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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第二部:強欲少年は魔法を渇望する
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第一章:精霊の導きのままに-4

 私が〝天使〟と言うと、疑問符を浮かべていた全員が「あー」と納得したように唸る。私がらしくもなく〝天使〟と形容する人物など他にはいない。


「そう言われれば見掛けてないですね。クラウン様の試合を観てないなんてあの子らしくないです」


「ですね。クラウンさんの試合なんてイベントに居ないなんて……。どこか出掛けてたんですか?」


 口々にそう話すアーリシアとエイス。


「ああ、母上と一緒に演劇を観に行っている。あの子は嫌だと言っていたが、母上が教養の為と半ば無理矢理な」


「演劇って……。あの一回観るのに冗談みたいな額払うアレですか?」


「ああそうだ。あの冗談みたいな額払うアレだ」


 私も昔母上に連れられ観た事がある。演技のクオリティは割と高かったように感じたが、いかんせん馴染みの無い劇だったからか、はたまた価値観が合わないのかピンと来なかった印象だ。


 アレ一回に金貨を何枚も払う事を考えると、ちょっと割りに合わない。


「私的には無駄だと思うんだが、母上はどうも気に入っているらしくてな……。嬉々として連れて行こうとするから断るに断れない」


「あの子も最初は行きたくないと駄々をこねていたが、母上の悲しそうな顔を見て諦めたようだった」


 私の言葉に続き連れて行かれた状況を口にする姉さん。聞いたことはないが、恐らく姉さんも昔母上に連れて行かれたのだろう。私達の為とはいえ、アレを三回……。エクストラスキルのスクロールが買えるんじゃないか?


 と、そんな話をしていると。


「ただいま帰りましたー!」


 とても元気いっぱいといった具合に帰宅を告げる可愛らしい声が屋敷の玄関から響き、私と姉さんは勢いよく立ち上がる。


 それと同時にダイニングの扉が開き、一人の少女が姿を見せる。


 そこに居るのはまさしく天使。どういう仕組みでそんな風になっているのか分からない上から下へ綺麗に黒から赤へとグラデーションの掛かった長い髪。


 私や姉さんと同じ様に金色に輝く大きな瞳には一点の曇りもなく、その純真さを物語っている。


 そして漏れ無く間違いない美人さん。恐らく同年代でこの子より可愛い子はいないだろう。


 胸元には私が母上に渡し、この子の御守りにとペンダントに加工してもらった精霊の涙がよりこの子の魅力を引き立てている。


 そんな齢六歳、ミルトニア・チェーシャル・キャッツ。私と姉さんの最愛の妹である。


「おかえりミル。母上と演劇を観に行ったんだって? 楽しかったか?」


「はいお兄様! お兄様の剣の試合観れなかったのは残念でしたが、楽しかったです!!」


 ほう、あの芝居を観て楽しいと思えたのか。この子には私にはない感性があるらしい。流石最愛の妹だ。


「それは良かった。ほら、皆も来てるから挨拶しなさい」


「はい! 皆さんこんにちは!」


 ああ、駄目だ。可愛い。


 …………マズイな、折角もっと冷淡に物事を考えなければと決意したばかりなのに気持ちが弛緩してしまう……。


 取り敢えずは頭を別方向に切り替えよう。


「そういえばミル、母上は何処に? 一緒に居たんだろ?」


 そう、一緒に演劇を観に行っていた筈の母上は姿が見えない。まあ、わざわざ食事している私達の元に来る必要はないのだが……。


「母様は父様の書斎に行きました! 演劇を観て色々気付いたと言っていました!」


 気付いた、ねぇ……。母上は何度も演劇を観ている訳だが、好きな物だとはいえ流石に色々粗を見付けてしまったのだろう。まあ、領主である父上に何を頼むのかは知らないが。


「そうか、ありがとうミル。そういえば、ミルはもうご飯は食べたのか?」


「いいえまだです! お腹ペコペコです!」


「そうかそうか、なら私達と一緒に食べよう」


「はい!」


 そうしてミルを加えて食事を再開する。ふと、姉さんが一言も発しなかったのに気がつき、そちらに視線を移すと、どうやらまだ先程のドワーフ云々の話が残っていたらしい。話すタイミングを逸してどうすればいいかと戸惑っている。


 二十歳を目前にしてもそういう所はまだ不器用な姉さんもまた、私からしたら可愛げがあって内心癒される。


「すみません姉さん。話の続き、あるんですよね?」


「あ、ああ……、いや、大した話ではない。続きは後々にして、今はミルとの食事を楽しむよ」


 姉さんはそう優しく笑い、食事を再開する。何も遠慮する事は無いんだが……、まあ、姉さんがそう言うなら仕方がない。私もミルとの食事を楽しむとしよう。


「今日のお食事も美味しそうです! 早く食べたいです!」


 そう言って笑顔を見せるミルトニアに、やはり食事のクオリティを上げておいて良かったと本当に思う。

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