116話 お泊まり
「さて、今日はどうするんだい? このまま帰るのかい?」
「え……まぁそのつもりだったけど、なにか用事か?」
「うん。泊まっていくといい」
薫は王子様スマイルを私に投げかけた。
泊まっていく……のは実は想定の範囲内であったりする。私は薫が体調不良だと思って今日来ているからな、体調悪かった時の薫、めっちゃ甘えてきたのは記憶に新しいから普通に泊まりもあるだろうと思っていた。
「んじゃ、お言葉に甘えて泊まらせてもらうわ。写真撮るぞ。お泊まり会って」
「あぁいいよ。1週間サボってしまったせいで遅れが生じているだろうからね。すまないね、明日香」
「いいって。メンタルを整えるのもアイドルの重要な仕事だからな。ほれ、近く寄れ」
私は躊躇うことなく薫の肩を抱き寄せて、私の肩と触れさせた。こんなに至近距離での写真を撮ればイチャついているようにしか見えないだろ。
よし、イソクサグラムに投稿完了。
「……明日香、ずいぶんと小慣れたものだね」
「そうか? まぁ……そうかも? 百合営業始めてから結構経つし」
イソクサグラムに写真を投稿してからはいそいそと夕ご飯の準備を始める。薫よりは料理できる自信あるし、私が作っても問題ないよな? キッチンに立っても薫、何も言わないし。
持ってきた食材で簡単にオムライスでも作れそうだな。ご飯炊いてあるし。まぁオムライスならもう少し後でもいっか。
「ふぅ。薫の話は新鮮だな。あんまり言わなかったじゃん、そういうこと」
「まぁ話しても仕方のないことだからね。最近は心に変化が生じたから自分と向き合ってみたんだよ」
「この遅れを取り返すくらい働いてくれるんだろうな?」
「当然。私を誰だと思っているんだい?」
そう言って薫はいたずらっ子のように笑ってみせた。うん、頼りになるいつもの薫だな。
それからはマネージャーが怒っていなかったかや学校でのことを話し、いい時間になったら私がオムライスを作って一緒に食べた。
カメラも何もない空間でこんなに薫と仲良くできるなんて思ってもいなかった。ずっとずっと犬猿の仲だったのに、ここ最近は仲良くなれている。
私は……あまり変わったとは思えない。だとしたら変わったのは薫の方ということになる。言葉に棘が無くなったしな。
夜もふけてきて、お風呂を借りて歯を磨いたら就寝タイムだ。
「おいで明日香。一緒に寝よう」
「へいへい」
王子様は一人で寝るのがお嫌いなようだ。
ベッドに入ると嫌でも薫の体温を感じる。体温を感じると、生配信でのハグとキスを思い出す。
これは……眠れる夜になるだろうか。




