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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第二部:強欲少年は魔法を渇望する
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第三章:傑作の一振り-28

 その後私はノーマンに燈狼(とうろう)と名付けた剣に名前を刻み込んで貰った。


 手法としては、私の血を少量溶かした墨で付けたい名前を羊皮紙に書き、その名前が書かれた羊皮紙を剣のタング──(なかご)と呼ばれる部位に乗せ、その上から(ノミ)なんかで書かれた名前に沿って刻んでいく。というもの。


 魔力を保持している生物の血液には魔力が溶け込んでおり、魔法を用いない医者や錬金術師なんかは、それを利用して薬を作ったり出来るという。


 今回の名前の刻み込みも同様で、私の血が混ざった墨の上から名を刻む事で、私の魔力が名前と共に刻まれ、剣と名前と持ち主に繋がりを作れる原理だとノーマンが教えてくれた。


 繋がりが出来た事で正真正銘、燈狼(とうろう)は私の専用武器となり、私の力を最大限発揮し、私にしか使えない武器へと昇華した。


 名付けが終わった事により、漸く私とノーマンの剣製作は終了。このパージンに来た目的を達成することが出来たのである。因みに、


「《無毒化》で押さえられていたボルケニウムから発せられる有毒ガスは大丈夫なのですか?スキル取り除いてしまいましたが……」


「そこは心配ねぇ。ボルケニウムが燃え続けられる原因であるあのガスは燃焼さえしてやりゃ安全だ。んでおめぇさんが意識しなけりゃガスも出ねぇし燃え始めもしねぇ細工をしてある。まあ、放熱だけはどうしようもねぇが、おめぇさんは《炎熱耐性・小》を持ってんだろ? なら問題無ぇ」


 そんな風に仕掛けもしてくれたらしい。まあ、常に毒ガスが漏れ続けるというのは流石に身近に置けないので大助かりである。


 そうしてそんなやりとりの後、私は改めて正式にトーチキングリザードの毒を使った新たなナイフ造りを依頼し、「長い間ありがとうございました。この依頼も宜しくお願いします」と言って私とマルガレンは宿へ帰る為店を出ようとし、ドアノブに手を掛ける。


 するとノーマンは慌てたように、


「ちょ、ちょっとおめぇさん等!! 忘れモンだ忘れモン!!」


 忘れ物? 燈狼は持ったし、ナイフは預けている。代金も払ったし、名付けだってキッチリやった。他に何を忘れて──


「コイツだよホラ!! コイツ!!」


 そう言って店の奥から引っ張り出して来たのは、首根っこを掴まれ意識の無いジャックの姿。


 …………あー。


「え!? ジャック!? 居たんですか!?」


 そうハッとして思わず叫ぶマルガレン。


 正直、忘れていた。確か朝のマルガレンの話じゃノーマンの店に来ている筈だったのだが、そういえばあれだけ長話をしていても一切姿を見せなかったな……。


「居たんですかじゃねぇよっ!! コイツ朝一番に来たと思ったら急に倒れやがったんだよ!! 仕方ねえから俺ん家のベッドに寝かしといたが……。おめぇさん等一切コイツの話出さねぇしよ!!」


 急に倒れた? 誰かにやられたのか?


