26話 この気持ちは?
そんなこんなで葛西臨海公園の海辺へ移動。お世辞にも綺麗とは言えないけれど海ってだけで案外テンションは上がるものだな。
「さぁ、最後の撮影ね。『手を繋いでさぁ行こうよあの海へきっと世界は1つになるから』の部分だから……まぁそのまま手を繋ぎながら歩いて行って、最後は沈む夕日に黄昏るって感じでいいんじゃないかしら?」
おぉ、ミュージックビデオっぽいけど、アイドルのミュージックビデオってよりはバンドのミュージックビデオのイメージが頭に流れたぞ? まぁ細かいことは気にせずに撮った方がいいな。
というわけで薫とまた恋人繋ぎになって浜辺から海へ向かって歩いていく。いい雰囲気は確かに出ているな。私もちょっとドキドキしてるし。
「じゃあラストの撮影いくわよ! 3、2、1……」
歩いている時の表情は薫に合わせて少し切なげにする。サビに入る前のしっとりしたイメージで入っていくけど、だんだん表情を明るくさせて希望があるんだってことを伝える。私たち女優になれるんじゃね?
「はいカーット! いい感じじゃない」
「はぁ〜疲れた〜」
「そうかい? 私は楽しかったよ」
今日の撮影が楽しかった? なんか突っ込みどころ満載だったのと人目のつくところでイチャイチャさせられて病み上がりの体にはキツかったんだけど。
疲れたからと早々に電車に乗って家に帰る。後はマネージャーが動画を編集して明後日くらいには動画がDoTubeにあがるらしい。なんだかんだ言ってもちょっと楽しみだな。
それにしても最近の私、何か変だ。薫に見つめられると心臓が高鳴ってくる。恐怖心? それは違う気がする。薫にチクチク言われて感じるのは恐怖ではない。ならあの心臓の高鳴りは何だろう。
電車に揺られながら薫の顔を思い浮かべる。最近は色々な顔を見るようになった。笑う顔、ニヤける顔、焦る顔、困惑する顔、弱った顔、頼もしい顔。そのどれを思い出してもドキドキする。
本当は1つの結論はもう出ている。でもそれを意識するのが怖かった。それを自覚してしまったら、私は薫とどう向き合えばいいのかわからなくなる。
家に到着して即ベットにダイブする。枕に顔をうずめ、絶対に声が漏れないという環境で1人ポツンと呟く。
「……私、薫のこと好き、なのかな」
この言葉に返ってくる言葉はなかった。




