的に多かった。
流石に帝国の帝都に寄った際に訪れたスクロール屋には及ばなかったが、アレはそもそも店舗自体の大きさが違うからな。どうしようもない。
つまり私が言いたいのはだ。
あんな裏路地に店を構えているクセに潰れる気配が無く、また王都以上の品揃えを保っていた事にはちゃんとした理由があったのだ。
我が家の親戚だからと様々なコネを使って怠惰な経営をしていたわけではなかった……。私の頭の中にある大小無数の疑問の一つが解消され、少しだけスッキリした。
「まぁ〜あ? あの店に卸してるのって、他の一般的なスクロール屋に卸せないような「訳アリ品」なんだけどねぇ〜?」
「訳アリ、ですか?」
「うん。表に出せないようなスキルだったり、罪人の経歴とか身元が表に出せないようなヤツだったり、スキルの封印が不安定だったりねぇ〜」
「それでは、私が最初に貰った《解析鑑定》も?」
「まぁ〜、そんな感じ? 私の何代か前のギルドマスターが処理済みになっちゃった冤罪やら色んな事情で泣く泣く処刑した魔導士の……だったかな?」
……何だか聞くだけで胸焼けがしそうな話だな。
蓋し習得する際、エクストラスキルとはいえ意思を感じさせる程に抵抗されたからな。余程の高名な魔導士だったのだろう。
ある意味で惜しいとは思うが、願わくば忙しい時に関わって欲しくはない案件ではあるな。落ち着いた時なら構わんが……。
──と、それはいいとしてだ。
「それでメルラさん。貴女の本来の素性は理解しましたが、依然、貴女がここに居る理由は解りかねます」
「えぇ〜? なんでよぉ〜〜?」
「なんでって……。仮にメルラさんが従軍しているのだとしても、貴女の持ち場はこの後方拠点でなく父上の居る北方の拠点になる筈ですよね? 一体何の理由があってここに……」
まあ一応は私と同じでドワーフ族に武具の調整や修理を依頼しに来た可能性も無くはないが、それにしても彼女は手ぶらだ。
身に付けている妙に地肌に密着したボディスーツの様な防具にも目に付く傷は見受けられない……。私のように特殊な依頼の仕方をするか《空間魔法》が使えるならば話が違うが、そうでないなら違和感がある。
なので他の用事だろうが、後この辺りにある主要施設となると……。む、そうか──
「そういえばここから少し行けば砦ですね。確か捕虜収容所の反対側に戦争犯罪の罪人が収監されている房があった筈です。そこに用事ですか?」
非公認のギルドが連日捕縛されている昨今、収容人数に限界がある収監所では恐らく犯罪行為を働いた族を収監し切れない。
ならば解決策として単純なのは即日死罪に処し、監房の空きを作る事。どうせ現行犯での捕縛が殆どだ。裁判等の必要もあるまい。
「うふっ♪ せぇ〜か〜いっ♪ 流石ねぇ〜」
年甲斐も無く跳ねるような声色でそう告げるが、つまりは今彼女は罪人を処刑しに向かうという事だ。
まあ、罪人が何人死のうが私の知った事ではないが、どう見ても最低一人以上処刑しに行くテンション感ではないな。
それとも私が知らないだけでメルラは他者を処刑する事に悦びを感じるような、そんな人間性の持ち主だったりするのか?
と、私のそんな疑念を視線から感じ取ったのかメルラが何やら表情を焦燥感に染め上げる。
「ち、違うわよっ!? わた、私別に〝汚物の処理〟に快感得たりとか……そんなんじゃないからねっ!? ただ公私をキッチリ分けてるだけでっ!!」
……いや、別に快楽主義者だろうが何だろうが余程の人格破綻者でもなければ私は構わないんだが。
というかどちらかと言えば罪人の処刑を〝汚物の処理〟と表現している事の方を気にした方がいいと思うんだが……。それとも隠語の類か? それにしては随分と実感が籠っていて物騒に聞こえたな。
「そ、それに処理もするけど、私がここに来た主な理由は普通にスクロールの販売だからねっ!! メインはそっちだからっ!!」
む? スクロールの販売だと?
