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第十四話

 


 村上は妙な音で目が覚めた。

 自分が寝ている母屋からではなく、鍛冶場からそれは聞こえる。

「なんだ。この朝っぱらから……」

 村上はいらついた声で言った。

とりあえず武器を確保。手短にあった小槌を取る。物取りだったら殴ってやる。そう息巻いて母屋を出た。ゆっくりと鍛冶場に足音を立てず、近付いていく。そして恐る恐る鍛冶場を覗いた。

 奥でなにかいじっている影があった。村上はすぐそれが誰であるかわかり、はぁと重くため息を吐き、そいつに怒鳴ってやった。

「桜井! お前は何をやっている!」

 その声に侵入者はビクッと肩を震わせ、ゆっくり振り返った。

「よう、おっさん」

 涼介が困惑したような顔で愛想笑いを浮かべた。村上は頭を抱えた。

「お前は何を泥棒じみたことをしている?」

「いや、その、こんな朝早くからアンタの手を煩わせるわけにはいかねぇなと思いつつ……」

「こっちのほうが迷惑だ!」

 間髪容れず怒号が飛んできた。

 そしてふと、村上は涼介の容姿を見た。

 頭に包帯をして、いつもの黒い制服は着ておらず、白のカッターシャツだけを着て、それに左腕を吊っている。

「どうかしたのか?」

 村上は不思議に思い訊ねた。すると、涼介はついと視線を逸らした。

「なんでもない……」

 はぐらかされてしまった。まあ、別にいい。

「で、何しにきた?」

 村上の問いに涼介はわずかに眉を動かした。それを村上は見逃さず。

「まさか、もう刀が使えないなんて言わないだろうな?」

「……ち、違う」

 そう言いながら涼介は右手に下げている刀を後ろに隠した。

「図星か……」

 村上は頭を抱えた。

 涼介は慌てて早口でまくしたてた。

「いや、今回は、その……。あれだ」

「なんだ? ったく、刀一本鍛えるのにどれだけの労力がいると思っているんだ」

 村上はやれやれと肩をすくめ、ぶつぶつ文句を言い始めた。

「そうだ。人助けだ!」

 涼介は思いついたように叫んだ。

「はっ?」

 村上の愚痴が止まった。

 涼介は声に出した後、しまったと思ったが、すでにもう手遅れだ。村上の目の輝きが驚きに変わり、好奇心へと変わった。彼はまじまじと涼介を見つめる。

「な、なんだよ……」

 涼介は顔をしかめる。

「これは面白い。お前が人助けか……」

 村上は笑った。涼介の顔が苦々しくなる。

「わ、笑うな! ただの気まぐれだ!」

「そうか」

 村上はまだ肩を揺らしている。

「どいつもこいつもふざけやがって……! クソッ!」

 涼介は苛立ちにまかせて、足元にあった桶を蹴飛ばした。

 これ以上涼介が怒ると、命と鍛冶場が危ないので村上は笑うのをこらえた。

「そうか。まぁ、良いんじゃないか。良い傾向だ、うん」

 村上はうんうんと何度も頷いた。

「この野郎……」

 涼介は怒りに震えた。いつもならここでぶん殴っているところだが、残念ながら怪我をしていて身体が動かない。

「しかしお前が人助けとは……」

「しつけぇよ!」

 そうつっこむと涼介は刀の物色を始めた。


「これにすっか……」

 しばらくして涼介は刀を決めた。

「ん? 決まったか?」

 背後で村上が言った。彼は鍛冶場の端にあった椅子に座って寝ていたらしい。ぐっと伸びをして目をこすった。

「お前が壊してくるから何も無いだろ?」

 村上は皮肉を込めて言った。

「……うるせぇな。今はなんでも構わない。とりあえず、下げているだけでいい」

 涼介は剣帯に刀をぶら下げた。

「じゃあな、おっさん。また来る」

 村上に手を振り、踵を返した。

「今度来る時は、壊してくるなよ」

 彼は欠伸を噛み殺し言った。

「努力する」

 涼介は短く答え、鍛冶場を後にした。

 村上は彼を見送り、彼の背中を見てまた笑った。

「何があったか知らないが、変わったな」




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