第二十一話 旅立ち
作風を変えたりしてる事ありますが、どれが一番いいのか正直迷いますね。
「かいもーんっ!」
壮絶な夜を過ごしたこの村ともお別れだ。色々な初体験をしたこともあって馴染みができてしまった。
「すいませんね、わざわざ修理を手伝ってくださって。感謝します、シルヴァーノさん」
「シルヴァーノでいいですよ、これでも十七歳ですから」
「あははっ、そういえばそうでしたね」
この村の人々は本当にいい人ばかりだ。あの後、一騒動起こしつつもライリーが彼らを説得してくれたおかげで僕の立場を理解してくれた。
「この先の道を真っ直ぐ行けば、国境近くのテュノス川が見えてきます。それからそこの橋を渡ればヒルベート大陸です」
今後の予定が決まった。この身体を元に戻す手掛かりを手にするために魔術国家セフィラを目的地にした。
「気をつけてくださいよ? 国境地帯は取り締まりが強いのであまり不用意に目立たない事が約束ですから」
「この体で目立つなと言われてもハードルがきついんですけど…」
「いや、その…頑張ってね?」
「励まさないで! なんか異様に胸の奥に来ますからっ!!」
…とはいっても、全身装甲装備の人間を普通とは言わないのは事実だよね。どうしようか、全身火傷を負っているから脱ぎたくないとか、ライリーが述べたゴーレムという存在だからと説明してみようかな?
〈前者は調べられたら結果的にアウトじゃが、後者は目的地を考えると「飛んで火に入る夏の虫」じゃな〉
「八方ふさがりなのね!?」
本当にどうやって国境を通ればいいんだろう。これだけの考えでは後々辿り着いても『不審者』か『実験物』としての扱いをされるのが目にみえているしね。
〈それならあれが手っ取り早いじゃろ?〉
「えっ、いい方法あるんなら教えてよフィロ」
〈ずばり、密入国じゃ!〉
「…期待して聞いた僕が馬鹿だったよ」
〈なにを! 妾なんぞ毎回人間共の街を襲撃する際は『不法侵入』じゃったぞ! 密入国ぐらいなんじゃいっ!!〉
「お前はそんな事を誇るより規則を守るという意識がないのかよっ!」
〈ない!〉
「そんな事でえばるなっ!」
そうツッこんだ僕は頭が痛くなった。魔人という種族で生きていた頃は本当に好き勝手やっていたように考えられるよ。まるでアレット伯母さんみたいだ。本人が聞いたら烈火のごとく怒りだすかもしれないけどね。
話は変わるけど、伯母さんの武勇伝をいくつか聞いたことがあるので少し説明してみよう。
ある日、伯母さんが仲間達とお気に入りの菓子屋にいったそうだ。そこは駐車場もあってバイクをよく使う伯母さんも重宝していた店だったんだ。その日はいつもと違ったことがあった。違法駐車をしていた人がいたんだ。店の扉の前を塞ぐように駐車していた人間はがらの悪そうな人で、店員さんも何度も注意をしていたらしいけど聞く耳もたなかったらしい。
当然、邪魔をされた伯母さんは怒った。それで、何をしたかと思う? その時間帯は夜に近かったからそうしたんだと思うけど、話を聞いても凄まじいと感じた。なんていったって――
――車上にガソリンを撒いて火を付けたんだって…。
当然、火をつけられた車は勢いを上げて燃え上がったそうだ。ボンネットには付けず、上窓部分に付けるのが『みぞ』だって伯母さんも言っていたけど、話された当時はまだ子供だった僕には何の事かさっぱり分からなかったけどね。
それ以来、その人の車は店に来なかったそうだ。いや、僕達が住んでるあの町に現在住んでるかも怪しいんだけどね…。
今はセザール伯父さんと結婚しているから丸くなったと言われているけど、今でも僕にとっては恐ろしい伯母さんだ。他にも伝説はあるけど、今回はこれだけにしておこう。
「さようなら、シルヴァーノ!」
「またいつか、この村にやってこいよ!」
「今度はパーティでも開いて歓迎してあげるからね!」
いつのまにか、後ろには村人達が集まって僕の門出を祝ってくれていた。そんな彼らに応じ、離れていく僕も思いっきり手を振る。
「ちょっと待ったあぁぁぁっ!」
そこへ、大声を上げてこちらへと高速で向かってくるライリーが現れる。突風が土煙を上げ、5mほど離れていた距離を一気に縮められる。ライリーの姿を見ると、その右手には麻袋のようなものを手にしている。不思議な文様が布に直接描かれているタイプだ。その袋の正体に疑問を持つ中、ライリーは唐突にそれを僕へと差し出す。
「はいこれ! あなたねぇ、いくら身体がなくて食事も何も必要ないからって、最低限として剣だけを持っていくなんてそんな馬鹿な真似はないでしょうが!」
「でも僕、お金持ってないし…今は復旧で忙しい中で物を恵んでもらうのは気が引けたというか……」
「まったく、親切にもほどがあるわよ。そんなことだろうと思ったからわざわざこれを持ってきたのよ?」