「メルラさんの店舗のスクロールを販売するのですか? 戦場で?」
私が何かを言う前に、横に居るロリーナが久々に口を開く。どうやら戦場でスクロールの販売が行われている事を不思議に思っているようだ。
「え、えぇそうね。──戦時中はスクロールの需要が高まるのは、知ってるぅ〜?」
「いいえ。高くなるのですか?」
そう言って彼女は私を上目遣い気味に見上げ問い掛けて来る。ああもう。私の気も知らないで可愛いなまったく……。
「──そうだな。力不足を感じた兵士将校が短時間で自力を上げたがるんだ。単純に武器を鍛えたりする場合もあるが、スクロールから戦闘向きのスキルを習得する方が明確に自力が上がるからな」
「成る程……」
「かなり運に左右される手段である上、スキルを新たに手に入れようと上手く運用出来なければ意味は無い。強化系等の単純な権能なら話は別だがな」
「……武器商人、のようなものですか?」
かなり大雑把にだが、大きく外れてはいないだろう。実際前世の戦時に比べ、武器等の需要はそこまで高くはなく感じる。ちゃんと調べたワケでなく体感でしかないがな。
「武器商人と言われちゃうと肯定も否定もしづらいんだけどぉ〜……。んまあ良いわっ! 偶然だったけど久しぶりに甥っ子に会えて良かったわぁ〜。じゃあ、何か欲しいスキルがあったらいつでも来て──」
「ならば是非、ご一緒しましょう」
「……へ?」
「いやはや、丁度良かったですよ。実は私達これからスキルを幾つか見繕おうと思っていましてね。最初は軍に支給されている物か行商の出店を見て回るつもりだったのですが、貴女に鉢合わせる事が出来て幸いです」
「あ、あらそうなのぉ〜? それは良かったわぁ〜」
作り笑いを浮かべるメルラの後を、私とロリーナは付いて行く。勿論目的は彼女が出店するスクロール屋に、だ。
彼女にも言ったが私達は元々この後スクロール屋に訪れる予定ではいた。このタイミングでメルラに出会せたのは僥倖と言えよう。
まあメルラは余り乗り気では無いようだがな。きっとまた価値の高いスキルのスクロールを私に持って行かれるとでも思っているのだろう。
少々心外ではあるが、気にしても詮無い事。というか知った事ではない。
それに今回の私の目当ては優秀な権能のスキルではない。いや、目新しい有用そうな権能のスキルがあれば話は別だが、それでも一番の目的はあくまでも……。
目端にチラリと、横を歩くロリーナを見遣る。
流石に、彼女には言えんな。「君を思わず襲ってしまうかもしれないから避妊関係のスキルを探しに行く」など、一体どんな面で告げるんだという話だ。
一応は習得しても彼女には告げず、身体を重ねる雰囲気になるか、万が一我慢の限界に達してしまった際に告げる形にしよう。出来れば前者が望ましいが、な……。
「着いたわよぉ〜。と言っても、砦の一室を借りて適当に並べただけだからかなり雑多だけどねぇ〜」
後方拠点の砦内。その現在は使われていない一室の扉を開けながらメルラは言う。
雑多、と彼女は言ったが正直なところ、彼女の店と比べたら大分片付いて見える。
勿論そもそもの品揃えが違うのもあるが、机やブックスタンドやらを工夫して配置し、お客に分かり易いよう本物のスクロール屋宛らの気配りが見て取れる。
「……出来るなら本店でも最低限やれば良いのに」
「あ、アッチはいいのよぉ〜っ! どうせ身内か同僚かその紹介しか来店しないしぃ〜……。こっちは一応簡単な宣伝してるから一般客が普通に来るのよぉ〜」
「何となく理解は出来ますが……。貴女のお店だと目当てのスクロールを探すのにも一苦労してしまい──」
「クラウンさん、余り他人の事は言えませんよ?」
「な……」
ロリーナが唐突に私の言葉を遮る。
一体何事かと彼女に目を移せば、私の顔を見てから少々呆れ混じりに嘆息する。
「クラウンさん。部屋片付けないじゃないですか。実家のお屋敷のご自分の部屋は勿論、学院の寮でも一室、散らかり放題ですよ?」
「あ、あれは散らかって見えるかも知れんが、一応は決まった場所に決まった物が取り易い位置に置いてあるのだ。それにあれでも清掃はしているぞ」
「それは知っています。ですがやろうと思えば綺麗にも出来ますよね? コレクションは綺麗に整理していますし」
