50話 百合営業を忘れずに
注文した串カツたちと、サービス券を使って烏龍茶をもらった。さて、夕食を始めますか。
「明日香、どれがオススメだい?」
……そうだった。薫がいるんだったな、忘れてたよ……何しろプライベートではなかなか会わないからな。
「オススメは……まず、うずらからかな」
ぷっくり丸いうずらの卵。数多くの串カツ屋さんに行ったけど、うずらの卵の差でその店の格がわかるといっても過言では無いと宮野明日香の17年の人生が告げている。
「そうかい。ならいただきます」
丁寧に手を合わせ、薫はうずらの卵を1つ、ゆっくりと口に放り込んだ。
私も薫と同じ時を共有しようと、うずらを口へと運ぶ。
サクサクとした薄皮の衣が弾け、油が口に膜を張る。そしてうずらの卵が口の中で潰れ、柔らかみある甘さが口いっぱいに広がった。
他の人がどうかは知らないけど、私はうずらの串カツにはソースはかけない派だな。
「ふむ。確かに美味しいね」
どうやら薫も気に入ってくれたみたいだ。
……って、そんなことを気にしているわけじゃないっての!
「おい薫。何で今日はついて来たんだ?」
「ん? いや、明日香と美味しいご飯が食べたくてね」
「……クールビューティーの薫様もいいけど、素で答えてくれよな」
「ふふ、もう少し乗ってくれてもいいじゃないか。まぁ、明日香について来たのは確認のためかな」
「確認……?」
なんだ確認って。作詞の件なら小会議室内で済ませたはずだし、何よりこんな外で話すようなことでも無い。もしこのお店にファンや週刊誌の人がいたらと考えるとな。
「明日香はこれからの百合営業、どうしたい?」
「ゆっ!」
百合営業!? と全力で叫びそうになった。危ない危ない。外であのイチャイチャが嘘ってバレたらとんでも無いことだしな。
「どうしたいってそりゃ私は……その……」
もう百合営業ではなく、本当に百合にしたいところだけど……そんなことを言ったら揶揄われて恥ずかしい思いをするだけな気がする。
もどかしい思いを抱えながら、どうすればいいのか思案する。出した答えは……
「わ、私は継続でいいんじゃないかと思うけど……」
とりあえず、薫とはイチャイチャできるルートを選択した。そうじゃないとやってられないしな。
「そうかい。私と同意見だね。なら……」
薫は言葉を紡いで、私に串を向けてきた。
「……な、何だよ」
「何だよって、もちろん『あーん』だよ」
「なっ!?」
こ、こんなところで『あーん』だと!? で、でも悪い気はしない。
「んじゃ……あーん」
パクッと、薫が1つ食べたうずらの卵の串に食いかかった。
なんだかさっき食べたうずらより甘みが増した気がする。
……というかこのお店、ほとんど女性客だから百合営業の効果なんて薄い気がするんだけど、薫は何を狙っているんだろうか……。
私は薫からの『あーん』に浮かれ、灰色の視線に気がつくことができなかった。