手渡された袋は一見、どこにでもあるような荷物袋だ。大きさを見ても、サッカーボールが一つ入るくらいの代物だ。何が入っているのか気になり、おもむろに封を解いた僕はその中に手を突っ込む。
すると、不思議な現象が起こった。袋の内側にすぐ到着するかと思われた手はそのまま肩まで飲み込まれる。ありえない現象に僕は驚きつつ、この袋がなんなのかライリーへと尋ねる。
「『圧縮』、『拡張』の刻印を組み合わせて作った道具袋よ。感謝しなさいよね、市販のと違って私直々に作り上げた特注品なんだから」
ふと、手の先に何かが触れたのを感じ、とっさに掴んで引きずり出すと、出るわ出るわ地図やら本やら野宿道具やらと袋のキャパシティを超えた物品が入っていた。
こんなに入っているなんて、驚きを通り越して感謝の意でいっぱいとなる。でも、なんでこんなものを? 僕はよく分からないでいた。
「…長旅になるかもしれないからね」
「えっ、どういう意味なの?」
「はっきり言って、あなたの身体の事はかなり複雑な状況よ。このままセフィラに行っても直ぐに簡単に解決できるとは思えないのよ」
そうなんだ、やっぱり難しいんだ。人間の身体を取り戻すためにはたとえ石に齧りついてでも探すつもりだったけど、あらためて教えられれば少し落ち込むな。だけど、このままへこたれている訳にはいかない。絶対帰るんだ、身体を取り戻して元の世界に…。
そのための第一歩であると僕は信じたい。
「ありがとう、この道具は大事に使わせてもらうよ」
「あら、なんか勘違いしているようね?」
「へっ?」
「言っとくけどそれはいわば『貸し』みたいなものよ? 今度再会したときは私の言う事を一つだけ聞いてもらうって約束しなさいね」
…さいですか、無料では済まさないと言う訳ですか。ちなみに、希望は? 出来る限りなら叶えてあげてもいいよ。
「今度は分解だけじゃなく、本格的な実験を…」
「そっちの方面は断固無しにしてねっ!」
「何よ、けち……」
結局、ライリーはライリーなんだね…。言っちゃ悪いと思うけど、願わくば二度と会う事が無いのを望みたいよ。友達としてだったら会いに行ってもいいけどね。
取り敢えずはテュノス川を目指すのが先決だ。そこにある橋以外で大陸を渡るのは渓谷によって遮られているから不可能だと話に聞いてある。
〈それにしても、貧弱な剣じゃのう。ビアルを一匹仕留めたら直ぐに刃こぼれをおこしかねん代物じゃな〉
「あぁ、これ? そうだとしても、あの村で売られているのは護身用的な代物で量産型しかないんだって。だからこれしかないから仕方が無いよ」
腰に差している剣は村の武器屋から餞別として新品のを譲り受けたんだけど、あまり長持ちしなさそうで使い勝手が悪そうだ。剣術を習う際ではアルミの模擬剣を使っていたから壊れる事を気にせずにいたけど、本物の剣と実践剣術となると使い方もやり方も何もかもが違ってくる。よく剣には映画や御伽話で壊れる事も切れ味を無くす事もない名剣という物が存在するように描写されているけど、現実ではそんな物は存在しないさ。
風化、血糊、衝撃、他にも様々な要因が一本の剣を本格的に扱う場合には襲いかかるからね。結論を言えば、本来の使い方で剣を扱っていると、どんなに良い物でも二日も持たない。
さらに言えば、剣とは扱いにはデリケートな処置が必要な武器ともいえる。現に僕はこれまで剣を三本、槍を二本も駄目にして戦い抜いたんだ。
「でも、僕は剣で人を殺さない。そうするつもりだ…いや、剣だけの話じゃない」
〈だから、装備など大層な物でなくても十分と…そう言うのか?〉
いや、出来れば頑丈な類の剣を手に入れられるなら欲しいと思うよ。壊しては取り替えるといった動作を何度も繰り返すのは腰が折れるものだろうから。そうなると、鍛冶屋なんて物も探してみるかな?
〈気分をワクワクさせている所でなんじゃが、根本的な問題を残しておるぞお前〉
「…根本的?」
フィロが言う根本的問題、それは、
〈『無一文』じゃろうがお前、そんな奴に誰が好き好んで剣を作ってやるんじゃ?〉
「あっ……」
そうだった。装備云々(うんぬん)言う前に、僕にはお金が必要なのかもしれない。これはうっかりだ。
「タヴレスのお金ってどういう物なの?」
〈晶石と呼ばれる特殊な鉱石で作られた板貨で物品は流通されとる。やれやれ、この世界では子供でも知っている事だというのに。異世界人は知識不足で何事も不便じゃのぅ〉
「…それって僕の事を馬鹿にしてる?」
〈くくくっ、さてのう?〉
よし、付き合ってやる。そんな常識なんて直ぐに覚えてやろうじゃないか! そう意気込んでフィロの特別講座は始まるんだけど、高度な分野にまで発展させられてついてこれなくなるのが僕の定番なんだけどね。けどやらないよりはましかな、旅はまだ始まったばかりだ。時間はタップリとあるんだから。
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