81話 全力の……
一泊二日の名古屋旅行(?)の翌日。
今日、私たちはフルーツパフェと再び顔を合わせることになる。
私抜きで薫とフルーツパフェが顔を合わせるのはあまりに怖いと感じた私は何の親切心か始発の10本後くらいの電車に乗って事務所に向かった。こんな早く来るのは滅多にない。うちはブラック事務所じゃないからな。
薫のことを気にかけていた私だけど、よくよく考えたらりんごちゃんがフルーツパフェの中で1番に来たら気まずいとかいう次元じゃないよな……。
失敗したかも。なんて思いつつ、そうそう悪いことが都合よく起こるかよ、と自分に言い聞かせて事務所の小会議室へ入室する。
集合時間は9時だというのに、時刻はまだ6時。3時間も早く来たのはあまりに駆け足だったかもしれない。それでも事務所は開いている。誰が働いているんだろ……。
それにしても暇だ。なんとしても薫より早く着かなければと思いすぎて先走っちゃったけど、どう考えても8時に着けばいいくらいだったな。
はぁ、と小さくため息が出る。なんか空回りだ。上手くいかない。名古屋のミニライブも私たちの力だけで振り向かせることはできなかったわけだし。
そう思ったら居ても立っても居られない。
魅力がまだ足りないというのなら、自分の技に磨きをかければいいだけだ。行くぞ、レッスン室!
エレベーターで地下へ移動し、がらがらなレッスン室のドアを開けた……
「あ……」
「お、おはようございます……」
と思っていたら先客がいた。主張の激しい赤い髪。見間違えるはずもなく、りんごちゃんだ。くぅ〜! なんで私の悪い予感はすぐ当たるんだよ!
あの日の小悪魔のようなりんごちゃんはどこへやら。私とのキスが恥ずかしくなってきたのか、顔まで真っ赤に染まってきている。もはやりんごそのもの……なんて言ってる場合じゃないか。
「えっと……まぁ練習する? 一緒に」
「へ、へ?」
「だってつまらないでしょ? 1人で練習なんてさ。それに私にはもう全力バレてるわけだし、歌もダンスも気を使わなくてもいいからさ」
「気を……使わない……歌とダンス」
りんごちゃん、もしかしたら辛かったのかもな。理由はわからないけど、自分の力を隠しながらなんてもどかしくて私なら耐えられない。まぁそんな大したものを持っているわけではないんだけども。
「まぁ気が乗ったらでいいよ。私はもうレッスンするから」
私が踊り出すとすぐにりんごちゃんも並んできた。……やっぱり、寂しかったんだろう。
「どう? 楽しい?」
「はい……久しぶりに、楽しいです」
「そりゃよかった」
「明日香さんはズルい人ですね」
「えっ?」
「……なんでもないです」
こそっと呟いたりんごちゃんは、さっきよりも赤く熟れているような気がした。




