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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
2章 1周年記念ライブ編

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55/143

55話 りんごの真実

 大手アイドル事務所。その最上階に位置する社長室に、二人の若手マネージャーが険しい顔を見せながら立っていた。

 絢爛なる椅子に座る初老の男性、この事務所の社長は自身の髭を愛でるように撫で、口を開いた。


「……あまりいいスタートは切れなかったようだね」

「予想していた通りだと思いますが」


 赤色の眼鏡をかけたマネージャーが社長に対してやや辛口な発言をした。それを社長はいちいち咎めたりはしない。


「彼女はどうだね、宇津和(うつわ)くん」


 宇津和と呼ばれたフルーツパフェのマネージャーは、その対象者が誰であるかを尋ねずに察することができた。

 社長とマネージャーにとっての悩みの種となっているのは議論の余地なく華志月りんご。現在進行形でフルーツパフェとfelizの軋轢の原因となっていた。


「相変わらずです。どうか自信をつけられたら良いのですが……」

「……そうか」


 社長は絢爛な椅子の背もたれをふんだんに使い、思い切りもたれかかってみせた。その重さが、悩みの大きさをそのまま表していると言える。


「社長、そろそろ教えていただけませんか? なぜフルーツパフェとfelizが合同でライブをすることになったのかを」


 花守ひなたは我慢できないと言わんばかりに社長へと声をかけた。

 これまで一方的に幹部会議で決まった内容をマネージャーに伝えていただけの社長は頭を抱え、深く反省した。


「華志月りんごの復活のためだ」

「りんごの……復活?」


 社長の発した言葉に違和感を覚えた二人。

 復活という言葉は、元より秀でた能力を持つ人間が何らかの事情により本来の力を発揮できない状況に陥り、そこから本来の力を取り戻すことを指す。


「そうだ。華志月りんごの復活。それがこの事務所、ひいてはアイドル界にとって最大の課題だ」

「どういうことです? 彼女に何か秀でたものがあるとでも?」

「……話しておこう。華志月りんごの真実を」


 そう言って、社長はワイングラスを待って窓辺へと移動した。月明かりをどこか懐かしそうに眺める社長から発せられる言葉は未だかつてないほどに重みを感じる。


「我々の事務所のトップアイドルは誰だ?」

「それはもちろん……アップるでしょう」


 わざわざ問われるまでもないと、マネージャー二人は即答した。

 社長もその答えが返ってくるのを待っていたとばかりに即座に頷いた。


「そうだ。そのアップるは3人以上のメンバーがいるアイドルには今までにない形式がある。わかるかね?」

「リーダーの……不在」

「そう、その通りだ」


 マネージャーが即答できるほど、これも大アイドル時代の今では当たり前の知識であった。特定のリーダーが存在しないアイドルグループ。それがトップアイドル、アップるの特徴と言える。


「だが昔は違った。まだアップるのファンクラブに誰一人として加入していなかった頃、アップるは5人だった」

「えっ……でも今は」

「そう、藤宮子(ふじみやこ)王林(ワン リン)成瀬紅玉(なるせこうぎょく)小金井詩奈乃(こがねいしなの)の4人だ。しかし……アップる発足時のメンバーは5人。そしてそのリーダーだったのが……」


 マネージャー二人は息を呑んだ。今までの話の流れから、次の言葉を読んだからだ。


「ま、まさか……」

「そう、私が見つけた最高に輝く赤いダイヤモンド。華志月りんごだ」


 社長室に、長く重たい沈黙が走った。

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