65話 夜電話
りんごちゃんに劇的な百合キスをされた日の夜。私はいつものようにアイドル番組を見てから寝ようと思ったら、マネージャーから一件のメッセージが来ていたことに気が付いた。
<お疲れ様! 明日、愛知に行くわよ!>
また急な話だな、おい。
薫はすでに<了解した>と返信している。そんな早く了解できるか? 準備とかあるのに……色々振り回されすぎなんだよ、felizは。
テレビ番組のドッキリにて粉まみれになる藤ちゃんから目を離して、準備を進めた。
その途中でふと思ったことがある。これ、日帰りか? 泊まりか? 詳細も何も書かれていない。本当に社会人なのか、ウチのマネージャーは。
だから私は薫に電話をかけることにした。マネージャーに電話しろよと思うかもしれないけど、薫の方がなんとなくすべてを把握してそうだからって理由であって、別に夜中に薫の声が聞きたくなったとかそんなんじゃないんだからな!
「もしもし薫? マネージャーからのメッセージの件だけどさ、あれって日帰りか? 泊まりか?」
『さぁ。超能力者ではないからわからないね。ただ、私たちはよく振り回されるから一応泊まりの荷物を持って行った方がいいと思うよ』
「だよな〜。サンキュー」
ここで電話を切ろうとして……なぜか切れない自分がいた。
『どうしたんだい? 話は終わりかな?』
「あっ……えっと……」
……認めよう。私の中に、まだ薫と電話したいという乙女な自分がいることを! でもそれを口に出して伝えるのは癪だな。薫がつけあがるのはあまり好きじゃ無いし。
『もしかして、私との電話を切るのが物悲しいのかな?』
「そ、そんなわけないだろ! 毎日会ってるのに!」
いや実際その通りなんだけど、素直に認めたら負けな気がする!
『ふふ、まぁいいさ。私も少し退屈していたところだし、話でもしようじゃないか』
「は、話って?」
『明日からの愛知での話だよ。私の予想が正しければ、色々なことをさせられると思ってね』
「そうなの? 私はてっきり会場のなんたらスタジアムの視察に行くくらいかと思ってたけど」
薫は先のことまでちゃんと読んでいるんだな。いや別に私も読めるなら読みたいが、あいにくそんな頭を持ち合わせていないからな……。
『心の準備はしておいた方がいいと思うよ。愛知県は私にとっても初めての地だし、文化も生活もわからないからね』
大袈裟だな……同じ日本だし、なんならこの前行った京都より全然近いだろ。
「まぁ、薫様のご指示とあればそうするよ」
結局私はなんとか粘りに粘り、30分くらい薫との夜電話を堪能したのであった。




