89話 世界が背中を押してくる
視点コロコロと変わります。ご了承ください!
felizさんに続いて、私たちフルーツパフェのライブも始まった。
相変わらずみかんちゃんが突っ走り、いちごちゃんはマイペースに、メロンちゃんはついて行くのがやっと。
そして私も相変わらず、何もしない。俯きながら、それとなく腕や足を動かすだけ。そんな退屈なライブだ。
今VIPルームにはアップるの4人や社長が来ている。きっと私のことを見て、何か思うところがあるはずだ。だって彼らは私の本当の力を知っているから。
◆明日香視点♦︎
くそっ! 歯痒い! りんごちゃんはあんなダンスをするような子じゃないのに!
それにフルーツパフェはやっぱりバラバラだ。厳しいレッスンのおかげで少しはレベルアップしているように見えるけど、統率のところはダメダメだ。
「……明日香、フルーツパフェが気になるのはいいけど、休める時に休んでおいた方がいいと思うよ」
「……悪いな薫。少しだけ迷惑かけるぞ」
「えっ?」
私は勢いに任せ、ステージに飛び込んだ。
◆りんご視点♦︎
会場がざわつく。
フルーツパフェのライブ中に、felizの明日香さんが割り込んできたから。
「何よ明日香、割り込み?」
こういう時にみかんちゃんは頼りになる。
アドリブにも強い……というのはちょっと違うか。そもそも地でアドリブ人生みたいな子だし。
「この4人の中に、私の言いたいことがわかる人がいるはずだ。お願い! ここでそのパフォーマンスを見せてほしい!」
明日香さんはマイクを使って私たちに呼びかける。当然、私には何を言っているのか理解できる。散々言われた、全力を出して欲しいということ。
私にはあの写真がある。その意味を明日香さんは十分に理解しているはず。それでもなお、動いてきた。
「ちょっとよくわからないけど、私たちとライブしたいならそう言えばいいじゃない! ほら、来なさい」
みかんちゃんの積極的な誘導により、観客が大いに沸いた。当の明日香さんは「そんなつもりじゃない」という表情を隠しきれていないけど。
『フルーツパフェ!!!』
それは、スタジアムアナウンスだった。本来サッカーが開かれるこのスタジアムでは選手がゴールした時に盛り上げるためにアナウンスが流れるという。それが今……流れた。
「だ、誰よ! 私たちを呼んだのは!」
『下を見るな! 上を見なさい! あなたを待つ人はここにいる、あなたの見るべき景色はここにある!』
声の主は、どう考えてもアップるの藤宮子。そのおかげか、会場はとんでもない盛り上がりを見せていた。
この声はきっと私個人に向けてのアナウンスだ。
「……上を……見る……」
恐る恐る視線を上げると、そこにあったのは……赤い壁だった。急勾配のスタジアムには私のファンと思われる人が赤いシャツを着て立ち並んでいる。座席も私のメンバーカラーの赤。
「ぁ……あぁ……」
涙が一雫、零れたのを感じた。
◆明日香視点♦︎
なんで藤ちゃんが後押ししてくれたのかはわからないけど、とりあえず助かった! りんごちゃんが今日初めて、俯きから解かれたんだ!
りんごちゃんも、これを見たら変わるはず。赤い壁、りんごちゃんを後押ししてくれる、赤い壁だ!
「やっちゃえ! りんごちゃん!」
♪♪♪♪♪♪
『I want you♡ 世界の真ん中にハートを散りばめ〜♪ てんこ盛りフルーツで、愛を……トッピングするの♪』
りんごちゃん……すげぇ! 踊ってる! 全力で!
「り、りんご?」「うわぁお。すっご〜い」「アップるさんみたい……」
みかんちゃんもいちごちゃんもメロンちゃんも、みんな驚いている。当然だな、みんな知らないわけだし。
観客のざわつきが大きくなっていく。そうだそうだ、見ろ! 今日のライブは伝説のライブだ!
これは……私たちも頑張らないとだな、薫。このインパクトに負けないくらい、最高の新曲、見せてやろう!