「それとこれとは違う。自室で作業する場合、綺麗に整理整頓しているより必要な物が手元に来るような場所にある方が効率的で面倒が減る。それにどうせ自室など見せびらかすわけでは無いだろう?」
「言いたい事は分かりますが、それならば整頓と利便性を両立した方法を──」
「あのぉ〜?」
「「──っ!?」」
メルラの探るような声に私達はハッと我に帰る。
最近増えたんだよな、ロリーナとのこういった押し問答が……。全然嫌いな時間ではないが。
「すみませんメルラさん。騒がしくしてしまって」
「すみません……」
「あぁ私は全然……。それにしてもぉ〜……。うふふ♪ 二人共すっかり熱々ねぇ〜。羨ましいわぁ〜」
「揶揄わないでくださいよ。──それよりよくこんな贅沢に部屋を使う許可が降りましたね。他の出店は露天形式だというのに……」
「あぁ〜。露骨に話逸らしたぁ〜」
「……」
「はぁ〜。はいはい分かりましたぁ〜。──この部屋はねぇ〜?──」
話によれば本来この部屋──そして他にある空き部屋は、負傷者等が病床から溢れてしまった際に臨時的に使う事を想定されたものだという。
しかし想定よりも戦況は我が軍に傾き、それに比例して負傷者の数も想定より下回った。
故にこの臨時の部屋も数部屋ではあるが未使用状態になっており、現在はメルラが父上の権限の元、特別な許可を得てここに出店しているという話だ。
「ウチの品揃えは他と違って色々と際どかったり貴重だったりするから、露天じゃちょっと管理がねぇ〜? それでちょ〜っと弟にワガママ言って、ここに構えさせて貰ったのよぉ〜。ま、一般兵には薦め辛いのばっかりだから、陳列してるのは一般的なヤツばかりだけどねぇ〜」
「成る程。つまりはそういった類のスキルのスクロールもある、と?」
「あ、あはは……。ほ、程々にねぇ?」
まったく。そんな怯えんでもよかろうに。別に盗むわけでも脅し取るわけでもない。
コチラに都合の良い交渉をして値引きやらオマケやらを可能な限り引き出すというだけだ。カネだってちゃんと払うというのに遺憾の至りだ。
……まあ、それはいいとしてだ。
「ではロリーナ」
「はい」
「有用そうな物と欲しい物を、ヘリアーテ達の分も合わせて好きなだけ選びなさい。私は私で色々と探す」
「……」
「ん? どうした?」
「……無駄遣いは、ダメですよ?」
「ふふふ。分かっているとも。然しもの私とて興味本位で優先順位を蔑ろにはしないよ」
私の目的のスキルは〝個人的〟には優先順位は高い。何一つ、無駄遣いにはならん。
「……分かりました。では選んで来ます」
そう言ってロリーナは入り口手前端へと移動。陳列されたスクロールを《解析鑑定》を駆使しながら吟味し始める。
「本当。良い出逢いがあって良かったわねぇ〜」
ふと、メルラが感慨深そうにそんな事を呟く。
そう言えば聞いた話、メルラは私とロリーナが出逢う何年も前からロリーナの事を知っていたそうだ。
まあロリーナの育ての親であるリリーとそもそも昔からの馴染みだったようだからな。メルラがロリーナの事をリリーから聞いていたとしても不思議ではない。
そんな幼少から知っていた子が自分の甥である私と良い仲になっているのだ。彼女としては、何か感じるものがあるのだろう。
ロリーナに与えた《解析鑑定》のスクロールも、私とロリーナが恋人同士となった報告をした際にリリー経由で貰った贈り物だった。
あの時は探す手間が省けたとしか思わず特別感傷には浸らなかったが、改めて彼女には感謝しておこう。
「大切にするのよ。あんな良い子、そうそう現れてなんてくれないんだから」
そんな事、言われるまでもない。
「承知していますよ。例え他の何かが犠牲になろうと、私はロリーナを幸せにします」
転生当初は、何よりもスキル収集のみを自分の人生の指針にしていた筈なんだがな。いつの間にか──いや、ロリーナに一目惚れしたその瞬間から、私の中で彼女が最優先になっていた。
そしてそれを私は何一つとして悔やんではいない。ロリーナに出逢えた事は、今後何百何千年と謳歌する予定の私の人生で既に最大の成果と言っても過言ではない。
故に私は、ロリーナの為ならばどんな犠牲だろうと、絶対に譲らん。それが仮に──
