69話 完全アウェイ
「うわっ! すげぇ人!」
思わず声が漏れる。
大須商店街にどかんと構えるオレンジ色のお店、『まんだら〜け』には多くの人、特に男性客が詰めかけていた。
「ここは二次元系の作品を多く取り扱っているみたいだね」
「それって私たちに興味を向けてくれるのか?」
「今や二次元系のオタクさんと三次元アイドルのオタクさんとの境界線は薄くなりつつある。問題はないと思うよ。事実、ここのお店でも何回かアイドルのイベントを開いているみたいだしね」
薫はスマートフォンで情報を仕入れているようだ。あまりの行動の速さにびっくりする。
薫の言っていることは本当のようで、店に入ってからかなりの視線を感じるようになった。
……でも、一向に声をかけられる気配がない。京都ではすぐに声をかけてくれたのに。なんでだろ。名古屋の人は奥手……とか?
「なぁ薫、こっちから声かけてみた方が良くないか?」
「……一理あるね。このまま時間を浪費するのは惜しい」
16:00からミニライブをするって情報も知れ渡ってないだろうしな。声をかけるメリットは大きいだろ。
「あの〜、すみません。私たちのこと、ご存知ですか?」
フルーツパフェとの一件で不機嫌な薫に任せるのは怖いから、私が率先して声をかけることにした。
声をかけることにしたのは20歳くらいの男子大学生っぽい人。本当は女の子に声をかけたいけど、この店ほぼ男客だしな。
「知っとるよ、felizだら?」
やっぱり。felizってことは知られているんだ。
「ありがとうございます! 実は16:00から大須商店街の広場でミニライブをするですよ。よかったら来てください!」
「ふーん。ライブねぇ」
ぐっ……あまりいい感触ではないな。
「初めての愛知県ライブです。ぜひお越しください」
ここで薫も参戦してきた。劣勢になると薫の参戦も心強いな。
「……おみゃーたち、ちょっと東京で名の知れたアイドルだからってちょうすいとるんじゃないか?」
「「えっ」」
ちょうすいとる? よくわからないけど、なんとなく貶されていることはわかるぞ。
「ここはアイドルの聖地、名古屋だがね。そんな生半可な気持ちでいたら足元掬われるよう」
そう言って大学生くらいのお兄さんは足早に店を去っていった。
もしかしたら、私たちへの視線はfelizを生で見られたという喜びからではなく……ただの敵対心からくるものなのかもしれない。
「薫……ここは私たちのホームじゃない。完全アウェイだ」
「そうらしいね。これは……厳しい場所を選んでくれたものだよ、まったく」
こんな大学生、いません。