 しかし私が万が一の為にと渡しておいたスキル《警鐘》が封じられた鉄の板からの反応は無い。襲われたわけではないという事だが──


 私は一切起きる気配の無いジャックに近寄り、簡単に状態を診る。


 ……目は充血し、クマが深い。肌は荒れ気味だし、若干血色も悪い。


 そういえばコイツ。日に日に飯の量が減っていた気がするな。チーズ料理ばかり食べていたから飽きたのかと思っていたが、食欲不振か……。ならば。


「完全に睡眠不足だな。もしかしたら軽い栄養失調もあるか……。どうせノーマンの鍛冶屋で目にしたモノを、夜中に片っ端からまとめていたんだろう。まったく……」


「だ、大丈夫なんですか?」


「栄養あるものを食わせて落ち着ける場所でゆっくり寝かしてやれば回復して来るだろう。これは、もう少し滞在期間伸ばすしかないな……」


 真面目なのは知っていたが、加減を知らないらしい。これはこれで素晴らしい才能だが、いつかは身体を壊してやりたい事も出来なくなる。今後は注意してやらねばな……。


「取り敢えずジャックは連れて帰ります。お手数掛けてすみません」


「いんや、それは良いが……。なあおめぇさん」


「はい?」


「まあ、なんだ……。いきなりで悪いんだが……まだ大分後の話だがよ。将来、俺は〝とある方〟を弟子にすると決まっている」


 なんだ? 急になんの話を始めたんだ? それに、とある方、と呼んでいるのに将来弟子にすると決まっているって……。要領を得ないな。


「そん時はよ。手紙出すから、そん時はまた……依頼してくれねぇか?」


「……意味が、分からないのですが」


「今は分からんで良い。そもそも詳しくは話せねぇんでな……。ただ、そん時の依頼はおめぇさんにされてぇ。依頼してくれなんて素っ頓狂な話してんのは百も承知だ。だが……頼めるか?」


 そのノーマンの目は真剣だった。これまでの燈狼製作に見せた様な職人がする熱いギラギラした目では無く、何かを静かに……決死の覚悟をした様な、そんな目。


 信頼したいと思った相手に、そんな目で頼み事をされちゃ、断るのは野暮だろう。それに、


「良いですよ。ではその時までに、また新しい武器案を考えておきます。勿論妥協の一切無い、容赦の無い物を、ですけどね」


「……ハッハッ……。ガァーッハッハッハッハッハッハッ!!!!望むところだ馬鹿野郎!! おめぇさんの依頼なんざ余裕だ余裕!! ガァーッハッハッハッハッハッハッ!!!!」


 ノーマンは今までに無いくらい豪快に笑いながら、改めて私達を見送ってくれた。別れ際のノーマンの顔は、何かを見定めた様な、そんな顔に見えた。


 ______

 ____

 __


「ありがとうよ。ニィちゃん」


 ノーマンはクラウン達を見送った後、店の奥である作業場へ行き、棚から一つの手の平に収まる程度の金属の板を取り出して耳に充てがう。


「通話開始」


 ノーマンのその一言が発せられると、彼の耳に激しい金属音が鳴り響き、その音に一瞬顔を(しか)める。


 数秒後、金属音は止み、何かが繋がった様な音がすると同時に、その金属から〝声〟が発せられる。


『こちらマスグラバイト王国中央執行部』


「こちらノーマン・コーヒーワ。〝例の件〟について連絡した」


『……担当者にお繋ぎします。──ほう。コーヒーワ殿、そちらから連絡とは珍しい。わざわざ以前の様に悪態を吐く為に連絡したのでは無いと願いたいが……?』


「ケッ……。元から無理矢理押し付ける気だったクセによぉ……。文句の一つや二つ、我慢しろってんだ」


『当然だ。君以上に適任は居ないのだ。多少の文句を言われようが、無理矢理にでもやって貰う』


「ふん、まあいい……。……決心が付いた。要請を受け入れよう」


『ほう、素直じゃないか。どういう風の吹き回しだ?』


「おめぇさんには関係ねぇ。ただ……全力で仕事任せてくれる客が居た……それだけだ」


『……? 意味が分からんが……まあいい。まだ先の話になるが、要請受諾は確認した。取り消しは出来んぞ?』


「ああ、承知の上だ」


『そうか。ならばこの大役、お前に任せる。絶対に失敗(しくじ)るな。比喩では無く、お前に国の未来が掛かっている』


「……ああ」


『では任せたぞ。〝今代「勤勉の勇者」育成〟。心して掛かれ』


 ノーマンは自身の作業場で一人、静かにほくそ笑んだ。


 __

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