「なんだか物騒ねぇ〜。まあいいけどっ♪ それよりクラウン? そんな大好きでたまらないロリーナちゃんとわざわざ分かれて商品選ぶって事は、何か欲しい物があるんでしょ? 彼女と一緒に探し辛いのがっ♪」
「……はぁ。察しが良くて助かります。実は一つ相談が──」
その後私達はそれぞれ目的にそぐうスキルのスクロールを見繕い購入。メルラから例のスキルやそれに役立ちそうな物を女性目線を交えて意見を貰い、中々に満足いく内容で買い物が出来た。
支払いに関しては今回は値引きやオマケ交渉は控える事にした。色々と意見を貰った分、たまには遠慮するのも良いだろう。メルラとは近い将来に部下として中々に長い付き合いになるからな。
遠慮無ければ近憂ありとも言う……。彼女にとっての甥という立場に甘んじ過ぎるのも宜しくないだろう。
「クラウンさんはどのような物を買われたんですか?」
メルラの出張スクロール屋を後にして直ぐ、ロリーナが何の気なしにそんな事を訊ねて来た。
例のスキルの事は口に出来ないが、勿論そこは本命と偽装を兼ねたスキルを選定してある。
「主に植物に対して権能を発揮するスキルを選んだ。《植物特効》や《伐採》、《旱魃》に《痩地》なんかだな」
「植物、ですか?」
「ああ。今後私達はアールヴ国内での戦闘行為が常となる。その場合、目に入る植物という植物は全て彼等エルフの味方と考えて進んだ方が良い」
「それは……。エルフが植物を操る、と?」
「いや。幾ら森林の隣人といえど流石に植物は操れん。植物はあくまでも〝生物〟だからな。生物を自在に操れる能力など、普通のエルフには不可能だ」
一応古い文献にはそれを可能とする〝魔法〟があるらしいのは見掛けたが、そうそうお目には掛かれない。
とはいえ現れてくれたならば私としては生唾ものだがな。是非現れて欲しい所だ。
因みに《森精特効》というエルフ族に対して特効を得るスキルは、エルフの兵士を二百人程倒した際に普通に習得した。故に今回は植物関係を選定したわけである。
「植物に関する特効のスキルは、植物系の魔物を使われた際に対する」
「そうですか。他には?」
「ああ。どうやらアールヴには、まだ魔物を使役する隊が幾つかあるらしくてな。そんな魔物とかち合った際に効力を発揮するよう《哺乳類特効》や《爬虫類特効》、《両生類特効》《昆虫類特効》《甲殻類特効》《多足類特効》《鋏角類特効》なんかの特効関係を根こそぎだな。贅沢を言えば《菌類特効》や《細菌類特効》も欲しかったが、流石に全ては無かったのでな。少々口惜しいが、致し方無い」
わざわざ取らんでもかち合って数を討伐すれば習得も出来るかもしれんが、念には念を入れてだ。
それに予め特効系を総なめしておけば、更に細分化された特効系を習得出来る一助になる可能性はある。無駄な出費ではなかろう。
「……主に特効系なのですね」
「そりゃあな。エルダールを討ち取りその力の全てを手に入れた今、販売されているようなスキルは軒並み習得済みで買う意味が無い。やるならば特効系のようなピンポイントな権能のスキルくらいになってしまう」
正直なところ、エルダールの力を手にした私ならわざわざスクロールを買ってまでスキルで強化しなくとも戦争には勝てるだろう。
が、欠片程の油断や慢心が万が一、億が一の可能性で足元を掬いに来る。やれるだけやらねば……。
「成る程。理解しました。では後は食材の買い出しですか?」
「そうだな。王都やカーネリアに転移して掻き集めよう。ふふ。ちょっとしたデートだ」
「少々、不謹慎な気がしますが……」
「この頃殺伐としていたからな。たまの気分転換は必要だろう? 私も、君もな」
「そう、ですね」
「そうだとも。では、早速行こうか?」
私がロリーナに手を差し出すと、彼女はその手をゆっくりと取る。
ヘリアーテ達には悪いが、最近の情緒の乱れっぷり解消の為に一足先にリフレッシュさせて貰うとしよう。
──そう言えばこの乱れに乱れた情緒の原因であるヴァイスは今頃どうしているだろうか? 奴のせいで犠牲となった彼女達の親に義父共々責められてはいるだろうが……。
……いや、私の知った事ではないな。
さぁ、存分にイチャイチャしてやろうではないか。
戦時中にも関わらずのんびりとした時間も、今回で終わりです。
後一話分だけ〝彼〟に話を使ってから再侵攻を開始し、一気に最後まで駆け抜ける予定です。




