78話 豊田市へ!
ミーンミーンミーーーーン!
名古屋のセミは、なぜだか知らないけど東京のセミよりうるさく感じた。考えうる限り、最悪の目覚め方だな。
昨日薫に揉まれ続けた胸は1mmたりとも成長したようには思えない。揉まれ損かよチクショウ!
隣の布団では薫はぐっすりと眠っている。綺麗な布団、ほどよく効いたエアコン。眠る環境としてはセミ以外パーフェクトだもんな。
……ちょっと胸くらい揉んでやるか。仕返しだよ仕返し。
私は手を恐る恐る薫の方へ向けて伸ばす。私とは違い、ぷっくりと膨らみを有する薫の胸部はパジャマを着ていてもはっきりと主張していた。羨ましい……とかそんなんじゃなく、ただの復讐心で揉もうと試みる。
手が薫の胸に触れる2cm手前。その瞬間に、薫の目がキリッと開かれた。
「うぇっ!?」
緊張感を持って手を伸ばしていた私は突然のことに奇声を発するほか無かった。
「……何をするつもりだったかは問わないでおくよ。なんとなく分かるからね」
薫は寝起きだというのにニヤニヤしながら私を見つめてくる。こいつ……まさか私の行動を読んで狸寝入りしていたな? 相変わらず嫌なやつだ。
「さぁ、行こうか。私たちのライブ会場……豊田スタジアムへ」
薫は起き上がり、黒髪をセクシーに揺らしながら呟いた。
その後は朝食をマネージャー家全員と食べ、小言を言われることを嫌がったマネージャーのわがままでさっさと家を出ることにした。
たまたま通りかかったタクシーに乗って、名古屋駅へ。
タクシーから降りると、私たちに近づいてくる人影があった。灰色のそれは、確認するまでもなく名鯱ちゃんのものだとわかる。
「お、おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」
「おはよう。むしろお願いするのはこっちだけどね」
「名鯱さんは豊田スタジアムにも詳しいのかい?」
「あ、はい。私、グラサポなので」
グラサポ……? 聞き馴染みのない言葉だけど、まぁいいや。
名古屋駅から電車に乗って、伏見駅で乗り換える。そこから鶴なんたらみたいな線に乗って、豊田市へ!
「……って長いわ!」
1時間くらいかかったぞ! ファンにこんなにアクセスの悪いところまで足を運ばせるつもりかよ!
「仕方ないでしょう? グラサポさんだって我慢してるのよ。ねぇ?」
「は、はい。スタジアムは完ぺきなので我慢できます」
愛知県民あるあるみたいなトークをされると私では敵わないな。
豊田市駅に着くとそこからちょっと歩くという。
「ライブの日はここを多くのファンが歩くのか。少し感慨深いね」
「すごい人の波になるわよ〜」
で、ようやくそのスタジアムとやらが見えてきた。遠かったな……。




