40話 決意の……
そしてようやく私たちの順番が来た。立っているには少し勾配が急に感じる。引き寄せられるように舞台の端の手すりの方へと歩いて行った。もちろん、手は繋いだまま。
人数制限はかけているとはいってもあっちを見ても人、こっちを見ても人。東京駅に負けないくらいの人たちで溢れている。ここで言うのか……ちょっと無理かも、なんて怖気付く。いや……ダメだダメだと首を振る。おもかる石が気づかせてくれただろ、神頼みじゃなく、自分で動かないと望みは叶わないって。
薫に気づかれないようにそっと深呼吸をする。落ち着いたら清水の舞台に吹く優しい風を感じた。まるで私の背中を押してくれるみたいな風だ。よし、言うか!
「なぁ薫、ひとつ聞いてくれるか?」
「ん? なんだい?」
変な間が生まれることもなく自然に会話を始めることができた。こういうのは最初が肝心。ここで躓くとグダグダしちゃうからな。また緊張がぶり返してきたけど息を思いっきり吸って緊張を吹き飛ばす。
「私……薫のこと、嫌いだった」
「えっ……」
顔は見えないけど、おそらく悲しい表情をしているだろう。だって、声色が薫のものとは思えないほど弱々しいから。
「ナルシストだし、私を煽ってくるし、小言を口うるさく言うし。薫とは上手くいくだなんて思ってもいなかった」
正直に、今まで何かと理由をつけては隠していた本心を包み隠さず薫に伝える。
「……なぜそれを今ここで?」
当然の質問が薫から飛んでくる。こんなたくさんの人がいる清水の舞台でするような告白じゃないだろう。でも……この舞台だからこそ、私の背中を押してくれる環境だからこそ、弱い私でも言えるんだ!
「最後まで聞いてくれ。その考えは百合営業を通して変わっていった。薫の……今まで見えなかった弱いところ、可愛いところ、無知なところ。そんな隙だらけなところを見て私はちょっと楽しかったんだ」
こんな恥ずかしい言葉を改まって言うことになるとは思ってもいなかった。清水の舞台が必要以上に背中を押してくれるせいで余計なことまで口走ってしまう。
「そう自覚した時、薫の目が見れなくなった。たぶん……ひとつの可能性を認めたくなかったんだと思う。それを認めたら薫を嫌いな自分を否定することになると思ったんだろうな。でももう逃げない。私はこの可能性を、確信だと思った!」
ぐっと力を込めて前を見る。久し振りに薫と目を合わせた。改めて見ると美人すぎて引きそうになるけど、今はもう引くに引けない状況。ここは押し通せ!
息を吸い込み、思いっきり叫ぶ。
「私は……泉薫が好きだ!」
言えた……言えたんだ! ずっと否定していたこの気持ちを、ようやく肯定することができた。清水の舞台に、おもかる石に、しゃぶしゃぶに、色々なものに肯定されてようやく、口にすることができたんだ!
思いっきり力を込めて叫んだから無意識のうちに目をつぶってしまった。薫の様子を伺うことはできない。あとは薫がどんな言葉を紡ぐのか次第だ。
耳を澄まして、一言一句を聞き漏らさない準備をして待っていた。が、言葉は返ってこない。その代わりかギュッと強く抱き寄せられた。
「え、えぇ!?」
これは流石に驚きの声を上げざるを得ない。予想外すぎる行動。まずは告白の返事からだと思っていたのに。
恐る恐る目を開けてみると薫の大胆な行動に周りの観光客はみんなこちらを見ていた。ついでにスマホで動画を撮っている人もいる。恥ずかしいったらありゃしない!
「その言葉、ずっと待っていたよ」
返ってきた言葉を危うく聞き逃しそうになった。でも聞けたぞ……待ってたってことは薫も私のことが好きってことだよな? なら……やることはひとつだ!
「じゃ、じゃあいいんだよな? 私……もうヤケになってるからなんでもするぞ?」
「何を考えているかはわからないけど、いいよ」
思えば百合営業を始めてすぐの頃、チュウチュウランドのナイトパレードの時にからかわれたんだっけ。今度は指の壁も無くしてやるよ、薫!
思いっきり力を込めて背伸びをして、薫と目線を合わせる。そしてそのまま少し体を傾け、薫と唇を合わせた。もちろん間に指を挟むなんてつまらない真似はしない。これが私の……本気の思いだ!
キスをしている間、聴こえてくるのはスマホや本格的なカメラのシャッター音。記者もいるっぽいな。百合営業としても、宮野明日香としてもこのキスには大きな意義がある。
唇を離して薫を見つめると顔から火が出そうなくらいに恥ずかしさがこみ上げてきた。薫の方は至って冷静な表情をしている。すごいなコイツは。
ふてぶてしく手を差し出した私とは対照的に、優しくそっと手を差し出してきた薫。私はその手を取って歩き出した。ヤケになっているとは言えもう周りの視線が気になりすぎてヤバい。早くここから退散したい気持ちでいっぱいだ。
清水の舞台から降りるとマネージャーが拍手をして迎えてくれた。
「よくやったわねあなた達! そのプロ意識、尊敬するわ!」
私たちがガチキスではなく百合営業のためのキスをしたと思っているマネージャーは半分泣きそうな顔で拍手をしていた。まぁ普通に考えて仕事のためにキスをするってなかなかすごいことだからな。
「もう帰ろうか。ちょっとすごい人になってるしね」
お昼の時間になるにつれてどんどん人が増えてきた。帰るのもひと苦労だな。
なんとか人の波を乗り越えてタクシーに乗り込み駅に向かう。新幹線に乗り込み、座った座席では薫と手を繋いでいた。幸せってこういうことを指す言葉なのかな。
握った手からほんのり感じる薫の体温を感じながら東京へ帰る。あぁ……ありがとう京都。おかげで勇気を持って告白できたし、幸せを掴むこともできた。これから私、大好きな薫と一緒に楽しく生きていけると思う! 宮野明日香としても、felizとしても。
次回で第1章はおしまいです!




